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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 ガーゴイルはアンネ達が頑張ってくれているので、少しずつだが確実に数を減らしていっている。冒険者達とエルマンも、オルトンが結界魔法で守っているので今のところ心配はない。


 やはりと言うべきか、一番の問題はこの三体のウェアウルフだ。ウォルフと名乗ったウェアウルフはゲイリッヒが、赤いウェアウルフにはエレミアが、黒いウェアウルフにはムウナが各々相手を務めているけど、あのスピードは予想外だったな。あの見た目から素早いだろうなと思っていたが、まさかこれ程とはね。


 ゲイリッヒとムウナは自分で傷を治せるから良いものの、エレミアに至っては普通のエルフなのでそんな能力はない。小さな傷でも命取りになる。


『エレミア、俺も加勢する。何処までやれるか分からないけど、一人よりもましだろ? 』


『…… そうね。でも前に出るのは私で、ライルは後ろからの掩護よ』


 おいおい、こんな時まで俺を守ろうとするか? 有り難いけど、時と場合ってもんがあるんじゃないかね。


「へぇ…… あんたも出るんだ? 良いね、そのデタラメな魔力で何をしてくるのかしら? 」


 赤いウェアウルフは狼の顔なのに分かるぐらいニヤリと笑う…… 器用ですね。それじゃ、ご期待に添えるよう頑張りますか。


 俺は魔力収納からギルの鱗と爪を加工して作った丸ノコを二個取り出す。円盾を二つ合わせた間に飛び出る刃を回転させ宙に浮かべるのを見た赤いウェアウルフの顔が多少引きつっているのが分かる。本当に表情豊かな狼だな。


「な、なかなかエグい武器を持ってるじゃない。でも、私に当たると思わないことね! 」


「ライルには指一本、触れさせはしない! 」


 俺へと狙いを定めた赤いウェアウルフを、エレミアが蛇腹剣を伸ばして牽制する。


「邪魔くさいわねぇ。あんたから先に殺してあげるわ」


 更にスピードを上げた赤いウェアウルフの爪がエレミアに襲い掛かる。対してエレミアも蛇腹剣と魔法を駆使して接近を防ごうとするが、やはり当たらずに距離を詰められてしまう。


「くっ!? 」


「その腕、貰った! …… はぁ!? なにコレ! 」


 エレミアの腕を切り落とそうとしたみたいだけど、そうはさせない。赤いウェアウルフは突如現れて自分の爪を弾いた丸ノコにさぞ驚愕しただろう。


 この辺り一帯にはまだ俺の魔力が拡がったままだ。故にその魔力内なら何処にでも魔力収納の中にある物を出現させる事が可能である。わざと最初に俺の近くで取り出して見せた事によって、油断させる目論見は成功したようだ。


 驚きで足が止まっている所に、もう一つの丸ノコを赤いウェアウルフのすぐ側に刃を回転させた状態で出現させ、その体毛に覆われた体を削り切ろうとするが、あとちょっとの所で避けられてしまう。先ずはあのスピードをどうにかしないと、何時までも攻撃が当たらないな。


「今のはちょっと焦ったわ。何よそれ、反則じゃない? 」


 いや、俺としてはその出鱈目な速さの方が反則だと思うんですけどね? まぁ、そんな無駄口は叩かずに、また丸ノコ二つを一旦収納して、赤いウェアウルフの側で取り出しては魔力で操る。


「ちょっ、またなの!? 」


 ちっ、これでもまだ避けるか。なら当たるまでこれを繰り返すだけだ。


 避けられては丸ノコを収納し、側で取り出しては攻撃をするのを何度も繰り返す。避けても避けても近くで響く丸ノコの回転音に、さしものウェアウルフも疲労の色が見える。そこにエレミアの追撃が加わり、徐々に追い詰めていく。


「もう頭に来た! あんまり調子に乗んじゃないわよ!! 」


 赤いウェアウルフがそう叫ぶと、一瞬、体がぶれたかのように見えた後に姿を消した。あれはウォルフが見せたのと同じ現象だ。


 魔力を確認すると、近くにある木の幹に足を着けていた所だった。しかし、すぐにまた姿が掻き消えて別の木へと移る。それを何度もしている内に、完全に居場所を見失ってしまう。


 くそっ、こんな木の多い林では、彼等にとってそこいら中に足場があるのと同意。これは戦う場所が悪いな。


『ライル、あいつの動きが視える? 』


『駄目だ。肉眼は勿論、魔力でも捉えきれない! 』


 それはエレミアも同じようで、慌てて周囲を見回している。


「無駄よ、無駄! あんたら如きに私の動きが見えるもんか」


 移動しながら喋っているのか、そこかしこからあの赤いウェアウルフの声が聞こえてくる。


『危険だから私の傍に…… 危ない!! 』


 魔力念話でエレミアの叫びが頭に響くが、それどころではない。何故なら、俺の目の前には赤いウェアウルフが爪を剥き出しにして構えていたからだ。


 迫りくる爪を防ぐ為、丸ノコを俺の前に取り出して盾になっている側面で受けるが、いかんせん大きさが足りなかった。


 俺の横を通り過ぎる様に爪を振るった為、バックラー程しかない丸ノコでは完全に防ぎきれず、左肩を抉られてしまう。


「ライル!! 」


 服の左肩部分が破けて中から血飛沫が飛ぶ様子を目の当たりにしたエレミアが叫ぶ。


 ぐっ、痛い…… こんなに痛いのは久しぶりだ。最後に傷を負ったのは何時だったか…… そう考えると、如何に今まで俺が過保護にされていたのかよく分かる。


『大丈夫だ、エレミア! こんな傷、俺の魔力支配ですぐに治せる。それよりも戦いに集中するんだ! 』


 エレミアにはこんな事で取り乱してほしくない。冷静に対処しなくては、この敵は倒せないだろう。


「ははは! さっきは失敗したけど、次こそは心臓を抉り取ってあげる! 」


 また同じように木を利用した高速移動で撹乱してくる赤いウェアウルフの声は、腹が立つくらいに愉しげだった。


「よくも…… よくも私のライルに傷を付けたわね? 絶対に許さない!! 」


 え? いや、あの…… エレミア? 怒ってくれるのは良いんだけど、ここは冷静に。ほら、もう治ったから! だから落ち着こう、ね?

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