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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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27

 

 俺は王妃様の提案を受け、ガーゴイルと思われる魔物の調査と同盟の使者を兼ねてトルニクス共和国へ行くことにした。


「向こうにいる私の部下が案内をしてくれますので、共和国に入ったなら国境近くにある町で落ち合って下さい」


「畏まりました。では、私達はこれで失礼致します」


 話も纏まり、俺達は席を立ち扉へ向かって歩き出す。


「あぁ、それとトルニクス共和国には、土の属性神に選ばれた勇者候補がいるようですよ? 」


 部屋から退出しようとする俺の背中へ投げ掛けられた王妃様の言葉に、心臓が跳ね上がりビクリと体が反応する。


 いったい何処までご存知なのか…… この一連の流れは全て王妃様の予定通りだとしたら、まったく恐ろしい人だよ。


「そんじゃ、その内また遊びに来るからね! ディアナ」


「えぇ、楽しみに待ってるわ。アンネ」


 もう途中から女王らしくするのに飽きたアンネが早々に正体を表し、何時もの調子に戻ってしまった。それを見た王妃様は、やっぱり妖精は明るくて楽しい方ばかりね。なんて喜び、今ではお互いに呼び捨て合う仲にまでなっている。





「全ては母上の思惑通りか…… 恐らくその魔物の情報を掴んだ時から既に頭の中には計画が練られていたのだろう。二重三重とお前が断らないよう策を用意していた筈だ」


 だから最後にあんな事を言ったのか。俺がカーミラの事だけで断りを入れてたら、今度は勇者候補の情報で釣ろうとしていたに違いない。だとしたら、俺と聖教国との関係も薄々は感付いているのかもな。


「本当にカーミラが関わっているのでしたら、わたくしも共にトルニクス共和国へ赴きたいですわ」


 自動人形であるアイリスの件もあってか、カーミラへの敵対心が強いシャロットは、じっとしていられないみたいだ。


「俺は反対だ。今シャロットがインファネースから離れてしまっては、街の者達が不安になるかも知れないだろ? それでも行くと言うのなら俺も付いていくぞ」


 えぇ? ついさっき王妃様に言われた事を忘れたのか? 魔王が戦争を仕掛けているこの時期に、王族が他の国に行くなんて色々と面倒が起きると懸念していたじゃないか。


 シャロットも同じように思ったのか、有無を言わさない様子の殿下を見て遠慮がちに嘆息する。


「仕方ありません。殿下を他国にお連れするわけにはいきませんもの、今回は大人しくライルさん達のお帰りを待ちしますわ」


「当然の判断だな…… いいか、ライル。お前のその見た目は目立つ。しかしそれは何も悪い事だけではない。見た目だけでお前を侮るような奴は、例え金と権力を持っていたとしても大して脅威にはならず扱いやすい。本当に危険なのは、お前を見て逆にすり寄ってくる輩だ。見た目に騙されない頭の切れる相手ほど面倒で危ない者はいないからな。共和国でそのような人物に出逢ったのなら、注意しろよ」


「ご忠告痛み入ります。そのような者に足元をすくわれないよう、気を付けます」


 大抵の奴は俺の姿を見たら眉を顰め、極力関わらないように距離を置くものだ。たまに優しくしてくれる人もいるけど、それは同情によるものが大半で、対等に付き合う者は少ない。殿下の言ったように俺のこの姿に何かを感じて近寄ってくる奴は、良くも悪くも周囲の人達と一線を画す人物であるとも言える。


「でも、ライルさんをどうにか出来る者はそうそうおりませんよ? 何時も側には心強い者達がついていますもの」


「確かにな…… あの母上に殺気を飛ばすとは、流石の俺も肝を冷やしたぞ? 」


 はは…… 俺もですよ殿下。その節は本当に失礼致しました。


「誰が相手だろうと、ライルを害するのなら私にとって敵と同じよ」


「やれやれ、エルフというのは皆こんな感じなのか? 争いを好まない種族だと伝わっているが、絶対に怒らせてはならないとも伝承にある。何となくその意味が分かった気がするな」


 反省の色が全く見えないエレミアに、殿下は呆れていた。人間達の間に伝わるエルフと実際に出会ったエルフとの差がありすぎて少しショックを受けているようにも見える。


 そもそも鉄の臭いが嫌いなエルフは血の臭いも苦手なだけで、戦わなくて済むのならそれに越したことはないという考えだ。だが、同じエルフの仲間や俺のように一度受け入れた相手の為には、異常だと思えるくらい好戦的になる。


「まだ人間と交流していた頃も、腫れ物を扱うような感じだったよね? ま、それはあたし達妖精も同じようなもんだったけど」


「ブフ、そうなのであるか? う~む、今後エルフの対応を考え直す必要があるな」


 アンネの話を聞いた領主は真剣に悩み出す。いや、なんかすいません…… どうしてか俺の方が居たたまれなくなり、少し早足になってしまう。


 何とも言えない気持ちのまま館を出た俺は、エレミアとアンネの三人でゲイリッヒが馭者を務める馬車で帰路に就く。


「遂にカーミラも表立って行動して来たわね。何が狙いかは知らないけど、今度こそ好きにはさせない」


「ありゃ、エレミアったらジパングでカーミラに魔術で操られたのを相当根に持ってんね」


 今は対策がしっかりとされているから大丈夫だけど、あの隷属魔術は本当に厄介だ。でもあれから仲間も増えた訳だし、もうやられてばかりではいられない。

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