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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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43

 

 エルマンの言った通り、馬車を走らせて半日もしたら目的の村が見えてきた。


 木の柵で周りを囲っているだけの簡単な作りだが、結界が村全体を包んでいるのが、魔力を視ると分かる。


 この村は主に麦を生産しているようで、柵を越えた辺りから一面に広がる麦畑があった。


 俺達の馬車は村の中を進み、とある家の敷地内へと入っていく。周りと比べて少々大きな家なので、村長のお宅なのだろう。


 馬車から下りると、家からがたいのいい老人が出迎えてくれる。あの人が村長かな? それにしても見るからに健康って分かる程逞しい肉体だね。何をしたらそんな風になるんだ?


「エルマンさん! お久しぶりです。遠路はるばるようこそおいでくださいました。商会の方々には何時もお世話になっております」


「いえいえ、此方こそ毎年質の良い麦を頂き、感謝していますよ。今日は良い鶏肉が手に入りましたので、皆で食べて下さい。それと、何が足りない物や困った事はありませんか? 」


「おぉ! それは楽しみですな。ささ、こんな外では何ですので、どうぞ中へお入りください。お付きの方達もどうぞ」


 村長のお招きで家の客間へと案内された俺達は、各々テーブルに着いてお茶を頂く。ふぅ、温かいお茶が冷えた体に染み込む。


「いやぁ、エルマンさんが持って来てくれた結界の魔道具のお陰で、随分と安全に麦を育てる事が出来て大変感謝しております。それに、常駐してくださる冒険者まで紹介してくれて、もう下げた頭が上がりませんな」


 どうやらエルマンはこの村にとって恩人のような者らしい。


「商会の方が定期的に来てくれていますので、不足しているものはありませんが、少し困った事がありまして…… 」


 それまで上機嫌だった村長の顔が急に曇り出した。たぶん、あの魔物についてだろうな。


「エルマンさんの商会の方にもご相談したのですが、村の近くにこの辺では見ない魔物が寄り付くようになりましてな。しかし、何もせずにすぐ何処かへ飛んでいくので、その内いなくなるだろうと放っていたのですけど、最近妙な動きを見せるようになりまして、村の皆が気味悪がっております。冒険者の方も初めて見る魔物だってんで、迂闊に手も出せんのです。あの魔物を追い払うよう、エルマンさんからギルドに依頼してくれると助かるんですが」


「お話は聞いております。ただ、ギルドにせよ国にせよ、依頼するのにはどのような魔物なのか確認してみないといけませんので、暫くこの村を拠点としてその魔物を調べてもよろしいでしょうか? 」


「それは此方としては願ったり叶ったりです。どうぞ遠慮なく、確か今は使われていない民家があった筈ですので、そこをご自由にお使いください」


 どうやらその空き家を暫く借りて、調査をする事になりそうだ。それは良いとして、俺からも村長に確かめたい事がある。


「横から失礼します。初めてまして、私はライルと申します。村長はその魔物を直に目撃したことはありますか? 」


「はい? はぁ、見たことはありますが…… ? 」


「それはこんな魔物でしたか? 」


 俺は義手を操り、懐から一枚の折り畳んだ紙を取り出して村長に広げて見せる。その紙に書いてあるのは、精巧に描かれたガーゴイルの姿絵だった。


 目撃者から魔物の特徴を聞くのも良いが、それだとイメージが難しい。なので予め紙にガーゴイルの姿を描き、確認して貰う事によって説明が省ける。


「あ、あぁ! 正しくこれです。この醜悪な顔、不気味な体躯、儂が見たのは間違いなくこの魔物です! 」


 まぁ、大体予想してたけど、やっぱりガーゴイルだったか。後は奴らが集まって何をしているのか調べるだけだな。


「しかし、良く描けていますな。これはライルさんが描かれたので? 」


「いえ、知人に描いて貰いました」


 本当はテオドアの念写スキルで描いた物なんだが、嘘は言ってない。


『へへ、どうよ、俺様のスキルは便利だろ? ライルには今度、俺様が今まで覗いてきた女共の裸体を一冊の本に纏めてやろうか? 』


 えっ? それは何とも魅力的な話だね。出来れば下半身を強調した感じで描いてくれると嬉しいのだけれど。


『ライル? 変な事は考えないようにね。テオドアも、変な物をライルに渡そうとしないで』


 うっ、エレミアがちゃっかりと俺に魔力を繋げて、テオドアとの念話を盗み聞きしていたか。エレミアの冷やかな視線を受けると、身が引き締まる思いだよ。だからそんな怖い顔してないで笑顔でいようじゃないか…… はい、ゴメンサナイ。ほんの出来心だったんです。



 村長から魔物が目撃される場所を詳しく聞き、俺達がこれからお世話になる空き家へと案内された。


 うん、所々修復が必要ではあるけど、住むのに問題は無さそうだ。



「では皆さん。これから暫くよろしくお願いいたします」


 空き家の修復も済ませた頃に、エルマンがよろしくと頭を下げる。


「此方こそよろしくお願いいたします」


 良し、調査は明日から始まる。だがその前に、せっかく村に来たのだから、商人として活動してもバチは当たるまい。

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