表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
596/812

41

 

 翌日、俺達は予定通りこの町から例の魔物が目撃される場所を目指して出発した。


 俺達の馬車をエルマンの馬車が先導し、周囲には馬に乗ったエルマンが贔屓にしてるという冒険者達が護衛をしている。


「いやぁ、ライルさんの馬車は実に素晴らしい! 空間魔術で広々とした内部、座席に使用されているのはサンドレアにしか棲息していないサンドワームの皮ですね? それに加えて揺れを押さえる仕掛けが施されているので、腰が痛くなりにくい。なんと快適なことか」


 国境近くの町を出る際、商会員と冒険者を紹介され、いざ出発という時に、エルマンは俺達の馬車に乗りたいと言ってきたのでこうして一緒の馬車で移動している。それにしても、気持ちは分かるが少しはしゃぎ過ぎでは?


「いや、これはお恥ずかしい。なにぶんこんな体型ですので、腰への負担が尋常ではないのですよ。たかが馬車の揺れ一つと侮るなかれ。私にとっては死活問題になります。あぁ、良いですねぇ…… ライルさんの馬車が羨ましい。これは商人にとって理想の馬車です」


 そこまで言って貰えるのは嬉しい。快適さを重視して頑張ったからね。


 しかし、エルマンの肥満体型では、確かに腰へのダメージが酷くなりそうだ。リラグンドからトルニクスへ来て、魚を食べなくなり肉ばかりの生活ですっかり体重が増量してしまったとか。俺も怠けてばかりいたら何れ同じになってしまうのだろうか。そう考えると他人事とは思えない。だからなのか、ついこんな事を言ってしまった。


「よろしければ、そちらの馬車にもサスペンションと空間拡張の魔術を施しましょうか? 」


「おぉ! 良いのですか!? してくれると言うのなら是非ともお願い致します。いやはや、魔術も扱えるとは多才ですな。それだけ出来るのなら、お店も繁盛していておかしくないのでは? 」


 ですよねぇ…… それは俺も不思議に思ってるんだよ。何で周りばっかり繁盛して、肝心の俺の所はサッパリなんだろう?


 俺とエルマンはお互いに顔見合わせ、はて? と首を傾げる。そんな様子に、エレミアから溜め息が溢れる音が聞こえた。





 道中、普段より狂暴性が増したゴブリンの襲撃に遭ったが、魔王の影響があったとしても、そこはゴブリン。狭い洞窟でもない限り驚異とはなりにくく、護衛の冒険者達によって難なく撃退される。


『人目がある所に出てくる訳にもいきませんし、じぶんの出番がありませんな』


『あ~つまんねぇ~。もっとゴーレムで無双したかったのになぁ』


『それより、とりにく、まだたべる、だめ? 』


 魔力収納にいるオルトンやアンネ達は、自分達の出番が無いことに嘆いていた。まったく、どんだけ暴れたいんだか。それからムウナ、町の肉屋で購入した鶏肉は、夕食まで我慢してくれ。



 魔力収納については、既にエルマンに空間収納ではない収納スキルと認識されている。となれば、もう王妃様に伝わっていると考えても良いだろう。


 別にそれだけなら大した問題にはならない。本当に隠したい所は生き物も収納出来るという点なのだから。たった一人の人間が、物資だけでなく軍隊さえも隠して持ち運べる。そんな事が知られてしまったなら国を背負う王族の立場上、決して無視は出来なくなるだろう。


 こればかりは何としてでも秘密にしなくてはならない。だから、今魔力収納にいる皆は、エルマン達と行動を共にしている間は絶対に外へ出ないようにしてほしい。


『成る程、そういう事情であればこのオルトン、ライル様の中から見守っております! 』


『またオレ達はここで待機か…… まぁ例のガーゴイルらしき魔物が出るまで何も出来ないのは予め分かっていたがな』


『収納内にいる皆さんのお食事は私にお任せください。ライル様の役目の邪魔にならないよう努めてまいります』


 堕天使達には悪いけど、もう暫く辛抱してくれ。あと、アグネーゼには何時もお世話になります。


『要するに、バレなけれりゃ良いんだろ? なら俺様は問題ないな。レイスは姿を消せるから、周りに気付かれる心配はないぜ? ハニービィも使えない今、代わりに俺様が偵察をしてきてやるから、必要なら遠慮なく呼びな』


『あっ! 狡いぞ、テオドア! 自分だけ外で遊ぼうって魂胆だな? あたしも混ぜろよ!! 』


『あぁ? お前は姿を消せねぇじゃねぇか。何でもかんでも妖精だからで誤魔化せると思うなよ? 』


 珍しくテオドアがまともな事を言っている。ド正論を言われたアンネは悔しそうに顔を歪ませ言葉にならないようだ。良いぞ、もっと言ってやれテオドア。


『とにかく、今ライルを守れるのはエレミア、ゲイリッヒ、テオドアの三人だけという事だ。戦力的には問題ないとは思うが、何が起きるか分からん。十分に注意するのだぞ』


『心得ておりますとも。我が主に関する事に手を抜く私ではありませんよ』


『言われなくとも、何時も注意しているわ。ライルは突発的に無茶をするから』


 ギルからの念話に、ゲイリッヒとエレミアが答える。


 う~ん、エレミアの言うことに反論したいが、心当たりが有り過ぎて何も言えない。


『そうだ! 妖精は気に入った人間の側に、瞬時に移動出来るっていう設定はどう? これなら違和感ないんじゃない? 』


 アンネ…… まだ諦めて無かったのか。その内力を貸して欲しい時がくるから、それまで魔力収納内でムウナと一緒に戦隊ごっこでもしててくれよ。アルラウネの子供達には好評なんだからさ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ