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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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 共和国が地図から消える。これはただ地図上から名前が消えるという意味ではなく、壊滅するという事。


 何故ゲイリッヒはそれを断言できるんだ? いったいトルニクス共和国に何があるというのだろうか……


 まだ何も言えずに固まっている俺とエレミアに、ゲイリッヒは話を続ける。


「サンドレアにある私の館で話したのは覚えておられますか? 私のように二千年を生きる最初のヴァンパイアは、私を含めてもう三人しか残っていないと」


「あぁ、確か人間と極力関わらないように暮らしているとか言ってたよね? 」


「はい、その通りです。その内の一人がトルニクス共和国にいるのですが…… いえ、いるというか眠っていると言った方が正しいでしょうか」


 眠っている? まぁとにかく、ゲイリッヒの同僚が共和国いるって事だよな。それとカーミラに何か関係があるのか?


「彼の名は “バルドゥイン” 私と同じ最古のヴァンパイアであり、我らが御方の牙。その性格は残忍無慈悲であり、御方を信仰、心酔し、命令を忠実にこなす殺戮者でした」


 何それ、物騒過ぎるんですけど!? 何でそんな超危険人物がトルニクス共和国で眠ってんの?


「我らが御方は勇者との決戦の前にこう仰いました。――私が敗れても、決して人間に復讐しようとは思うな。これは命令ではない、ここまで共に戦ってくれた友としてのお願いだ―― バルドゥインはその言い付けを守る為、沸き上がる憤怒を無理矢理抑え込み、ある土地の地下深くで眠りについたのです。人間達への復讐心が消えるその日まで…… 」


 成る程、その眠りについた土地ってのが今のトルニクス共和国な訳だな。もしカーミラがそのバルドゥインを狙っているのだとしたら、人間への復讐心を利用して共和国を壊滅させるつもりか? 俺が神妙な面持ちでいると、それまで真面目に語っていたゲイリッヒが言葉を濁す。


「あ、いえ…… そのですね」


 おや? 何だか様子がおかしい。


「実はですね…… バルドゥインは大変に寝起きが悪く、途中で起こすと見境なく暴れて周りに被害が被るのです。それは眠りが深く長いほど凶悪になります。自然と目覚めるのを待っていたのですが、一向に起きる気配がないまま二千年が経ってしまいました。こんな状態で起こされたバルドゥインがどうなるか私でも想像に難しく、更に言えばバルドゥインは、我らが御方を除いて私達ヴァンパイアの中では最強。例え勇者候補がいるとしても、トルニクス共和国を滅ぼす事は可能かと」


 それは…… 最悪ならぬ災悪だね。ゲイリッヒもかなり強いのに、その上をいくヴァンパイア。そんなもん目覚めないでこのままずっと永眠していて欲しいよ。


「それじゃ、なに? そのバルドゥインって奴の寝起きの悪さを利用して共和国を滅ぼすのがカーミラの目的なの? それはさすがにちょっと…… 」


 分かる、分かるよエレミア。あまりに突拍子もないと言いたいんだろ? 俺もそう思う。


「ですから確信に至っていないと初めに言ったではありませんか。そもそも、バルドゥインは二千年の間地下で眠っているのです。もしカーミラの狙いがバルドゥインだとしたら、何処で彼の存在を知り得たのでしょう? 実に不可解。ただ、あの国には危険な存在がいるとだけ分かって頂けたらと…… 」


 確かに二千年も表舞台に出てない奴の存在を知っているなんて、普通に考えればおかしい。だがカーミラは普通じゃないから、可能性はゼロではない。


 しかし、とんでもない所に国を作ったもんだよ。まさか自分達の住む土地の地下深くに、そんな危険なのがいるとは思うまい。例えるなら、触れたら爆発する核弾頭が地中に放置されている状況だ。


 なんかゲイリッヒの話を聞いたら、無性に帰りたくなってきた。自分から進んでそんな危険地帯へ行きたかないよ。王妃様、同盟の件は考え直した方がよろしいのでは? なんて言える筈もなく、一度受けた頼みを断る訳にもいかないしなぁ。


「俺達のやるべき事は変わらないよ。トルニクス共和国へ行き、元首に王妃様の書状を届け、ガーゴイルらしき魔物の正体を調査する。とにかく、そのバルドゥインっていう核爆弾野郎に触れなければ問題ないんだよね? 」


「はい。眠っているのを邪魔しなければ、バルドゥインも暴れたりはしません。しませんが…… 自然と目覚められても、それはそれで困りものです。非常に扱いが難しく、我らが御方も大変苦労しておりました。ところで、そのカクバクダンとは何です? 」


 聞けば聞くほど面倒くせぇ奴だな。でもまぁ、千年前のムウナが暴走した件でも目覚めなかったんだから、俺が共和国にいる僅かな時間では起きないだろう。それと、核爆弾についてはそれとなく流してくれよ。そこに食い付かれても説明に困る。


『思い出したぞ。前線で人間の兵士を文字通り千切って投げていたヴァンパイアだな。我もあやつと戦ったが、その時は左目と右手首を潰されてしまい、逃げられた覚えがある』


『ぷぷっ、ダッサ! 散々デカイ態度しておきながら逃げられてやんの~』


『フン、貴様なんぞ呆気なく潰されて終わりだろうな』


『残念でした~~! あたしにはゴーレムという強化外装があるから潰されませ~ん』


 マジか…… あのギルに深手を負わせて逃げ切ったのかよ。こりゃ増々関わりたくない。


『そいつはゲイリッヒみたいに仲間には出来ねぇのか? そんだけ強いんだったら、戦力として十分だろ? 』


『テオドア、話を聞いてなかったのか? 血の気の多い殺戮者を扱える自信なんて俺にはないぞ』


 そんな危険人物を側に置いて、寝首でも掻かれたらどうすんだよ。これは長居せずに、ぱっぱと用事を済ませてすぐに帰ろう。

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