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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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37

 

 町の商業ギルドに挨拶がてら蜂蜜と酒を卸し、前以て王妃様から指定された宿に部屋を取る。


「この宿でその王妃の部下とやらと落ち合う予定なのですね? 名前は…… エルマン、でしたか? 」


「その筈なんだけど…… こっちは顔も知らないしな。取り合えず食堂で何か食べようか」


 向こうは俺の特徴を王妃様から聞いているだろうし、その内接触してくるだろう。










「おぉ…… ただの温野菜がここまで美味しいなんて、流石は農業大国。 何だろ、使ってる肥料が特別なのかな? 」


『う~む、ライル様の舌を唸らせるとは…… 中々の難敵のようですね。此方も負けてはいられません。早速新しい肥料の開発をしなくては』


 ちょっとした軽食のつもりでサラダを頼んだのだが、出てきたのはまさかの温野菜サラダ。味付けは一切なく素材のみ、お好みで塩は用意されているが必要を感じさせないくらいだ。この人参なんて味が濃くて甘い。どれもこの町で収穫した野菜なのだと、店主は嬉しそうに話してくれた。


「うん、これは凄く美味しいわね。悔しいけど、里で作っている物より味が良いかも」


 おぉ、エルフも認める美味しさってか。これは良いうたい文句になるね。


『ちょっと、後であたしにも食べさせてよね! 』


 はいはい、分かってますよ。時間があったら何処かの店で買うから、大人しく待っててくれ。


「ところで、ゲイリッヒのご同僚はこの国の何処に眠っているんだ? 」


「申し訳ありません。何分二千年前の事ですので、正確な位置は分かりかねます」


 それもそうか。千年前と五百年前とで、最低でも二回は国ができては滅びているからな。地形もだいぶ変わっているだろうし、仕方ない事だよ。


「じゃあ、大まかでいいから教えてくれないか? そこには近付かないようにするからさ」


「それでしたら、確か…… ここより更に北へ行った所かと」


 それだけ分かれば、後はそこを避ければ良いだけ。


『ライル! ムウナ、おぼえてる。ここ、にくがおいしい、いってた! おいしいにく、まだ? 』


 ブランドにもなっている牛肉と豚肉の話を、ムウナはバッチリ覚えていた。こういうのに関しては凄まじい記憶力を発揮するんだよね。


 野菜と一緒に肉も購入しなくてはと考えを巡らませていると、一人の客らしき人物が此方を見て、近付いてきた。


「初めまして。ライルさん―― でよろしいでしょうか? あの方から話は伺っております。申し遅れました。私はエルマン、共和国で商人をしております。どうぞご贔屓に」


 年は若くもなく年寄りでもない。前世で死ぬ前の俺と同い年くらいかな? 商売が上手くいっているのか、少しふくよかな体型をしてらっしゃる。


「これはどうも、ライルと申します。横にいるのがエレミアで、正面にいるのがゲイリッヒです。此方こそよろしくお願いします」


「おや? もしやこの三人でリラグンドから此処まで来たというのですか? 昨今魔物や魔獣の被害は増えて来ているというのに…… 流石に冒険者は雇いましたよね? 」


 いや、もう三人どころではないけど……


「この二人がいれば十分ですよ。そこいらの冒険者よりかはずっと強いですから」


「ほぅ! それは頼もしい。やはりインファネースの商人は一味違いますなぁ。どうです? 良い酒が手に入りましたので、私の部屋で一杯やりながら、話を聞かせてくれませんか? 」


「それは良いですね」


 うん、これで周りの客に怪しまれずエルマンの部屋で詳しく話を聞かせて貰える。


 俺達は食堂を後にして、エルマンの取っている部屋へとお邪魔した。ドアを閉めると、それまでにこやかだったエルマンの顔付きが急に変わり真顔になる。そしてドアに耳を当てて外に誰もいない事を確認する様子は正にプロフェッショナルって感じだ。


「では改めまして。遠路遙々ご足労頂き誠にありがとうございます。早速ではありますが、幾つかご報告したい事がありまして、よろしいですか? 」


「はい、お願いします」


「先ず、空を飛ぶ未知の魔物についてですが、王妃様へ報告した少し後から変化がありました。それまで空から見下ろしては何処かへ飛び去るだけだったのですが、急に下りてきては地面を掘ったりと奇妙な行動を起こし始めました。まるで何かを探しているようだったと、監視している仲間から聞いております」


 うわっ、なんか嫌な予感がする。チラリと目だけを動かしてゲイリッヒを見ると、向こうも同じ事を考えているようで、小さく頷き返した。


「その魔物は国の何処にいるのですか? 」


「ここより北に行った所で頻繁に目撃されています。近くに村があるのですが、今のところ被害はありません。魔王の支配で魔物が荒れているというのに、とても不可解です」


 確か、ゲイリッヒと同じ最古のヴァンパイアであるバルドゥインが眠っている場所も、ここから北にあるんだったよな。しかも人間の村が近くにあるというのに襲わないなんて、魔王に支配されていないと見ていい。ガーゴイルもカーミラに作られた魔物であり、魂が魔力結晶に保護されている為、魔王の影響は受けない。


 これはもう、魔物の正体と目的がほぼ確定したようなものだよ。嫌だなぁ、行きたくないなぁ。でもそうすると迷惑な奴が目覚めてしまう。せっかく眠っててくれているのに起こさないでくれませんかね?

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