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村外れにある借家へ戻り、エルマンと冒険者達が村に残っていた商会の人達に事のあらましを説明する。
村に残っていた商会員達は、ガーゴイルとそれを操るウェアウルフの存在にザワつき、バルドゥインの話になる頃には誰も口を開く者はいなかった。
「で、俺達はこの神官騎士と村まで帰って来られたって訳さ」
「では、ここから先はライルさんのお話を聞きましょう。先ずは、あのヴァンパイアがどうなったのか教えてくれませんか? 」
初めに俺は魔力収納の事を説明し、ギル達によってバルドゥインは倒されたと言った。彼等はバルドゥインの怖さを身をもって体験している。それがまだ生きていて俺の仲間として魔力収納にいるなんて分かったら、疑われるレベルでは済まないだろう。
「生き物すらも収納するスキルですか…… それでは、オルトンさんや黒い翼の有翼人―― 今は堕天使でしたか? それとあの龍やゴーレムも、その魔力収納の中にいたと? 」
「エルマンさんの空間収納も便利なもんだが、まさかそれ以上のスキルがあるとは思いもしなかったぜ。なぁ、冒険者になるつもりはないのか? 」
冒険者か…… 自分の店を持ち、それなりの稼ぎがあるのに態々危険と隣り合わせの冒険者になる必要性が感じられないと答える。
「それもそうか。あんなに強そうな仲間がいるのなら冒険者でもやっていけそうと思ったが、もう商人として安定した暮らしが出来てるのなら、そっちの方が良いに決まってるよな」
商人としての俺を否定するような発言をして悪かったと、冒険者達のリーダーが謝るので、気にしてないと言っておく。
「ライルさんの力はさて置き、未知の魔物についてはガーゴイルだったと結論し、ウェアウルフの存在も明るみになり、これらは全部カーミラが造ったものだと言うのも本人達の証言を得ています。そして彼等の目的であるヴァンパイアは、ライルさんの仲間が倒したと…… 」
「はい。そうです」
エルマンは真っ直ぐ俺の目を見詰めてくるので、俺も目を逸らさずに見詰め返す。
「…… 分かりました。彼等のお目当てが無くなった今、ガーゴイルも戻ってくることはないでしょうし、村長にはそう報告を致します。今後の予定ですが、変更なく首都へと向かうつもりです。何か異論はありますか? 」
エルマンの言葉に誰も異議を唱える者はいなかった。
「では、明後日には村を出発するとしましょう。皆さん、今日は色々と大変な一日でしたので、ゆっくりと休んでください」
その後、冒険者達は余程疲れていたらしく、夕食を食べ終わるとすぐに眠りにつく。するとエルマンに何やら真剣な表情で家の外へと呼び出された。まぁ理由は大体分かるけどね。
外には人工的な明かりが一切なく、月明りだけが辺りを照らし出す。今夜は満月なので、こんな夜遅くでも結構明るい。
エルマンは用心の為、借家から少し離れた場所まで歩き、くるりと振り向く。どうやら自分が王妃様に仕える諜報員だと言うのは商会の人達と冒険者達には話していないようだ。
「ライルさん。今回の魔物調査を報告する際、その魔力収納というスキルも王妃様にお伝えしなくては説明がつきません。命を救って頂いた事にはとても感謝しておりますが、こればかりは…… 誠に申し訳ありません」
エルマンが頭を下げきる前に、俺はそれを慌てて止める。
「謝罪は結構です。皆の力を貸して貰う時、覚悟はしていましたから。エルマンさんは自分の役目を全うして下さい。後は王妃様のご判断次第です」
「そうでしたか、全て承知のうえで…… 」
エルマンは何も悪くない。王妃様の信頼を裏切る訳にはいかないからね。
『あの人間を消せば王の憂いは晴れるのか? 』
『駄目だ、バルドゥイン。そんな事をしたら余計に困った事になる。頼むから止めてくれ』
『御意に』
今にも魔力収納から飛び出して来そうなバルドゥインを既の所で止める。なんでもかんでも殺せば解決すると思ってるんじゃないだろうな?
『ここはじぶんにお任せください! 』
オルトンが魔力収納から出てはエルマンと俺の間に立つ。
「オルトンさん。魔力収納からでも外の様子は分かるのですね? 」
「その通りであります。エルマン殿の忠義には感服致しますが、じぶんがライル様にお仕えしている事の意味を正しく理解して頂きたい」
「神官騎士がライルさんに…… っ!? まさか、聖教国が後ろ盾を? 」
驚くエルマンに然りと頷くオルトンは何故か誇らし気だった。
「ライル様は教皇様がお認めになられた人物。そのライル様を国の政治に利用しようとするならば、我々教会がどう出るか…… そこの所、王妃様にしかとお伝え願います」
「…… 分かりました。必ず王妃様に報告致します」
聖教国が介入するぞと暗に脅しをかけるオルトンに、エルマンも緊張の色を隠せない。
『面倒な、王の邪魔になるものは全部消してしまえばいい』
『貴方は昔から何一つ変わっていませんね。何もかも武力で解決出来るものではありませんよ? 我が主は魔王ではないのですから、人間達と敵対する必要もないので、これぐらいで十分です』
本当にバルドゥインは血の気が多いというか、思考が短絡的だな。ゲイリッヒがいてくれて助かったよ。
とにかく、これが王妃様への牽制になってくれれば良いのだけれど…… はぁ、ここ最近不安や心配事ばかり増えて溜め息が止まらないよ。