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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 多少やらかした感はあるが、エルマンの援護もあって何とかその場を誤魔化し、シールドアントの甲殻を冒険者に譲った。


「こんなに安くて良いのか? いや、俺達としては有り難いんだけどよ」


「はい。これから加工する手間と費用を踏まえ、エルマンさんのお知り合いというのも合わせ、勉強させて頂きました」


「それでも相場の半額以下はやり過ぎですよ、ライルさん」


 やれやれと困ったようにエルマンは首を振る。


「今回だけですよ。それに、まだ在庫はありますから」


 元手がタダなだけに、いくら安くしようと損にはならない。とは言え、今後もこのような値段で売っていたら相場が崩れてしまうから今だけ特別価格でのご提供である。


 冒険者達は、早速手に入れたシールドアントの甲殻を鍛冶師の下へ持って行った。防具を新調して、これからも村の安全を守って貰いたい。



 夕方になり客が少なくなったのを見計らい、どちらともなく帰り仕度を始めて空き家へと戻った。



「皆さん、今日はお疲れ様でした。これからの予定確認と打ち合わせを行いたいのですが、よろしいですか? 」


 エレミアと他の商会員が夕食の用意をしている間に、俺達は別室にてミーティングを開始する。


「さて、ライルさんが持ってきてくれたこの絵で、例の魔物がガーゴイルだと言う事がほぼ確定したのですが、今後の対応の為に詳しくこの魔物の生態なんかをお聞きしてもよろしいでしょうか? 」


 エルマンの言葉に皆の視線が俺に集中する。そんなに大勢で睨まれると流石に緊張するな。しかし、何処まで話せば良いものか……


「皆さんは、聖教国が神敵と定めた人物を知っていますか? 」


「? はい、存じておりますよ。確か名前はカーミラと言いましたか? 」


 それがガーゴイルと何の関係があるんだ? 周囲の視線がそう物語っていた。


「実は、そのカーミラには魔物を材料に別の新たな魔物を造り出す術を持っています」


「待ってくれ。それじゃ、このガーゴイルもそいつが造ったと言いたいのか? 」


 護衛の冒険者の一人が言葉を挟むが、他の皆も同じ思いだったようで賛同するように頷いていた。


「そうです。そしてその様に造られた魔物は総じて世界の理から外れた存在になり、魔王からの影響もなく活動していると思われます」


 余程衝撃的だったのか、誰もが口を噤んでしまい静寂が辺りを包む中、最初に声を発したのがエルマンだった。


「それは…… 確かに神の敵と称されても仕方ありませんね。しかし随分とお詳しいようですが、その情報は何処から? 」


「インファネースにいる有翼人、今は天使と改名しましたが、彼等にお聞きしました。ガーゴイルを操るカーミラの配下が彼等の集落を襲って来たのですが、何とか天使達で追い払うのには成功しました。私は他の種族の方を通じて天使達の集落を訪ねておりまして、その時に遠目ではありますがガーゴイルも実際に確認しています。その絵に描いてある通り、奴等は空を自由に飛び、この爪と牙で攻撃してきますけど、それほど威力があるようには見えませんでした。皮膚は岩のように硬く、鉄の武器では弾かれてしまいます。そして例え傷を付ける事が出来たとしても、小さなものなら直ぐに回復してしまいますので、生半可な攻撃は此方の体力を消耗するだけです」


「じゃあ、どうすんだ? 何か弱点とかないのか? 」


「これといった弱点はないかと…… とにかくミスリル以上の武器で一気に仕留めるしかありませんね」


 弱点と言えば魂を保護している魔力結晶ぐらいだけど、それを壊すにもやっぱりミスリル以上の物じゃないと難しいかも知れない。


「ライルさんから聞いた情報を踏まえて、そのガーゴイルとの交戦は避けた方がいいですね。もし見付かって襲われたとしても、無理に倒そうとはせずに逃げる事を優先しましょう。情報を持ち帰る事が重要です」


「その考えに異議は御座いませんが、信じてくれるという確証は有るのですか? 」


 ゲイリッヒの何気無い疑問に、商会員と冒険者達の雰囲気が一瞬でピリつく。


「エルマンさんは色々な功績を残していますので、ギルドからの信頼も厚く、無視は出来ない筈です」


「冒険者ギルドも同じだ。あまりエルマンさんを舐めて貰っちゃ困るぜ? 」


 へぇ、結構人望もあるんだな。ここまで深く潜り込むなんて、流石は王妃様直属の諜報員だ。


「これは失礼致しました。決してエルマンさんを貶める意図は御座いません。気に障ったのなら謝ります。 」


 謝罪するゲイリッヒの横で、俺もエルマンへと頭を下げる


「ゲイリッヒが大変失礼致しました」


「いえいえ、彼の信じて貰えないのではと危惧する気持ちはよく分かります。だからこそのライルさんなんです。私以外の、それもあの有名なインファネースから来た商人も見たと言うのなら、調べない訳にはいかなくなるでしょう」


 成る程、自分を過信せずにあらゆる事を想定して動く。慎重過ぎるくらいが商人としてちょうど良いと言うだけの事はあるね。


 ミーティングも一段落した所で、夕食の用意が出来たとエレミアが呼びに来て、ここでお開きとなった。


 さて、明日から本格的に調査が始まる。本当に用心しなくてはいけないのはガーゴイルじゃなく、奴等を操っているカーミラの配下である。


 天使の集落で見たガーゴイルは、とても知能が高いとは言えなかった。だとすると、近くで指示を送っている奴がいる筈だ。

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