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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 翌日には町を出て暫く馬車を走らせていると、次第に緑が少なくなり辺りに荒野が広がっていく。


 荒れた地面は凹凸が激しく、いくら揺れ対策としてサスペンションを取り付けた馬車でも振動は伝わってくる。


 しかし、そこは抜かりない。座席のシートカバーにはサンドレアに生息する魔獣、サンドワームの皮を使用している為、柔らかくそしてその弾力性で衝撃をある程度は吸収してくれるので、俺の尻は悲鳴を上げる事はなかった。


 山頂に露出している蛇紋岩を窓から遠目に眺め、欠伸を一つ溢す。こうも代わり映えしない景色ばかりでは退屈してしまう。だからと言って敵の襲撃があっても困るけどね。


 周囲への警戒は御者をしているゲイリッヒと、義眼の魔道具によって俺と同じように魔力を視認出来るエレミアがいるから問題ない。ここで俺が眠ったとしても、何かあれば起こしてくれるだろう。まぁ、こうも揺れが激しくては眠れはしないが。


 それでも景色を眺めるのにも飽きたので、そっと目を閉じて魔力収納内へ意識を向ける。


 そこには何時も通り畑や鶏の世話をするアルラウネ達の姿があった。


 彼女達を受け入れた時は二十人くらいだったと思うけど、今はその倍にまで数を増やしている。植物系の魔物であるアルラウネには生殖行為は必要なく、体内で種を作って土に植える事で新たなアルラウネが生まれる。


 予め彼女達から説明をされてはいたが、見たこともない巨大な蕾が魔力収納内に幾つもあるのを発見して最初は戸惑ったものだ。


 種を植えて蕾になるまで半年、そこから花が咲くのに一月掛かる。大きな蕾が花開く時、中から五才ぐらいのアルラウネが出てくる様子は神秘的だった。また一つ、彼女達の生態を垣間見れて感動したのを覚えているよ。

 生まれた子が一生懸命に母親達の仕事を手伝っている姿は微笑ましく思う反面、このまま無尽蔵にアルラウネが増えていくのではないのだろうかと不安にもなったが、そこは調整出来るみたいなので安心した。つい魔力収納を埋め尽くすアルラウネを想像してゾッとしたのは秘密である。



 マナの大木もあれからすくすくと育ち、今ではもうエルフの里にある大樹と遜色ない程に成長し、順調に種を生み出している。とは言え、三ヶ月に一粒のペースだけどね。それでもマナの木は確実に増えては来ている。

 問題は何処に植えるかだ。取り合えず切り倒される事がないような場所が望ましい。でないと何時まで経っても世界のマナが減少している現状の解決にはならないからな。出来れば各国の王やそれに当たる人物に託したい。きっと永く守り育ててくれるだろう。



 ギルは相変わらず洞穴でのんびりと眠り、起きている時はウイスキーを飲むという、実に羨ましい生活をしている。


 アンネはゴーレムに乗ってムウナと特撮ヒーローごっこで遊んでいた。怪人役は勿論ムウナで、今はピンチになった怪人が謎の巨大化をして、アンネが呼び出したロボットで対決している所かな?


 大袈裟なアクションとリアクション、そしてわざとらしく技名を叫んでいるのを、アルラウネの子供達は楽しそうに見ている。思いの外人気があって吃驚だよ。


 そして子供達に混じってゲラゲラと笑っているレイスが一人…… 暇なんだな、テオドア。


 また別の所では、堕天使達が訓練の最中だ。隊長であるタブリスが激を飛ばし、お互いに槍を打ち合っている。その中には神官騎士のオルトンもいた。


 魔力収納にある家では、アグネーゼがもう夕食の仕込みに取り掛かっていた。あれは…… 鍋―― いや、具の種類からしておでんかな?


 トルニクス共和国はリラグンド王国の北西に位置する為、暖かい気候から段々と冬らしくなっていくので、暖かい鍋物は丁度いいかも知れない。今夜は清酒におでんだな。締めに溶き卵とご飯を入れて雑炊にしても良いし、うどんも捨てがたい。ただ、酒をおでんの出汁割りで頂くのは決定事項である。前世でも冬の時期たまに飲んでいたけど、あれは美味しいんだよなぁ。今から夕食が楽しみだ。



 こうして眺めていると、魔力収納も随分と賑やかになったもんだな。最初は本当に何もなく、空気すらも存在してなかった。因みに、初めて魔力収納へ入れたあの椅子は、まだ家のリビングにある。俺が生まれてからずっと側にあった思い出深い代物だが、まだまだ現役の椅子として役目をしっかりとこなしているよ。


「何かうれしい事でもあったの? 口元が緩んでいるわよ」


 おっと、無意識に口角が上がっていたようだ。突然目を閉じてニヤけるなんて、なんか変態チックで気恥ずかしい。


「いや、アンネとムウナがちょっと面白い事をやっていてさ。思わずクスッとしちゃったよ」


 本当は仲間達が俺の中で思い思いに過ごす光景に、幸せを感じて顔が綻ぶのを抑えられなかった―― なんて言えない。


『おっ、なに? ライルも、あたしとムウナの特撮ヒーローショーの虜になったの? 』


『むぅ…… ムウナ、ばっかり、かいじん。たまには、ヒーロー、やりたい! 』


『えぇ~、どう見たってムウナは怪人しか出来ないっしょ』


 確かに、ムウナはヒーローに見えない。悪の組織に作られた最終生物兵器って感じがする。


 今日は珍しく魔物や魔獣の襲撃は無く穏やかに過ぎていった。まぁ、たまにはこんな日があってもいいか。 

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