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「おいおい! 変な言い掛かりは止してくれよ、人聞きが悪いだろうが! これはお互いが納得したうえでの事だ。あんたには関係ねぇだろうがよ!」
「確かに、それならば問題は無いだろう。貴様の言い分が正しければな」
「あ? 俺が嘘を言ってるってか?」
「貴様のこれまでの行いを鑑みれば、信用に値しないと思われても仕方なき事だ」
どうやら、俺が情報料としてガストールに金を渡している所をレイシアが目撃して、ガストールが俺から脅し取ったと勘違いしたようだ。
「まあ、待ちなよ。本人にもちゃんと話を聞かないと、僕達の勘違いという事もあるからね。そうだろ? レイシア」
「…… そうだな。分かったよ、クレス」
うわ~、当たり前だけどイケメンまで来たよ。とにかく誤解だと説明して、早くどっか行って貰おう。
「あの、誤解なんですよ。俺がガストールさんに金を渡したのは、情報を売って貰ったから。これは、ただ商売をしていただけです」
「おうよ! こいつは商売だ!」
俺がガストールを擁護したのが予想外だったのか、レイシアは悔しそうに顔を顰める。
「君、それは本当の事なんだね? 脅されている訳ではないんだね?」
イケメン――クレスは信じられないのか、そんなことを聞いてきた。
「そうだ! 脅されているに違いない! そうなんだろ?」
クレスが余計なことを言ったせいでレイシアがそれに便乗してしまった。俺は無言で首を振るが、まだ疑っている。
「何故そこまで疑うのですか?」
余りにしつこいので、根拠は何なのか尋ねてみた。レイシアは軽く頷き、語りだす。
「私達がこの町に訪れてから今まで、この男の悪辣な行いを何度も目撃し、阻止してきたからだ!」
「悪辣な行いですか?」
「そうだ、今回のように金銭を脅して収奪していた事もあった。非道いものでは、御婦人を路地裏で暴行しようとしていたのをクレスが見つけ、阻止した事もある。常日頃から下品な言動をして尚且つ、このような不祥事の数々。これで疑うなと言う方が難しい」
確かに、彼女の言い分が全て正しいのなら、信用は出来ないよな。だけど、今言った事は全部主観的な意見でそのまま鵜呑みにしてしまっても良いのかどうか。婦女暴行もそう見えただけかもしれない、実際にしている最中に助けた訳ではないし。
「馬鹿馬鹿しい、全部おめぇらの言い掛かりだろうがよ。第一、証拠がねぇだろ」
「証拠など必要ない。この目で見た、それで十分だ」
自信満々で言いきるレイシアにガストールは深い溜め息を溢し、弱々しく首を振る。
「見ただろ? これが町から出ようと思った理由だ」
うん、納得した。こいつは面倒くさいな、自分の正義や意見を曲げないタイプの人間なのだろう。この手の人間は出来るだけ関わらないようにするのが一番の対処法だな。
「あんた、女性に乱暴したの?」
エレミアは軽蔑の眼差しでガストールを睨んでいた。
「してねぇよ! なんか足を捻って痛そうにしていたから声を掛けただけだ。金の巻き上げは、何度かやったけどよ……」
やったのかよ! それじゃあ疑われてもしょうがないだろ。まぁ、過去の事はこの際置いておくとして、今の状況を何とかしないと。
「成る程、貴方達がガストールさんを疑う理由は分かりました。そのうえでもう一度言います。俺は脅されていませんし、金銭のやり取りはお互いが納得しています」
俺が真っ向から否定したので、レイシアはこれ以上何も言えなくなり、鋭い目で此方を正視する。もしかして、俺がこの男と共謀して何かよからぬ事を企ててるなんて思ってないだろうな? 止めてくれよ、この男はともかく俺はまだ何も悪い事はしてないよ。
「そうか、すまないね。どうやら僕達の勘違いだったみたいだ。僕はクレス、こっちがレイシアで、彼処にいるのがリリィだ。暫くはこの町にいるから、困った事があったら遠慮無く頼ってくれて構わないよ」
クレスは簡単に自己紹介をして、白い歯をキラリと光らせ笑みを浮かべる。う~ん、多分きちんと話せば分かってくれると思うし、いい人なんだろうけど…… 前世での影響のせいかイケメンには良い思い出がなく苦手意識が強くて、対面すると尻込みしてしまう。
「ど、どうもはじめまして、俺はライルです」
「私はエレミアよ」
エレミアが名前を言うとクレスは近寄って優しく微笑む。
「良い名前だね、その眼もとても綺麗だよ」
「ありがと、私も凄く気に入ってるの」
「エルフが人間の町で過ごすのは何かと大変だろ? 悩みがあるなら聞かせてくれないか? 僕が力になるからさ」
は~、凄いな。自分に自信が無ければこんなこと言えないよ。俺には到底まね出来そうにない。
「お気遣いどうも、でも大丈夫よ。快適に過ごさせて貰ってるから」
「そうか、それなら良いんだ。でも本当に困った事があったら僕に言ってくれ、何時でも君の為にこの力を振るうよ」
まだ何かエレミアに話掛けているなか、俺の意識に語りかける者がいた。
『聞こえる? その身に厄災を宿す者よ』
なんだ? これは魔力念話か、一体誰が? 集中して視ると、極細の魔力が俺の体と青い髪の少女に繋がっていた。
『私はリリィ、今は訳あって彼等と行動を共にしている。時が来たら貴方に協力を要請したい。正確に言えば、貴方の中にいる厄災の力を貸してほしい』
何を言っているんだ? 分からない事だらけで何から手を付けていいのか…… そもそも厄災って何だよ! そんなもん宿した覚えはないんですけど。
『何を言っているのか理解出来ないけど、それって断る事は出来る?』
『その場合、この世界は滅びる』
っ!? 世界が滅びる? なんでそうなるんだ?
『滅びるって、頼みたい事ってなんだ? 何が起ころうとしてるんだ?』
だけど、リリィは眠そうな眼でじっと此方を見詰めるだけで何も答えてくれない。 おい!! ここが一番大事な所だろうが! 答えてくれよ!
「それじゃあ、名残惜しいけど僕らはこれで失礼するよ」
用が終わったのか、クレス達はこの場を去ろうとしていた。
「フンッ、次こそは貴様を断罪してやるからな」
『時が来たら、また……』
其々に言葉を残して、ギルドから出ていく。
「何だったんだ?」
もう訳が分からず、思わず声が漏れてしまう。
「面倒くさいだろ? 早く町から出ようぜ」
俺の声を拾ったガストールが辟易したように、声を掛けてくる。そうだな、依頼を発注して町から出よう。
『何だったんだろうね? それよりも、あの子が言っていた厄災って、あんたの事じゃないの?』
『む? 我の事か? その様に呼ばれた覚えはないのだが』
『そりゃあ、あんたが封印された後のことだかんね』
『ほう…… 我の預り知らぬ所で、そんな呼び名であったか。この世界の為に戦ったというのに厄災などと、不本意である』
厄災ってギルの事だったのかよ!? だけど彼女はどうやって、俺の中にギルがいることを知ったんだ? 魔法や魔術が発動する兆候は感じなかった。そういうスキルでも持っていたのか?
う~ん、不安要素が有りすぎる。森に引きこもってた方が良かったかな? 今ならエルフの気持ちが良く分かる気がする、外は怖いもので一杯だよ。




