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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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21

 

 予想はしてい筈なのに、いざ本物の王妃様を目の前にすると、その雰囲気に呑まれて頭が真っ白になって呆然と立ちすくんでしまう。


 王妃様の側で跪いている領主とシャロットを見て、慌てて俺達も床に膝をついて頭を下げる。


「皆さん、ここは非公式の場ですので、どうぞ頭を上げてください」


 チラリと様子を窺い、ゆっくり立ち上がる周りに合わせて俺とエレミアも顔を上げる。普通ならエレミアはエルフであるから頭を下げる必要はないのだが、俺の顔を立ててくれたようだ。


「王妃様の御来訪、私達一同心から歓迎致します。私は北商店街の代表を務めさせて頂いております、カラミア・リアンキールと申します」


 カラミアに続き、ティリアとヘバックも自己紹介を終えて、俺の番となる。


「同じく、私は南商店街の代表をしておりますライルと申します。以後お見知りおきを」


「そう、貴方が…… 此方こそ色々とお世話になります」


 うん? 何だか俺の事を前もって知っているかのような物言いが気になったが、たぶんコルタス殿下から聞いたのだろう。


「それで? いったい何の用で来られたのですか? 母上」


「王都より此処がリラグンドの中で一番安全だと言ったのはコルタス、貴方でしょ? だから私もここへ避難してきたのよ」


 避難って…… それはもしかして――


「もしやこのインファネースに居座るおつもりですか? 」


「つもりもなにもそれが目的ですから。魔王が倒され安全だと判断するまでこの館で過ごします」


 な、なんだと…… そんな言葉が聞こえる程にコルタス殿下は狼狽え、ヨロヨロと一歩下がる。せっかく婚約者と一緒にいられると思ったのに、まさかの母親登場でショックが隠しきれていないみたいだ。


 それは領主とシャロットも同じようで、正に寝耳に水だったのか、二人揃って固まっている。


 俺達五人は事態に置いていかれ、どうすれば良いのか全く分からない状態だ。取り合えずこのまま成り行きを見守ろう。


「え、えっと…… それは王妃様がわたくし達の館に住むという事でございますか? 魔王がいなくなるまで? 」


「あらあら、シャロットちゃん。もうすぐ私の義娘(むすめ)となるのだから、お義母様(かあさま)と呼びなさいと言ってるわよね? 」


「いえ、まだ婚姻も結んでおりませんので…… 」


「もぅ、相変わらず真面目ね。でもそこが可愛い! 」


 さっきまでのこれぞ王妃様という雰囲気は消えて、いきなりシャロットに抱きついては可愛がる様子に、また言葉を失ってしまう。


「あの…… 領主様? アタシ達はどうすりゃいいの? 」


 困ったティリアが堪らず領主に声を掛ける。


「ブフ、どうやら王妃様はインファネースに滞在なさるおつもりのようだ。急な話で申し訳ないが、王妃様が快適に過ごせるよう力を貸してはくれぬか? 」


「勿論ですじゃ。むしろ断る者はおらんじゃろうて」


「そうね。これはインファネース史上初の大事件よ。私達の力を合わせる必要があるわね」


「でも、王妃様をどの様に歓待するかなんて分からないよ。妖精達が変な悪戯しないか心配だなぁ」


 確かに、ここは各商店街が一丸となって取り組む事態ではあるが、ティリアが危惧しているように妖精の動向が気掛かりだ。失礼な事をしでかさないと良いけど、信用は出来ない。いや、逆の意味では信用出来そうだけどね。



「あ、あの! 王妃様には是非とも私の北商店街にお越しくださいませ。貴重で珍しい宝石を仕入れましたので、王妃様にお贈りさせて欲しいのです。さぞかしお似合いになる事でしょう」


 早速カラミアが王妃にすり寄ろうとしてきたな。その度胸は流石だとしか言えない。


「いえ、それは結構です。私には必要ありません」


 ピシャリとカラミアの提案を断る王妃に、一瞬空気が固まる。カラミアもまさか断られるとは露程も思っていなかったかのか、分かりやすく狼狽え、顔が青くなっていく。


「怖がらせてごめんなさい。でも大丈夫、そんな事をしなくても私は味方よ。貴女がレインバーク家の為にどれ程身を削ってきたか、私は知っているわ。義娘の母親を死に追いやった罪、義母として見過ごす訳にはいかない。此方の方でも色々と調べているの。あと少しで、貴女の献身的な努力は報われる。これからは共に力を合わせましょう」


「あ、あぁ…… 王妃様、わ、私は…… 」


「良いの…… 良いのよ。一人でよく頑張ったわね」


 感極まって泣き崩れるカラミアに、王妃様は優しく肩を抱く。


 緩急の落差がえげつないな。このたったの数分であのカラミアを落としてしまった。思った以上に恐ろしい人だ。


 カラミアが落ち着いたのを見計らい、今度はティリアに声を掛ける。


「西商店街を通った時に、馬車の中から街の人達と妖精が楽しくお喋りをしている様子を見たわ。私も妖精と仲良くなれるかしら? 」


「えっ!? えっと…… それなら、アタシの経営する喫茶店に行きますか? そこなら妖精達と一緒に食事が出来ますよ」


 王妃は是非お願いしますと満足そうに首肯き、今度はヘバックに向き直る。


「東商店街は新鮮で美味しい海の幸が味わえるとか…… それに人魚と会えるのも楽しみね」


「ホッホッ、それならうってつけの店が御座いますじゃ。時間がありましたら何時でもご案内致しますぞ」


 コミュニケーション能力が半端ない。王妃ともなれば、色んな所で気を使わないといけないのだろう。この流れから来ると、次は俺の番かな? 等と身構えていたら、


「皆さん。お忙しい中、ありがとうございました。これからよろしくお願いしますね」


 ちょっと! 俺はスルーですか? 南商店街には特にこれといって有名なものはないけどさ、なにも思い付かない程なの?

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