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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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相容れぬ正義 3

 

 投石機で陣地の中にまで侵入してきたポイズンピルバグズによって、弓兵部隊は混乱の最中にいた。彼等は弓と短剣で応戦するが、あの堅い甲殻には小さな傷しか付けられない。


 弓兵の危険に前に出ていた歩兵が戻り、魔法士達は各々の属性魔法でポイズンピルバグズに攻撃する。


 これにはいくら頑丈な甲殻を持っていても防ぎきれない。しかし、トロールは尚も投石機でポイズンピルバグズを飛ばしてくる。やはり先にあれらを全部破壊するべきか。


『クレス! いくら貴方でもあれだけの魔物相手に一人で向かっては、魔力が持たない。ここは耐えるのだ! 皆を守るのではないのか? 』


『…… ポイズンピルバグズの出血毒は危険。 …… 放っておけば確実に死者は増える』


 レイシアとリリィから魔力念話で注意を受ける。ここは二人の意見を尊重して、今はポイズンピルバグズを倒すことに専念した僕は、聖剣から光の刃を伸ばして投石機によって飛んでくるポイズンピルバグズを、落ちきる前に真っ二つに切り裂く。



 前ではゴーレム兵が魔物の抑え、それをリラグンドの兵士が仕留める。他にも他国からの援軍も奮闘しているが、我先にと先陣をきって敵の陣地に攻め込む者達がいた。


『何とも凄まじいな。これが死を覚悟した者達の戦いか…… けれど、何故だか彼等の姿をみると、称賛よりも無性にやるせなさを感じてしまうな』


『…… 命を捨てる覚悟をした者達は確かに強い。…… けど、同時に危険も孕むもの。…… 水の勇者候補は何を考えているのだろう? 』


 それは僕も知りたい。アロルドは何を思い、何を感じて彼等を率いているのか…… 死を前提とした突撃。それはアロルドが義勇兵達に鼓舞した言葉通り、激流となって魔物を飲み込み突き進んでいく。


 ゴブリンの剣に斬られても、シールドアントに弾き飛ばされても、ソルジャーアントの牙の餌食になっても、オーガの拳に潰されても、彼等は止まる気配を見せないどころか益々激しくなる。


 仲間が一人倒れる毎に士気は高まっていく。次は自分の番だと言うように笑う兵士達は、まるで喜んでいるかに見えた。魔物を憎み、仲間の死を羨み、一体でも多くの魔物を仕留めようと鬼気迫る勢いで剣を振るう。


 端から見たら死をも恐れぬ勇敢な兵士達。しかし僕の目には、魔物を巻き込んだ集団自殺にしか見えなかった。



 僕とレイシアとリリィが守りに徹している間にも、アロルドを先頭に義勇兵達は中央突破をする勢いで魔王軍の中に突っ込んでいく。


 これは流石に危ない。他の部隊と足並みを揃えず無理に攻めれば、孤立して包囲されてしまう。


 飛んできたポイズンピルバグズは粗方仕留めた。例え死を望んでいたとしても、僕のすべきことは変わらない。


『レイシア、リリィ。後は任せてもいいかな? 僕は彼等を引き戻してくる』


『招致した! 私達に任されよ!! 』


『…… 魔力の残量には気をつけて。…… ここにライルはいないのだから、無理はしないで』


 リリィの言葉に思わず苦笑してしまう。そう、確かにライル君が此処にいてくれたなら、あの計り知れない非常識な魔力で常に補充をしてくれるので、僕一人でも敵陣のど真ん中に攻め込めるのに…… いや、彼にはカーミラの企みを阻止するという大事な役目があるんだ。我が儘を言っている場合ではないな。



 僕は魔法で光を身に纏い、アロルドの所まで光速で移動する。



 突然眩い光と共に姿を現した僕に、アロルドは一瞬だけ驚いた顔を見せるが、すぐに攻撃的な笑みを浮かべた。


「漸くご登場か…… 遅かったな、何をしていた? 」


「アロルド! 前に出過ぎだ!! ここは一旦退いて他の部隊と合流しよう。このままでは囲まれてしまうぞ! 」


「それがどうした? もうこの流れは止められない。俺達が全滅するか、奴等を殲滅するまで止まる気はない! 」


 駄目だ…… 何を言っても彼には僕の声が届かず、義勇兵が死んでいく。今の僕に出来るのは、彼等を守り抜くことだけ。


 聖剣の効果で強化された光魔法を駆使して、防御など微塵も考えていないような動きを見せる義勇兵を守る。危ない所を助けてもそこに感謝はなく、また自ら死へと飛び込んでいく。中には邪魔をするな! と怒鳴る者もいた。


 何が彼等をそうさせるのか…… 僕には何となく分かる気がする。僕も命を投げ出し相討ち覚悟でオークキングに向かって行った時、僕の死と引き換えにオークキングを倒すことによって、世界に貢献できるのだと本気で思っていた。それがただの自己満足でしかないと気付かずに……


 彼等は少し前の僕と同じ―― いや、僕よりもっと拗れている。世界の平和と正義の為なら、自分が傷つく事も、命すら失うのも厭わない。


 だからこそ、僕は彼等を放ってはおけない。戦争だから仕方ない、死ぬ為に此処まで来た―― 違う…… 僕達は未来を繋ぐ為に戦うんだ。これは人類が生き抜く為の戦争だ。断じて初めから死ぬつもりで来る場所じゃない!


 どんなに彼等から怒りや恨みを買ったとしても、僕は日が落ちるまで守り続けた。







 そろそろ魔力が尽きかけようとしていた時、僕は目を疑う光景を目の当たりにした。魔物が、魔王軍が撤退していく…… 日の入りと共に軍を退いていく魔物に不可解なものを感じるが、正直助かったとも思った。


 今が絶好の機会だと、追撃をしようとするアロルドを他の司令官と止め、どうにか思いとどませる。


 夜はアンデッドの時間。深追いは予期せぬ危険が待ち構えている可能性があり、本陣にレイスといったアンデットが夜襲を掛けてくると思っていた。


 しかし、どんなに警戒していてもアンデッドが攻めてくる気配はなく、誰もが首を傾げる。


 夜に軍を退かせたのは、てっきりアンデッドで攻めている間に、昼に戦っていた魔物を休ませる為だと思ったのだけど、どうやら違うようだ。


 何にせよ、こちらも負傷者が多い。彼等をリラグンドの魔術師が持つ転移魔術で戦線基地へと戻す。基地には聖教国から派遣された神官達がいるので、すぐに怪我はよくなるだろう。


 もう立っているのもツラいが、まだすべき事がある。アロルドの真意を問い質そうと、僕はレイシアとリリィを伴い、地面に座り込む義勇兵達の中を進んだ。

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