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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 検問所を越え、切り立つ岩山の間の細い道から広い荒野へと出た矢先に魔獣の襲撃とは…… 随分と過激な歓迎だね。


「迎え撃ちますか? 」


「そうだな…… 数も少ないし、いけるか? 」


「この程度、問題ありません」


 それじゃあ頼むとお願いすると、ゲイリッヒは馬車を止めて迎撃体勢を取る。


「ライルはどうする? 暇そうだったし、外に出て一緒に戦う? 」


「あ~…… せっかくだけど、今は遠慮しておこうかな」


 初めての敵を相手にするのは不安があるので、ここは少し様子を見る事にしよう。


 明け透けな俺の考えに、エレミアは呆れたように溜め息を一つ溢して馬車から下りる。


 さて、いったいどんな魔獣なのかな? 俺は周囲にハニービィを飛ばし、魔力念話からの映像を通して外を確認する。魔獣の魔力が視える方向から土煙が上がり、次第に近付いてくる影がくっきりとしてきた。


 やがて肉眼でも姿を捉えると、同じ様に魔力念話で映像を見ているオルトンが、あの魔獣について話し出す。


『あれは、バジリスクであります。主にこういった荒野に棲息している魔獣で、あの巨体に似合わず動きは俊敏。しかし、本当に注意しなければならないのは、猛毒を含んだ噛み付きでしょう。一度あれに噛まれたら最後、傷口から肉が腐っていき、やがて全身へ広がり死に至ります』


 ぱっと見た感じ、巨大な六本足の蜥蜴だ。爬虫類特有の固そうな皮膚にトゲが無数に生えている。あれには毒がないらしく、噛まれた時だけ毒の影響があるのだとか。


 四匹のバジリスクが、脇目も振らずに俺達へと突進してくる様子は尋常ではない。これも魔王の影響なのか。


『おっしゃ! 殴りがいのある奴が来たよ! アンネ、いっきま~す!! 』


『たべごたえありそうなトカゲ。いっぴき、ムウナに、ちょうだい』


『お? 今度は俺様にもやらせろよ。そろそろ暴れたいと思っていたところだ』


 魔力収納からアンネ、ムウナ、テオドアが向かってくるバジリスクの前に出てくる。これで五対四で、数的には此方が若干有利ではある。


『タブリス隊長、また我々は待機ですか? 』


『まぁそう慌てるな。何れオレ達が必要になる時が必ずくる。それまで座して待つのみ』


 ガーゴイル対策として連れてきた堕天使達は、一向に戦う機会がやって来なくてやきもきしているみたいだ。ごめんよ、もうちょっと我慢してほしい。


 ハニービィ達で辺りを警戒するが、どうやら他の魔獣や魔物はいないようだ。本来バジリスクは単独で行動する魔物で、各々の縄張りを侵害しないようにしていると言う。なのでこうして一つの所に四匹も集まるのはとても珍しいのだと、馬車を結界で守る為に魔力収納から出てきたオルトンが鼻息を荒くして熱弁する。



 そうこうしている内に、バジリスクはもう目と鼻の先。目の前の獲物目掛けて涎を垂らした口を大きく開け、鋭い鋸状の牙を剥き出しにして、その六本の足で地面を蹴りエレミア達に飛び掛かる。


 〈アンネ! そのゴーレムで一つ頼むぜ! 〉


 〈しゃあないわね…… へっ、あたしのゴーレムにそんなもん効かないわよ!! 〉


 バジリスクに腕を噛まれるアンネだが、ゴーレムに毒など効かず、振り落とした後に頭部へとどぎつい一撃を食らわす。


 〈ほいよ! いっちょあがり! 〉


 アンネはゴーレムを駆使して意識を刈り取ったバジリスクを放り投げると、そこにテオドアが侵入してバジリスクの肉体を乗っ取った。


 〈へへ! バジリスクの毒は同じバジリスクに効くか試してやるぜぇ!! 〉


 テオドアが取り憑いたバジリスクが、近くのバジリスクの首に噛み付いては激しく振り回す。


 一方、ムウナは触手の先に口を生やし、バジリスクに負けず劣らずの鋭い牙で体を食い千切っていた。


 〈トゲ、チクチクするけど、たべごたえあって、おもしろい! 〉


 バジリスクの皮膚に生えている固そうなトゲも、ムウナの前ではスナック感覚でボリボリと捕食されてしまう。




 〈あまり魔法の効きが良くないわね〉


 〈バジリスクの皮膚は魔法耐性が強いので生半可な魔法では傷一つ付きませんよ? 〉


 成る程、魔法耐性のある皮膚か…… あの皮で何か新商品でも作れるかも知れない。是非とも手に入れたい所ではあるな。


『我が主がそれをご所望であればこのゲイリッヒ、見事バジリスクの皮を献上致しましょうぞ!! 』


 〈ふぅん、生半可ね…… それじゃこれならどう? 〉


 エレミアが魔力を一気に放出したかと思えば、周囲の温度がガクンと下がり、冷気がバジリスクを包み込んでは手足を凍らせる。


 白くなった六本の足の動きが鈍くなり、終いには完全に動きを止めた。


 〈流石はエレミアさんですね…… 後は私にお任せ下さい〉


 ゲイリッヒは動かなくなったバジリスクの脇腹に、己の血で形成した大鎌の先端を突き刺したと同時に、大鎌が血液と戻り切り口からバジリスクの体内へと入っていく。


 中でゲイリッヒの血液が暴れているのか、動けない筈のバジリスクがビクンビクン! と体全体を弾ませ、口と目と耳から大量のドロドロとした赤いものが流れ出て絶命した。


『どうですか? 我が主のご要望通り、皮には傷一つ付けませんでした。ご満足頂けましたか? 』


 え? あ、うん。方法はエグイけど、他のと比べれば良くやったと褒めたいよ。



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