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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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18

 

 あれから人魚達との話が纏ると直ぐに俺とアルクス先生はインファネースに戻り魔道具の作成に着手した。


 ヴァンパイア達が使っていた術式を参考にして、新たな式を構築する。元のままでは範囲が広く、海の上にまで効果が及んでしまうので効果範囲を狭め、その分消費魔力を抑える事に成功した。




 かれこれもう一週間は試作品を作っては試験の繰り返し、その間家には帰らずシャロットのゴーレム研究所に入り浸りの毎日…… そろそろ限界だ。ここは一旦頭をリフレッシュする必要がある。


 という訳で、今俺はアルクス先生と二人で夜の街に出ている。外の空気を吸わないと病気になっちゃうよ。ついでに適当な酒場にでも寄りたいね。


『それが目的なんだろ? 外で飲む酒は旨いからな、相棒』


 流石は俺を相棒と呼ぶだけあって、テオドアは良く分かってらっしゃる。ふいに店で飲みたい気分になるって事あるよね?


「僕はあまりお酒が得意な方ではありませんので…… ですが、たまにはこういうのも良いですね」


 それでもこうして付き合ってくれるんだから、アルクス先生は相変わらず律儀な人だよ。


 南商店街までは流石に距離があるので、今日は東商店街にある酒場へと足を運ぶ。人魚達の店のような魚介専門ではないが、豊富な海の幸を使用した料理が売りの酒場だ。


 店に入り、適当な席でエールと料理を注文する。


「他の店もそうでしたが、魚の値段が上がっているようですね。それに、メニューの中にある料理の幾つかが材料不足で作れないとは…… これは思ったより深刻な問題です。今はまだ店の品が何個か減るだけで済んでいますが、その内他国に輸出する分が足りなくなってしまうかも知れません。そうなったら、インファネースの経済は大きく荒れてしまうでしょうね」


「まぁ、呑気に酒を飲んでいる場合かとも思うけど、ここまで概ね予定通りに進んでいるじゃないですか。焦っても良い物は作れないですし、行き詰まったとしても気分転換は必要ですよね? 」


「どちらにせよ、ライル君はお酒が飲みたいという訳ですか? やれやれ、昔から子供らしくありませんでしたが、更に大人びてきましたね」


 そりゃ、前世と合わせればあと少しで五十になるからね。見た目子供でも中身はフレッシュとは程遠いくたびれた中年ですよ。いや、もう初老か。体は元気なのに心が追い付かない、なんとも不思議な感覚だよ。






 この後も時偶アルクス先生と外食をしつつ、魔道具を作り初めて半月。シャロットの手伝いもあってどうにか完成した。後はこれを人魚達に渡して各々の拠点に設置してもらうだけだな。


 長かった…… これでやっと家に帰える―― と、安心している俺の他にも、見るからにホッとしている人物が一名いた。


 正に今、シャロットの隣にいるコルタス殿下である。シャロットが俺達を手伝っている間、殿下は何をしていたかと言うと…… 護衛のアレクシスを伴って視察という名の街ブラ観光をしていた。しかし、本来なら婚約者のシャロットが街を案内する予定だったのが、俺達の魔道具作成の手伝いをし始め、殿下は放ったらかし。面白くはないけど街の存続に関わる事なので強くは言えずに不満が溜まっていたと、アレクシスから聞いている。


 これでやっとシャロットと街へ繰り出せるのが嬉しいのか、殿下の表情は明るい。本当に彼女が好きなんだと見ていて伝わってくるよ。


「お疲れ様、ライル」


 シャロットと殿下を眺めていると横からエレミアが声を掛けてくる。


「エレミアもお疲れ。洗濯とか色々と雑用をしてもらって悪いね。ありがとう」


「これぐらいしか出来ないから。さ、お家へ帰りましょう? 皆が待ってるわ」


 店には母さん達の他に、俺が魔道具の作成に集中出来るようにと、アグネーゼとゲイリッヒが残って手伝ってくれている。この二人にも感謝だな。


「この完成した魔道具は明日、僕の方から人魚達に渡しておきますので、ライル君はエレミアさんと一緒に帰っても大丈夫ですよ。ゆっくりと休んでください」


「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。お疲れ様でした、アルクス先生。魔道具の件、よろしくお願いします」


 シャロットとコルタス殿下にも軽く挨拶をしてからエレミアと我が家へと帰る。




「あぁ、我が主よ。お戻りになるのを心よりお待ちしておりました」


「ライル様、お帰りなさいませ。魔道具は完成されたのですか? 」


「お帰り、ライル。ちゃんと食事と睡眠は十分に取ってたの? 街の為に働くのは良いけど、先ずは自分の体を第一に考えるのよ」


「お? エレミアから聞いたぞ? 時々研究所から抜け出して夜の酒場に行ってたらしいね。あたしも呼びなさいよ! 」


 今日の閉店作業をしていた皆が、店の扉を開けた俺とエレミアに気付いて集まってくる。リックの姿がないけど、もう教会へ戻ったのかな? 何にしても、こうしてお帰りと言って貰えるのは良いものだ。ここが俺の帰る場所だと心から実感出来る。


 そんな風に染々と噛み締めていたら、エレミアが先に中へ入ってくるりと俺に向かい合った。


「お帰り、ライル」


「…… うん、ただいま」


 不便な体に物騒な世の中。前世と比べて暮らしやすいとは言えないのに、何故か心が満たされる。どんなに暮らしが安定し危険が少なくても、孤独が全てを台無しにしてしまうのだと、今だからそう思うのかも知れないな。


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