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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 旅路は順調に進み、完全に日が沈む前に野営の準備を済ませて、俺とエルマンが用意した食材で夕食を皆で頂く。


 エルマン達がいるので凝った料理は出来ない。その為、今晩の食事は簡単に野菜と鶏肉の味噌煮込み鍋にした。これなら大鍋で沢山作れて体も温まる。


「売り物の鶏肉を提供して頂き、ありがとうございます」


「いえいえ、此方も珍しい調味料を堪能させて頂いておりますので。この味噌というのは何とも味わい深いものがあります。それに、料理も大変美味しい。エレミアさんの腕が良いのですね。すみませんがお代わりをお願いします」


 エレミアは、エルマンのお碗にお代わり注ぎながらぶっきらぼうにありがとう、と一言だけ告げてお碗を手渡す。


 長い付き合いの中で分かったけど、エレミアって結構人見知りな所があるんだよな。そんな様子にエルマンは何一つ気にする素振りは見せず、にこやかに接している。その社交性の高さが素直に羨ましく思うよ。


「やっぱりエルマンさんの護衛依頼は外れがないな。上手い飯に報酬も良い」


 護衛をしている冒険者グループのリーダーらしき男性が、上機嫌で鍋をつつく。


「エルマンさんが贔屓にしていると伺いましたが、結構長い付き合いなのですか? 」


「ん? あぁ、そうだな…… かれこれ、出会ってから五年になる。俺達は首都を活動拠点にしてるんだが、こうして遠出する時は良く指名依頼をしてくれるんだ」


「魔王が出現した今、遠出の護衛は大変ではありませんか? 」


「確かに、普段と比べたら魔獣や魔物がやたら好戦的ではあるけどよ。襲ってくるのはゴブリンやウルフ系ばかりで、大した脅威にはならない。ここいらの強い魔物達は全員魔王の所へ行っちまったからな。残ってるのは力や知能の低い奴らだけだ」


 成る程、戦力になる魔物は魔王に集うという事は、必然的に力の無いもの達が残るって訳か。


「それでも、魔王の影響で見境なく襲ってくるのは面倒だけどな。経済の事はあんまし分からねぇけど、エルマンさんが言うには大変な事態になっているらしいじゃねぇか。こればかりは俺達じゃ解決出来ねぇからよ。あんたら商人と商工ギルドに頑張って貰うしかない。頼んだぜ、その分俺達冒険者が守ってやっからさ」


 そう言って俺の肩を軽く叩いた冒険者のリーダーは、仲間達の所へ向かって行った。


 夕食も終えて、各自用意したマジックテント入り、交代で見張りをする。


 結界の魔道具があるけど、見張りを立てないと何だか不安で眠れそうにないと冒険者達は言う。日頃の習慣ってやつかな? 俺の方からはゲイリッヒを見張りに出した。


「ここは私に任せ、我が主はゆっくりとお休み下さい」


「まぁ、ゲイリッヒなら大丈夫だと思うけど、無理はしないようにね」


 マジックテントに入った俺は、真っ先に魔力収納から絨毯とベッドを取り出し、靴を脱いでベッドに飛び込む。


 あぁ…… 疲れた。身内だけの旅と比べて気を使うからしんどい。


「エルマンが同じ馬車にいたから、ボロが出ないよう気を張ってたものね。今日は早めに寝た方が良いわ」


 脱ぎっぱなしにした靴を片付けてくれたエレミアは、ベッドでぐったりとしている俺に近付き、労るように頭を撫でる。もう子供じゃないし中身なんか五十近いオッサンなので、流石に照れ臭いものがある。


 一向に止まる気配のないエレミアの手から逃れるように、頭から布団を被れば、クスリと笑われた気がした。


 まったく、エルフからしたら五十代なんて子供みたいなもんなんだろうけど、俺にはそれを甘んじて享受する余裕はないよ。


『相変わらず煮え切らないというか、消極的というか、もどかしいわね』


『相棒のそれはヘタレって言うんだよ』


『へたれ? ライル、へたれ! 』


 くっ! 好き勝手言いやがって、せめて慎重と言って欲しいね。そもそもエレミアとはずっと一緒に暮らしてきたから、もう家族も同然なんだよ。きっと向こうも俺の事を弟かなんかと思ってるんじゃないかな。


 まだアンネ達がゴチャゴチャと言ってるから、意識を魔力収納から離して眠る事にした。







 ―― ごめんなさい、貴方が悪い訳じゃないの。でも、もう終わりにしましょう? ――






 っ!? …… はぁ、最悪の目覚めだ。生まれ変わってもこんな事を思い出すなんて…… 忘れたと思っていたのに、未練がましいったらありゃしない。思い返せば、あの一件が原因で自分に自信が持てなくなったのかも知れないな。



「おはよう。大丈夫? 酷い寝汗だわ。拭いてあげようか? それとも洗浄の魔道具でも使う? 」


「あぁ…… おはよう。ちょっと夢見が悪くてね。着替える前に洗浄の魔道具を使うよ」


 今朝見た夢は忘れよう。もう、終わった事なんだ。気持ちを切り替え、魔道具で体を綺麗にしてからテントを出れば、既にエルマン達が朝食の用意をしていた。


「おはようございます、エルマンさん。遅れてしまいましたか? 」


「おはようございます。いえ、昨日はご馳走になりましたからね。朝は此方で準備しようかと思いまして」


 本当に自然と気配りが出来る人だよな。こういう事の積み重ねが信頼に繋がるのだろう。


「あと半日もすれば目的の村へ到着します。そこから少し離れた場所で、例の魔物が目撃されていますので、村を拠点として調査を開始しましょう」


 軽めの朝食を終え、その村へ向けて俺達は馬車を走らせるのだった。

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