表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
585/812

30

 

 あれから魔獣、魔物の襲撃を退け、概ね旅は予定通りに進んでいる。


 幾つかの村や町を訪れたが、その全部にゴーレムを連れた魔術師の姿を見る。シャロットが開発したゴーレムはきちんと国の防衛に一役買っているようだ。


 その事をマナフォンでシャロットに話したら、感激しているのが声から伝わってくる。一緒にいたコルタス殿下からは、また研究に没頭したらどうするんだとお叱りを受けてしまった。そんなにシャロットからほったらかしにされるのが嫌なようだ。


「まだ日も高いですが、ここまでは順調に進んでいますので、今日はこの町で宿でも取りましょうか」


 そうだな…… 地図ではこの先国境を超えるまで村や町はないようだから、ここでしっかりと休んでいくとしますか。


 町に入り、馬車と馬を預けられるそれなりに値の張る宿を取る。当然宿泊するのは俺とエレミアとゲイリッヒでの三人一部屋だ。


 その後、旅費の足しにと商業ギルドで蜂蜜を卸し、町の中を三人で散策する。


「堕天使達のお陰でギルド間での物資の運搬が滞りなく行われているみたいですね。物価はインファネースに比べて高いですか、こんな状況にも関わらず国の経済には余り影響が出ていません。まぁ、それも魔王軍がリラグンド王国に攻めて来ていない内ですが」


「ヴェルーシ公国を含め、他の国々には是非とも頑張って貰いたいね。国内だけでなく、魔王に侵攻されると思う国にもゴーレムを派遣出来たら良いんだけど」


「それは国が許してくれないかと…… あれは謂わば軍事技術とも言える物ですので、国としては流出を避けようとする筈です。それより、王都でリリィさんが転移魔術を軍事に転用しようとしているみたいですので、そこに期待しておきましょう。さすれば、同盟国へ瞬時に援軍を送る事が可能になります」


 リリィがそこまで考えているのなら、俺も転移門の存在を軍に提示すべきなのだろうか?


『そこまでしなくても良いとは思うが、お前の好きにするがいい。転移魔術だけで十分に事足りると我は思うがな』


『人を運送するならばそれで良いかも知れませんが、大量の物資や巨大なゴーレムもとなれば、転移門の方が利便性に優れているとじぶんは思います。ですが、ライル様の存在が余計な輩にまで知れ渡るのは回避したいところではありますな』


 ギルとオルトンは転移門の公開については否定的だし、ここは暫く様子見といくか。


 結界こそ張られていないが、冒険者やゴーレムにより魔物の被害は最小限に食い止めているようで、町の人達の表情は思ってたより明るい。


 これは旅をしていて気づいたんだが、力ある魔物は殆ど魔王の下へ集まっているようで、国内で暴れているのは知能も低い魔獣だけ。



 日も傾き、適当な店で夕食を済ませた俺達は、宿へと戻って明日に備え早めに休む事にした。因みに他の皆は魔力収納内でアグネーゼの手料理を食べている訳だが、何だか妙にアグネーゼの機嫌が良いみたいで、鼻歌交じりで調理いている姿をよく見る。


「狭い部屋ね。これなら野宿の方が快適なんじゃない? 」


「エレミアさん、流石にそれはこの宿に失礼かと。私達の旅が普通ではないのでそう思われるのも仕方ありませんが、態々口に出さなくてもよろしいのでは? 」


 つい口が滑ったエレミアをゲイリッヒがそれとなく嗜めるも、本当の事なんだから良いでしょ、と反省の色は見えない。


「まぁ、本来二人部屋な所を無理言って三人で使わせてもらっているからね」


 寝るときになったら、ゲイリッヒは魔力収納に入ってもらい、俺とエレミアは普通に部屋のベッドで休む。そうすれば宿代の節約になる。


「ゲイリッヒはトルニクス共和国に行った事があるんだよね? どんな国なんだ? 」


「そうですね…… 大陸では珍しい共和制で王は存在しません。代わりに国民の代表的な意味の元首がいます。元首が全てを裁定するのでなく、制定法を参照して決められます。国ができたのは五百年前ですかね。当時の魔王に滅ぼされた国の者達が、魔王が討伐された後、一つの土地に集まって自然と国の形になっていきました。農業が盛んな国で、麦の収穫量は大陸一と言われ、輸出量も他の国より頭一つ抜き出ております。その次に畜産業でも有名ですね。トルニクス産の牛肉や豚肉は、その旨さに他のより高い値段で取り引きされているぐらいです」


 へぇ、ブランド肉って事か…… それは楽しみだな。これを機に肉の仕入れルートを開拓するのも良いし、麦が沢山作られているのなら、リラグンド王国の備蓄を増やす為に大量取り引きするのもありだ。もしかして同盟の理由はそれか?


「話を聞く限り、豊かな国なのは分かったわ。だけど、どうしてそんなに心配そうな顔をしているの? 」


 確かに、エレミアの指摘通りゲイリッヒの顔色は優れない。


「もしかして、ガーゴイルが目撃されているのと関係が? カーミラが何を狙っているのか心当りがあるとか? 」


「…… まだ確信に至った訳ではありませんが、もしそうだったのなら、最悪トルニクス共和国は地図から消える事になるでしょう」


 は? 魔王にじゃなくて? 突然の共和国消滅を唱えるゲイリッヒに、俺とエレミアは揃って言葉を失う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ