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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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4

 

 ガストールと一緒に受付の男性に事情を説明して、指名依頼として依頼を発注して貰い、外に出た。


「そんじゃ、これから仲間を呼びに行ってくっからよ、そうだな…… 準備時間と飯を兼ねて、昼の一の鐘がなる頃に南東の門で落ち合うってのはどうだ?」


 えっと、今からだと大体三時間くらいか。


「はい、特に問題ありません」


「んじゃ、また後でな」


 ガストールと一旦別れて、食事をするため町を散策することにした。


 俺とエレミアは偶々目に付いた料理屋に入ってみる。中は思ったより小ぢんまりとしていて、中々おしゃれな雰囲気だ。レンガの壁には絵画が飾られているが、抽象的で何が描かれているか見当もつかない。この世界の芸術は抽象画が流行っているのだろうか? 俺は分かりやすい方が好みだな。上手いな~、綺麗だな~で終わりたい。前世で友人の前でそんな事を言ったら――お前とは一緒に美術館には行きたくない――なんて言われた覚えがある。


 店員に案内されて席に着き、メニューが書かれた紙を渡されたけど…… ソードディアのステーキ? ヴェノムサーパントの姿焼き? スチールピージオンの唐揚げ? 何だこれ? 鹿は分かるけど、毒蛇って食べて大丈夫なのか? ていうか鋼の鳩って何だよ! 食うとこあんのか? う~ん、悩ましい。この中ではまだ手堅い鹿のステーキにするか、それとも冒険するか…… 良し! スチールピージオンってのを頼もう。色々と試してみないとな、だけどヴェノムサーパントは駄目だ。食欲が失せてしまいそうだから。


「エレミアは何にするか決まった?」


「私は、茸とトマトソースのパスタにするわ」


 エレミアは手堅く行ったか、パスタもいいね。後はパンとスープを注文して料理を食べ、店を出た。


  ふ~、結構旨かった。唐揚げって書いてあったから、一口サイズの物を想像してたらフライドチキンみたいのが出てきて少し驚いた。名前にスチールと付いていたから固いのかな? と思ったけど案外柔らかくて旨い、軟骨のコリコリとした食感が良くて、これはビールが欲しくなる。 エレミアのパスタも旨そうだったな、また店で食べるなら次はパスタにしよう。


 まだ時間は有るので服屋で服を購入する――服そのものは魔力収納で育てている棉花から綿を採取して作れるけど、デザインが出来なくて既存の物を参考にするしかない。前世はお世辞にも服のセンスは良いとは言えなかった。別に服なんか着られればいいんだよ、オシャレ? なにそれ、美味しいの?


 精肉店で、牛肉や豚肉らしき物を買って町の中央にある広場のベンチに腰を掛け一息ついた所で、魔力収納の中で保管してある木材と精練した鉄を使って馬小屋と馬車を作ることにした。


 馬小屋は魔力収納の中でルーサが落ち着いて過ごせるように広く作り、馬車はこの世界で一般的な幌馬車を少し大きめに製造する。ルーサの食事は収納内で育てている野菜をあげている――今ある野菜はキャベツ、大豆、大根、人参、とうもろこし、トマトがある。ルーサは人参が気に入ったようだ。馬だからか?


 意識を集中して、魔力収納の中で素材を部品ごとに加工して組み立てていく。


『お~! どんどん形になっていくね。おもしれ~』


『うむ、この集中力と魔力操作は見事なものだ』


 アンネとギルが馬小屋と馬車の製造工程を観ながら酒を呑んでいた。こいつら、酒の保存場所から勝手に持ってきたな、また場所を変えて隠さないと直ぐに無くなってしまう。いくら言い聞かせても勝手に飲むから困ったものだ。


 次に、大量にあるジャイアントセンチピードの外骨格を使い、一般的な防具一式を作ろうかと思う。調べたらこの外骨格は鉄のように硬いのに、鉄よりも軽い事が分かったので防具に最適だと判断した。そっちの方が高く売れるかもしれない。

 防具の構造は昨日サーシャに案内してもらった鍛冶屋で解析済みだ。


 馬車と防具を作り終えた頃には、丁度いい時間になっていたので待ち合わせの南東にある門に向かい到着するが、まだガストール達は着いていないみたいなので、作った馬車とルーサを魔力収納から出してセッティングをしながら待つ。


「ライル、来たみたいよ」


 エレミアに言われ、指を差している方を見ると、剣と盾を携えたガストールの他に二人の男性が此方に歩いて来る姿が確認出来た。彼等が仲間なのだろうか?


 ガストールが連れている男性の一人は壮年を思わせる外見で、くすんだ黄色の髪をオールバックにして、背中に長い槍を背負っている。背も高く、百九十はあるな。


 もう一人の男性は、見た目は若く細身の体で少し長めの茶髪をしている。へらへらした顔つきは軽薄そうな感じがして、腰に二本の小剣を差している。背は三人の中では小さく俺とエレミアよりは少し高いと思うが凄い猫背で同じに見えてしまう。


 二人とも革鎧を装着していて、遠目から見ると立派な冒険者、近くで見るとチンピラのようだ。


「おう! 待たせたな。 中々立派な馬車じゃねぇか」


 ガストールは厳つい顔をニヤニヤさせながら近寄って来る。端から見たら誤解されそうな光景だ。


「いえ、たいして待ってないので大丈夫です。この二人がガストールさんのお仲間ですか?」


 俺がガストールに尋ねると、細身の男性が前に出てきた。


「ちはっす! あんたが依頼主っすか? オレっちはルベルトっす! 見ての通り双剣使いっすよ。よろしくっす!」


「は、はい…… 俺はライルです。よろしくお願いします」


「…… 私はエレミアよ」


「おお! エレミアちゃんっすか! 見た目とおんなじで可愛い名前っすね~、彼氏はいるっすか? いないならオレっちが立候補しちゃおっかな~。ねぇ、どうっすか?」


「気安く呼ばないでくれる?」


「いや~、手厳しいっすね。でも、それもまた良いっす!」


 へらへらと話掛けてるルベルトにエレミアは軽蔑の眼差しと冷めた表情を向けていた。


 何だろ…… 下っ端のチャラ男って感じがする。まだもう一人いるので、近寄り挨拶をする。


「初めまして、ライルと言います」


「…………」


「? あの、よろしくお願いします」


「…………」


 何か喋れよ!! どうしてだんまりなんだよ!


「すまねぇ、少しばかり無口な奴でな、悪気は無いんだ。こいつの名はグリム。こんなんだけど、槍の腕は確かで頼りになるぜ」


 一言も喋らないグリムの代わりにガストールが紹介すると、グリムはペコリと軽く頭を下げた。まぁ、悪い人では無いんだろうけど、扱いづらいのは確かだ。


「おい、ルベルト! いつまで遊んでんだ! さっさと準備しやがれ!!」


「ウィッす! 了解したっす!」


 ガストールに怒鳴られたルベルトはエレミアからサッと離れ、慣れた手付きで荷物を馬車に積んでいく。


「わりぃな、嬢ちゃん。久しぶりに若い女と旅が出来るんで、ちょっとばかし舞い上がってんだ。勘弁してやってくれ」


「あれで、ちょっと?」


 エレミアは右手で額を押さえて、深く息を吐いた。


「ねぇライル、本当に大丈夫なの?」


「え~と、大丈夫! 多分……大丈夫なはず」


 大丈夫だよな?

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