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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 これは非常にヤバイ。ガーゴイル達が離れたせいで、バルドゥインの標的が変更されたみたいだ。おのれウェアウルフめ、確かに最初は余計な事をさせるなとは思ったが、何も今逃げなくても…… 一言文句でも言ってやりたいが、既に彼等の魔力が視えなくなっているので、もう逃げ出したのだろう。


 それより、目の前で今も俺を睨むバルドゥインをどうにかしないと。間近に迫る充血した眼が怖すぎて体が膠着してしまっている。


 ゆっくりとした動きでバルドゥインが猫背を更に曲げて屈んでくる。何だ? 俺に噛み付こうとしているのか? もうバルドゥインの顔が目と鼻の先まで迫った時、エレミアの蛇腹剣が横から伸びてきたが、バルドゥインは後ろへ飛び下がって避ける。


「その汚ない手で、ライルに触らないで! 」


 おぉ! 助かったよ。俺は魔力飛行で足を地面から浮かせ、急いで後退し更にバルドゥインから距離を取る。


 ふぅ、一旦離れて気を落ち着かせよう…… 今もバルドゥインは俺を見詰めている。どうやら奴の標的にされてしまったようだ。


『うむ、お前達では奴の相手は厳しかろう。ここは我が出る』


 魔力収納から人化したギルが、自分の爪を加工して作られた大剣を持ち、バルドゥインの前へと姿を現す。


「約二千年振りか…… 我を覚えいるか? まぁ忘れていたとしても、当時貴様に潰された片目と片手の礼はさせてもらうぞ」


 勢いよく振り下ろすギルの大剣をバルドゥインは片腕で受け止めようとするが、腕ごと体を斬りつけられる。


 流石は調停者の一人である龍の爪から作られた大剣だ。切れ味が半端ないね。


 突然腕を切り落とされ、胴体にも深い傷を負ったバルドゥインも、これには少し驚いたみたいで動きが止まった。


 そこへ駆けてきたムウナが、太く膨張させた右手で強烈な一発を顔面に放ち、まともに食らったバルドゥインは大きく殴り飛ばされる。


「ライル、あれ、たべて、いいの? 」


 う、う~ん、あんなの食べて平気なのかな? なんか食中りしそうで心配だよ。


 地面に落ちているバルドゥインの腕がドロドロに溶け流体となり本体へと戻った頃には、斬られた腕は再生して元通りになっていた。


「うおりゃあぁぁ! 吸血鬼最強がなんぼのもんじゃあい!! 」


「よ、相棒。こりゃ面倒な事になっちまったな」


「お前達! 長をお守りするぞ! 」


 ここでアンネ達がやっと来てくれた。バルドゥインの後ろにはゴーレムに乗ったアンネ、前にはギルとムウナ、俺の周りにエレミアとテオドア、それに堕天使達が守るように囲う。


 オルトンも此方へ行きたそうにしているが、冒険者達とエルマンを守る為、あの場から動けずにいた。エルマン達にはもう何が起きてるのかサッパリといった感じで唖然としている。


「…… ギル、ディ、エンテ…… !」


 バルドゥインはギルの顔をマジマジと見た後、その名前を呟く。唇がない口で喋りづらそうだけど、辛うじてギルディエンテと言ったのが分かる。


「フン、やっと我を思い出したか? 今度は逃がさん! 」


「ムウナも、がんばる! 」


「よっしゃ! ボッコボコにしてやんよ!! 」


 ギル、ムウナ、アンネの三人とバルドゥインの激しい戦闘が始まる。


 ムウナの触手がバルドゥインに絡み付いて動きを阻害し、ギルの大剣が容赦なく斬り刻んでは、アンネが乗るゴーレムのパンチが炸裂する。


 それでもバルドゥインは怯むことなく、傷付いた体を修復させながら、あの三人相手に一歩も退かず応戦している。


「悔しいけど、やっぱりあの三人は別格ね。これなら勝てるんじゃないかしら? 」


「だな。俺様達じゃ却って邪魔になりそうだ。ここは相棒の護衛に専念した方がいい」


 そうだ、エレミアとテオドアが言うように、アンネ達もまた規格外な存在である。いくらヴァンパイアの中で最強と謳われていようとも、相手は妖精女王と厄災龍、異界から呼び出された化け物だぞ? 負ける要素はない筈だ。なのに、側にいるゲイリッヒの表情は晴れず、何やら難しい顔をしていた。


「どうかした? 何か不安でも? 」


「いえ、バルドゥインの様子を見てたのですが…… 昔と比べて大人しいような気がするのです」


「それって、暴走してはいないと? 」


「はい。その可能性は十分にあるかと…… っ!? いけない! 早くここから離れるのです!! 」


 ん? どうしたんだ? 急にゲイリッヒが慌て出すと、エレミアが突然喉を押さえて苦しみ始める。


「ガッ…… クフゥ…… こ、これは…… ? 」


 よく見ればオルトンと冒険者達、エルマンも同じ様に苦しんでいた。これはもしかしなくてもバルドゥインの仕業か!


 目を凝らして注意深く観察すると、大気中に赤い霧みたいなのが混じって漂っている。その発生源を探せば、どうやらバルドゥインの体から噴き出ているようだった。


「自分の血を霧状に噴出させ、気管から体内へと侵入し、体の中から破壊する技です。バルドゥインより魔力の弱いものは、これに抗うのはまず不可能でしょう」


 だから俺には何も影響がないのか? だとしたら、ギルとアンネは大丈夫そうだな。ムウナも、元から魔力を持たないけど、逆に吸収しているのか平然としているので問題ないようだ。


 しかし、このままではエレミア達が危ない。確かヴァンパイアの血液操作というのは、魔力で血を操るスキルだったよな? だとしたら、俺の魔力支配で無効化出来るかもしれない。


 今も苦しそうに踠くエレミアに俺の魔力を送り、中で暴れているバルドゥインの魔力を押さえ付ける。


「かはっ! …… はぁ、はぁ、助かったわ、ライル。ありがとう」


 ふぅ、良かった。この方法で合ってたみたいだ。そうと分かればオルトン達も早く俺の魔力で助けなければ…… しかし、これは俺の魔力でバルドゥインの魔力を抑えているに過ぎず、エレミア達の体内に侵入したバルドゥインの血はまだ残っている。


 まるでウイルスが潜伏しているかのように、俺の魔力による抑制が無くなればまた中で暴れ出してしまう。まったく、なんて恐ろしい攻撃だ。国一つ滅ぼせると言われるのも納得だよ。

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