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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 休憩を終え、俺はエルマンを外へと連れ出し、南商店街の現状を見せる為に案内を始めた。





「成る程…… 一見すれば様々な店が並び、活気があるように思えます。ライルさんの言うように個人の利益だけなら良いのですが、商店街全体として捉えれば些か厳しいものがありますね。こう言うのも何ですけど、デットゥール商会が南商店街に支店を出さなかったのが理解できます」


「何か良い改善案はありませんか? 」


「う~ん…… そもそもここは最近まで他の商店街のように代表となる者がいなかった訳ですよね? 気を悪くしないで欲しいのですが、ライルさんのように経験も浅く若い代表では、頼り無く思えてしまうものです。話を聞く限りでは、今までは自分の尻に火がついていた状況だったからこそ一時的に纏り、今は各々で十分に利益を出せているので、また元の個人事業へと戻りつつあるようですね。まぁ、それが悪いとは言えません。しかし、商店街という括りで見れば話は別です」


「つまり、纏める立場である私の経験と力不足だと? 」


 歩道の隅で立ち止まり言葉を投げ掛ける俺に、少し先に進んでいたエルマンが振り返って困った顔を浮かべ、それが全てではありませんがね…… と付け加えた。


「後は、頻繁に店主同士での集会を行うのは如何ですか? ライルさんがどんなにこの商店街を良くしたいと行動していても、周りの理解と賛同が得られなければ全部が徒労となってしまいます。いくら代表だからといって、ライルさん一人で何もかもを背負わなくても良いのではありませんか? 何度も言うようですが、商売は信用が第一ですからね」


 確かに、最近の俺は新しいものを南商店街に取り入れ活気をつける事ばかりに拘り、同じ商店街の仲間の意見や考えなんて聞いていなかったな。これからは定期的に集まり、どんな商店街にしたいかを皆で話し合って、目的と指針を定める事から始めなければならかなかったのに…… 全員の意識がバラバラじゃ、纏まる訳がないよな。


「エルマンさん、ありがとうございます。これからはもっと皆で良く話し合いたいと思います」


「いえ、此方こそ差し出がましい事を言ってしまい、申し訳ありませんでした」



 そうと決まれば、各店舗の店主が集まれる集会所が必要となるな。新しい店が増えていると言っても、まだこの商店街には土地が余っている。何処か適当な場所を買ってそこに建てるか。土地の購入費用は皆で折半だけど。




「おや? 彼処に見えるのは…… 妖精の群れ、ですかね? 」


 暫く南商店街を散策していると、向こうから沢山の妖精に囲まれた二人の人物が歩いてくるのが見える。その内の一人がブンブンと元気良く此方に手を振っていた。





「パパ! うみって、しょっぱくて、すっごく広いんだよ! それにね、妖精さん達のお友だちもこんなにできたの!! 」


「そうか、良かったなぁ」


 テンションが最高潮になっているソフィアが、走り寄ってきてはエルマンに勢い良く抱きついた。エルマンはそんな娘を慈愛に満ちた目をして優しく撫でる。


「おっ! そっちももう用事は済んだの? 」


「あぁ。それにしても、凄い数だな。海を見せていただけじゃないのか? 」


「あのねぇ、あたしがソフィアちゃんといられる時間も少ないし暇もないじゃない? だったら暇な子達がソフィアちゃんの傍にいたら良いと思ってさ。これからはソフィアちゃんが寂しくないように常に最低でも一人は妖精がつくようにしたのよ。これなら傍にいる妖精が転移門を発動させて、好きな時に此処に来れるでしょ? 」


 いくら転移門に魔力結晶を仕込んだからとはいえ、ソフィアのような子供では魔道具を一人で発動させるのは無理だ。それに妖精がついてるというだけで護衛にもなるし、この先アンネがいなくとも魔力操作は学べる。


「へぇ…… 良いじゃないか」


「でしょ! あたしだって色々と考えてんのよ」


 インファネースを堪能したソフィアが、イレーネとエルマンの間に入って、片方ずつ手を繋いで歩いていく様子を後ろから眺める。絵にかいたような幸せ家族って感じだな。


 いつか俺もあんな風に妻と子供を持つ日が来るのだろうか? 前世の時でも思っていたけど、自分がそんな風になっている所が想像出来ないんだよな。別に結婚して家庭を持ちたくない訳ではないのだけれど…… 何故だが自分には程遠い世界に見えてしまう。


 そうやってエルマン達を眺めていると、不意に右肩に暖かな温もりが伝わってくる。横を向けばエレミアが俺の肩に寄り添い歩いていた。


「そんな羨ましそうにしなくても、ライルには私が―― 私達がいるわ」


 まいったな、無自覚に俺は羨望の目差しでエルマン達を後ろから眺めていたようだ。それをエレミアに気付かれてしまった恥ずかしさと肩越しに伝わる彼女の体温に、顔に熱が集まっていくのが分かる。きっと俺の顔は茹で蛸のように赤くなっている事だろう。


「…… 歩きづらいんだけど? 」


 誤魔化すように口から出た言葉に、エレミアは小さく笑った。俺が照れているのを見透かされているようで、ついエレミアとは反対の方に顔を背けてしまうが、益々笑いが大きくなる。


 くそぉ…… 男して情けないけど、エレミアが嬉しそうにしてるから良いか。

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