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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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17

 

 シーサーペントの脅威から脱した俺達は、急いでこの海域から離れ港近くへと船を進める。そこなら都市を覆う結界の近くなので何かあったすぐに避難出来る。


「わっはっは! 圧倒的ではないか!! このゴーレムさえあれば、どこぞの威張り腐った龍なんざ一捻りよ! それはそうとライル、さっきので魔力の殆ど持っていかれちったから、補充お願い」


 散々ゴーレムで暴れ回って、アンネは上機嫌だ。反対に魔力収納ではギルが苦い顔をしている。


『羽虫め、調子に乗りよって。あんな玩具より、我がブレスの方が威力は上だ』


 おいおい…… 頼むから外で喧嘩しないでくれよ? 魔王以外のトラブルは御免だ。


「ライル君、そろそろ捕らえたサハギンが目覚めそうですよ? 」


 アルクス先生の言った通り、水球の中にいるサハギン達が目覚め始めた。今の状況を理解していないのか、キョロキョロと周囲を見回している。


「当初と比べて、僕達を見ても落ち着いていますね。いきなり襲い掛かってくる様子はありません。これは魔王の支配から解放されていると見て良いのですか? 」


「恐らくは、そうかと…… 試しに一旦魔力を引っ込めて、マナの流れを戻しましょうか? 」


 お願いしますとアルクス先生の了承を得て、俺は水球を包んでいた魔力を消した。すると、サハギン達の様子に変化が現れる。最初はさっきまで訳もわからず忙しなく頭を動かしていたが、徐々に大人しくなり、目の光に殺意がこもっていく。


 そして遂には目の前にいる俺達に向かって飛び掛かろうとするが、激しい水流に手も足も出せない。これは水槽というより水の牢獄だな。


「今が魔王に支配されている状態ですね。何か分かりましたか? 」


「魔力で解析した結果、何らかの力が外部から流れてきているのは分かります。たぶんこれが魔王の力なのだと思います。それと、魔力念話で意思疎通を図ったところ、対話は成立しませんでした。初めは戸惑っている感情が伝わり、魔力を消した後には怒りと一種の強迫観念のようなものを感じました」


「成る程、精神に強い影響を及ぼし、思考を誘導していると思われます。これに抗うのは並大抵ではない精神力が必要となりますね」


 という事は、必ずしも魔物全般は魔王に支配されているとは言えないのか? テオドアやゲイリッヒも魔物だが、魔王に支配されてはいないようだし。


『私は二千年前、魔王となった偉大なる父からヴァンパイアの力を授かったのです。こんな支配力なんかに屈する私ではありません。今私が心から仕えるのは、我が主ただ御一人のみ』


『へッ! 元アンデッドキングを舐めんじゃねぇよ―― と、言いたいところだが、俺様の場合は聖教国で交わした神々の誓約で影響が無いだけだがな』


 ゲイリッヒは純粋な精神力で、テオドアは前に俺と交わした誓約の効果で魔王の支配を回避しているようだ。


「どうです? 魔道具で魔王の支配を解除出来そうですか? 」


「もう少し調べてみない事にはまだなんとも…… 」


 その後、俺は魔力でマナを遮断したり戻したりと何度も繰り返し、サハギン達の変化を事細かに解析した。だいたい魔王の支配力ってのが掴めてきた。このなんとも言えない不快にさせるものが、サハギンの魂に直接侵入しているようだ。


 色々と試してみたけど、直接その魂に侵入している嫌な力を取り除くことは出来なかった。いくら神から授かった魔力支配の力でも、魂までには手が出せない。やはりギルの言っていたように、マナを遮断する方が確実だな。


「だいたいは分かりましたが、その術式を一から作るのは中々に厳しいですね」


 アルクス先生曰く、魔道具自体は作れるのだけど、完成するまで時間が掛かりすぎるとのこと。いざ出来上がっても、既に手遅れな事態になっていては意味がないと危惧していた。


『我が主よ。サンドレアでとある魔道具を解析したのをお忘れですか? 確かその魔道具はマナを遮断する効果があったと思いますが? 』


 あっ…… そういやそうだった。サンドレア王国がアンデッドキングに占拠されていた時、国全体に魔道具でマナを遮断され、国内にいるクレス達と連絡が出来なくなっていた時期があったな。


「成る程、その魔道具を解析した術式を、ライル君は持っている訳ですね? それを応用すれば簡単に作れますね」


「だけどアルクス先生、それを何処に設置するのですか? 」


「漁場となっている海域に設置したいと思ってますが、中と外での通信が出来なくなってしまうのでしたね…… それなら、範囲を海中に限定してしまえばどうでしょう? 」


 うん、それなら通信の妨げにはならない。問題は魔道具の設置場所が最低でも四ヶ所必要だという事だ。


「海底でも良いのですが、それだと魔物に破壊されてしまう恐れがあります。安全で魔物達が寄ってこないような所が望ましいですね」


 海域周辺の地図を睨んでは唸っている俺とアルクス先生に、一人の人魚が地図上のある箇所に指を指す。


「ここは我らが拠点とする場所の一つだ。ここは深く要り組んだ海底洞窟となっており、滅多に最深部まで魔物は来ない。ここにその魔道具とやらを一つ置くのはどうだ? そこなら仲間の人魚もいるので魔道具を壊される心配はない」


「各地に点在する人魚達の拠点を利用する訳ですね? それなら広範囲の海域に魔道具の効果を発揮する事が可能になりますよ。ご協力感謝します」


「魔物が暴れ、海が荒れるのは我々にとっても望ましくない。魔道具を置くだけなら、きっと女王様も許可してくださる」


 こうして、人魚が拠点としている場所に魔道具を設置する事に決まり、細かな話し合いが行われた。因みに、実験に協力してくれたサハギン達は人魚の手によって始末されている。可哀相だけど、あのまま逃がしていたら他の漁師に危険が及ぶかも知れないからね。



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