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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 その後、母さん達にイレーネとソフィアを紹介し、転移門でエルマンの邸に戻り二日が経った。


「いいよ~、その調子! 上手いじゃない」


「あったり前よ! あたしが教えてんだから!! 」


 中庭で今日も騒がしい妖精達とソフィアが魔力操作を使ってキャッチボールをしている。糸を丸くぐるぐる巻きにしただけのお粗末様なボールを、魔力で操り手を使わずに投げ合うという遊びを通して、ソフィアに魔力操作を教えているようだ。今度ゴムボールでも作ってやろうかな。


 この二日間、ソフィアの傍に必ず妖精が一人はいるようになった。初めこそ突然現れた妖精達に邸の使用人も驚き困惑していたけど、今では我が儘放題の妖精を軽くあしらう程に慣れてしまっている。


 イレーネは邸の中が随分と賑やかになって楽しいと笑ってくれるけど、賑やかにも限度ってものがあるんじゃないかな? まぁ物を壊さないだけまだ良いとは思うけどさ。


 そしてエルマンと言えば、あれから足しげく転移門を通っては地下市場へ顔を出している。本人曰く、あそこは商機に溢れているらしい。時間と体が足りなくて困ってしまうなんて充実した顔で言っていたよ。今は人魚と約束していた岩塩を持って行っている。



 ここまでなら平和な日常が続いていると思ってしまうだろうけど、今が戦時中だというのを忘れてはならない。


 俺がこの首都に着いた翌日に、シュタット王国で魔王軍との戦争が遂に開戦したと、仲間から報告を受けたエルマンに教えて貰った。


 クレス達の様子が気になるところだが、戦いの邪魔になるかも知れないので、マナフォンでの連絡はしていない。だけどもし、向こうから助けを求めて来たのなら、その時は真っ先に彼等の下へと向かうつもりだ。


 今のところ戦況は人間側が有利ではあるけど、被害が無いわけではない。戦争だから仕方ないとは言え、さぞかしクレスは悔しい思いをしているだろう。躍起になって無理をしてないと良いけど…… レイシアとリリィが彼を支えてくれている事を願うよ。






「今日はねぇ、妖精さんが二人も遊びに来てくれたの」


 夕食時、いつもの食卓に着くソフィアが、帰ってきたエルマンにニコニコと笑顔を浮かべては、何をして遊んだとか報告する。そして話にあった妖精の二人は、アンネと一緒に肉を貪っていた。


「ちょっ、女王様ずるい! あの肉、あたしが狙ってたのに~」


「あたしの肉も盗らないでよー! 」


「ヌハハハ! 所詮この世は弱肉強食。弱いやつから消えていくのだぁ!! 」


 肉を奪い合う妖精にイレーネは、賑やかねぇ…… なんて言っていたけど、あれは賑やかで済まされるものではないと思うよ?



「それにしても、あの他種族の方々が集まる地下市場は本当に素晴らしいですね。あそこで商売を始めるだけで一財産築く事が出来ますよ」


「喜んで頂けたようで何よりです。でしたら、これから仕入れる肉の仕入れ額を下げてもらうなんて事は…… 」


「そこはまた別です。今の売り値でもかなりギリギリなのですよ? 」


 やっぱり駄目だったか。その後もソフィアの話を聞きながら食事を済ませた俺は、エルマンの部屋を訪ねていた。



「どうかしましたか? 先程も言ったようにこれ以上の値段交渉は無理ですよ? 」


「それは残念ですが、その話ではなくて魔王軍との戦況についてお聞きしたくて」


 仕事机に着いていたエルマンが立ち上がりソファへと移動し、対面のソファにどうぞと勧めてくる。


「今お茶を用意致しますね」


 エルマンが呼び鈴を鳴らせば、使用人が部屋に来てお茶の用意をしてくれる。


「あ、これはもしかして…… 」


「分かりますか? デットゥール商会の茶葉です。西商店街の支店から個人用として買ってみました。やはり帝国一の茶商の茶葉は香りも味も他とは全然違いますね」


 もう西商店街まで足を運んでいるのか。その体型に反してフットワークが軽いな。


「ふぅ…… 今の魔王軍との戦況を知りたいのでしたね? 私の方もそう頻繁に連絡を交わしている訳ではありませんので最近のは分かりませんが、昨日報告を受けた内容によれば勇者候補のお二人がかなりご活躍しているとの事です」


 へぇ…… それはそれで無理をしていないか心配になるな。


「じゃあ、人間側が有利なのは変わらないのですね? 」


「はい。今の所は、ですが…… 」


「何か気になる事でも? 」


 エルマンは残っている紅茶をぐいっと飲み干し一息つく。


「魔王軍は朝になると攻め、日が沈むと撤退するのを繰り返しているようなのです」


 うん? 俺は戦争に詳しくはないので分からないけど、それって普通なのか? 夜戦とかは仕掛けないのかな?


「魔王軍には疲れの知らない魔物もいますし、夜に実力を発揮するアンデッドもいる。なぜ夜襲をしてこないのか…… そもそも魔王本体は戦争に参加せず、姿を見せません。一体何を企んでいるのでしょうかね? 」


 う~ん、確かにエルマンの言うようにアンデッドがいるのなら夜襲を仕掛けるのが普通だと思う。しかし、魔王軍は朝に戦いを始め、夜には退くという行動を繰り返している。人間側もそれには不可解と感じて深追いはしていないらしい。これは思ったより長引きそうだ。


 戦争が長引けばそれだけ此方の損害は大きくなるし、人材も物資にも限りがある。焦って無茶な行動に出ないと良いけど……

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