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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 今後の予定が大体決まった頃には日もだいぶ傾き、横からクゥ~という可愛らしい音が聞こえたので、音の発生源に目を向けた先には、少し顔を赤らめたエレミアが眉を顰めていた。


「何よ、仕方ないでしょ? もう夕食時なんだから、お腹だって減るわよ」


「お待たせして申し訳ありません。もう大方の予定は決まりましたので、ここらで食事といきますか。良い店を知っていますので、御馳走致しますよ」


 おっ! やった、これで一食分食費が浮いたな。


「お言葉に甘えさせて頂きます。どんな料理があるのか楽しみです」


「お勧めは鶏肉ですね。私が卸したばかりの新鮮な若鶏で、身も肉厚で柔らかいですよ」


 へぇ、それは楽しみだ。野菜の味は確かに美味しかったから、肉の方も期待しちゃうよ。


 俺とエレミアとゲイリッヒの三人は、エルマンに連れられてとある料理屋へと入り、店員に席へと案内された。


 テーブルに着くと、温かいおしぼりが配られ、エルマンは手慣れた様子で手と顔を拭く。一方、ゲイリッヒは初めて見るおしぼりを前に困惑している様子だった。


「食事の前に温めた布で手を綺麗にするという、おしぼりですか…… 話には聞いていましたが、見るのは初めてです。面白い文化です」


「私はジパングの料理屋で同じ物を見たわ。エルマンもライルみたいに顔も拭くのね」


 ゲイリッヒは知っていたようだったけど、基本食事は血を飲むだけて済ませてきたので、こういう店には滅多に来ないらしい。


「普通は手を拭く為の物だけど、まぁそこはご自由にどうぞって感じかな? 」


 生憎と俺にはおしぼりで拭く手は無いので、何時もの義手を操って顔を拭く。


 はぁ…… こう寒い時期におしぼりの温かさが気持ち良い。さて、サッパリした所でメニューの確認だ。何があるのかな? オススメは鶏だと一口で言っても、色々な料理があるからな。唐揚げにステーキ、鍋の具材としても優秀で、何にでも合う。


 う~ん、唐揚げにエールってのはド定番過ぎて面白味に欠ける。かといって奇を狙いすぎてもなぁ…… ここは鶏の味が十分に楽しめるものが良い。


「私はこの若鶏のガーリックソテーとワインをお願いいたします」


「じゃあ、私はどうしようかな? 肉はそんなに得意ではないけどせっかく勧めてくれたから、この蒸し鶏とスープを頼もうかしら」


 エレミアは蒸し鶏か、良いのを選んだね。それにしてもヴァンパイアなのにニンニクって平気なのか?


「フフ、偉大なる御方も同じ様な疑問を抱いておりました。ライル様の所では、我々のような存在はガーリックが苦手だったのでしょうか? 」


 俺のちょっとした顔色の変化で何を思ったのか察したゲイリッヒが、エルマンに悟られないように答える。まぁ、異世界だし? 同じヴァンパイアと名乗っていても、本質的には前世のものと違うのだろう。


 エルマンは鳥軟骨と皮の唐揚げにエールを頼んでいた。軟骨か…… それも良いな。後で余裕があったら追加で頼もう。


「共和国は牛肉と豚肉が有名ですが、鶏も負けてはいませんよ。ただ、肉よりも卵の方が知名度はありますね」


 魔力収納にいる鶏の卵とどっちが旨いかな? 流石に肉は食べ比べ出来ない。今はまだ数を増やして卵の生産量を増やしている段階だからな。


「ここでは牛と豚は食べられないのですか? 」


「魔王の影響で魔物や魔獣の被害が増えた事により、出荷量が減ってしまいまして…… 輸出を優先した結果、ここまで肉が回って来ない状況になっています。首都やその周辺の町ならそれなりに出回っていますので、そこまで行けば普通に食べられますよ」


 こんな所にも魔王による弊害が出ているのか。


「私共の商会も、なるべく食肉を買い付けて遠くの村や町に卸してはいるのですが、供給が追い付けていません。国としての利益を優先したいのは分かりますけど、これではあまりにも国民が不憫に思えて仕方ありません」


 外交を考えれば、難しい問題ではあるよな。こればかりは一商人がどうにか出来るものではない。それにしても、エルマンは演技でなく本気でこの国の行く末を案じているようだ。諜報員として送られただけなのに、長年住んだ事で情でも湧いたのかな?


 そんな話をしている間にも、テーブルには頼んだ料理が次々と置かれていく。


「では、料理も揃った所で、頂きましょうか」


 エルマンはフォークで鳥軟骨の唐揚げを二つ三つと纏めて刺して、豪快に口の中へと押し込んでいく。カリコリと軟骨を噛み砕く音を響かせ、冷えたエールを一気に煽り、くはぁ~! と満足気に息を吐く様子に思わず喉を鳴らしてしまう。


 くそぅ、軟骨とエールも旨そうだな。いや、あれは後で頼むとして、今は目の前にある料理に集中しよう。


 俺が注文したのは若鶏のステーキだ。魔力で操る義手でナイフとフォークを持ち、一口サイズに切り分ける。身が柔らかいのかスッとナイフが通り、切り口から肉汁が溢れ出る。口の中に入れて噛めば、パリパリとした皮とジューシーな肉の食感がより一層旨さを引き上げる。

 味付けは塩と胡椒、そしてバターとレモンが上に乗っているだけ。お次はバターと一緒に、あぁ…… このバターとも良く合う。


「どうですか? お味の方は。満足して頂けたでしょうか? 」


「はい。とても素晴らしいです。これなら他のも期待してしまいますね」


「その期待には十分に応えられると思いますよ? 」


 おぉ、そんな風に言い切きるとは、余程のものらしい。これは実に楽しみだ。ここへは観光だけで来たかったよ。



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