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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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28

 

 旅の準備を始め、いよいよトルニクス共和国へ向けての出発を明日に控えた俺達は、家の応接室にて最終確認をしていた。


「それじゃ、共和国の国境まではゲイリッヒに任せても大丈夫だね? 」


「はい。何度か足を運んだ事がありますので、ご安心ください」


 店の商品在庫も暫く持つように補充したし、魔力収納にも詰め込んだ。気掛かりなのはジパングとの貿易が現在止まってる事なんだよな。

 インファネース周辺の海は例の魔道具で魔物達は暴れなくなったが、他の海域は相変わらず荒れている。その影響でジパングの商船が海を渡れない事態になっているとスズキさんから聞いている。


「ジパングにも転移門を設置しといて良かったわね。これでお酒を切らす心配もないわ! 」


「スズキ殿は驚かれていたが、妖精の力だというライル様のお言葉を信じているようでしたな」


「そうでも言わないと、余計な混乱を招きそうで…… 今は何処も魔王の事で手一杯だからね」


 でも多少落ち着いた頃に、スズキさんだけに打ち明けようかなとは考えている。向こうにも事情を知る協力者がいた方が何かとスムーズになるからね。


「しかしライル様。本当に他の者達はお連れして頂けないのでしょうか? 皆、ライル様をお守りすべく鍛練を積んでおります」


「今回は神官騎士全員を連れて行くのはちょっと無理があるかな…… それより皆さんにはインファネースの守りをお願いしたいんです。まだ防壁の完成には時間が掛かりますので」


「承知致しました。ですが! じぶんはライル様の盾でありますので、何処までも付いていく所存であります! 」


 オルトンは今日も気合いが入ってて頼もしいね。だけど普段は魔力収納にいてくれよ? その巨体じゃ俺以上に目立つからさ。


「タブリスさんの方はどうですか? 」


「いや、それが…… 」


 うん? なんか歯切れが悪いな。堕天使達の隊長であるタブリスには、旅に同行してもらう者を数人集めて欲しいと頼んだんだけど、成果が思わしくないのか? 配達業も軌道に乗ってきたし、皆忙しくてそれどころではないのかも知れない。


 共和国内で目撃されている魔物がガーゴイルじゃなくても、翼があり空を飛んでいる事から空中戦力は必要だと思ったんだけど、無理も言えないし仕方ないか。


「思いのほか希望者が多くて、選ぶのに時間が掛かっている。やっと長の為に戦えるんだ。自分を連れて行ってくれと詰め寄られ、終いには言い争いにまで発展して収拾がつかない。もっと同行する人数は増やせないか? 」


 おぅ…… 思ってたのと逆だった。魔物の数が分からないから、タブリスも含めて五人も集まれば良いかなと考えていたけど、予想以上に集まってしまったか。


「十人くらいだったら、業務に差し支えないかな? 因みにどれくらい集まったのか聞いてもいい? 」


「その分他の者達で補えば何とかなると思うが…… 名乗りを上げたのは半数くらいだ。仕事でインファネースから離れている者達がいなければ全員だったかも知れんな」


 もしかして今の仕事に不満を感じてるの? それだったら申し訳ない。


「そんな顔をするな、長よ。誰も今の仕事に不満を感じてはいない。配達をしつつ途中で見掛けた魔物を狩り、それなりに満喫はしている。ただ、カーミラに関しては何よりも優先すべき事だと思っているだけだ」


 それもそうか。カーミラに体を改造され、自慢の魔法スキルも剥奪され、いいように操られて同胞に槍を向けてしまった。カーミラの事で躍起になるのは当然の事だ。

 出来るなら全員連れていってやりたいけど、予想以上に配達業が上手くいってるので、ここで疎かにはさせられない。


「誠に申し訳ないのですが、タブリスさんの判断で決めてくれませんか? 」


「了解した。長がそう言っていたと知れば、あいつらも素直に従うだろう。明日までには決めておく」


 さて、後は大丈夫かな? 何か忘れている事はないか?


 そんな意を込めて皆の顔を見回すが、誰も何も言わない。それは魔力収納にいるギルやアルラウネ達も同じ。


「何も無いようなら、これでミーティングは終わりだな。各自、明日に備えて休んでください」


 解散! と言ってみたは良いが、タブリスとエレミア、アグネーゼ以外は魔力収納へ入っていく訳で、解散も何もないんだけどね。


「オレはこれから旅に同行する者を選んでくる。長はゆっくりとしていてくれ」


 タブリスは堕天使達が住んでいるアパートに向かって行く。


『フヘヘ、ガーゴイルなんかあたしのゴーレムで一網打尽よ! 最強の精霊魔法と最高のゴーレムが合わさればもう無敵ね!! 』


『はしゃぐのは構わんが、此処ではそれを乗り回すなよ? 鬱陶しくてかなわん』


『へぇ…… 何か楽しそうだな? 俺様にはそのゴーレムは操縦出来ねぇのかよ? 』


 自分専用のゴーレムを眺めては、敵を華麗に粉砕している想像でもしているのか、だらしない顔を浮かべるアンネ。その様子を見て暴れるなら外でやってくれと言ったギルは、ねぐらである洞穴に入っていった。


 それとテオドア、残念だけどレイスが乗れるゴーレムは無いと思うよ?


『はぁ? マジかよ。俺様も相棒の補助無しで敵を殴ってみたいぜ』


 実体を持たないテオドアは、久しぶりの殴り合いや取っ組み合いの戦いがしたいようだ。


『ならば、サンドレアからリビングアーマーの残骸を譲って貰うのはどうでしょう? そこにテオドアを定着させれば、物体をすり抜ける事なく存分に殴れますよ? 』


『うげぇ、それはちょっと…… な? ずっと鎧の中で過ごしたかねぇよ。それに自分の意思と感情が無くなるのも勘弁してもらいてぇ。知ってるぜ? リビングアーマーになったら最後、二度と朝日は拝めねぇってな。まったく、油断も隙もありゃしねぇ』


『そうですか、それは残念です』


 ゲイリッヒの危ない提案を回避したテオドアだが、普通のレイスなら日の光で消滅してしまうので、朝日なんかもう拝む事すら出来やしないぞ? 朝から外へ繰り出すようなレイスなんてお前だけだよ。




 そうして各々の一日を過ごした俺達は翌朝、トルニクス共和国に向けて出発した。

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