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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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13

 

 これまで使用していた魔物避けの魔道具は、魔物が嫌う音波を発生させて遠ざける仕組みだったな。魔王の影響で興奮状態になっている魔物にはその音が届いていたとしても、嫌悪感より殺意が勝っている状態なのだろうとアルクス先生は言う。


「この都市に使われている結界の魔道具を使うのは駄目なんですか? 」


「船を守るだけならそれで良いかも知れませんが、それだと船の周囲に魔物が集まり、魚が逃げて漁獲量も減り続けるままですよ? 」


 そうだった。これは単純に魔物から船を守るという話ではなく、不漁を解消する為に魔物を遠ざける必要があるんだったな。結界を張ったとしても、船には近付ける訳だから漁の邪魔になる。


「いつまでも人魚の皆さんに護衛をさせる訳にはいきませんからね。人魚達も海を管理する役目もありますので」


 う~ん…… でもあの結界も駄目となれば、他に何かあったかな?


『魔物達は魔王の影響により、一種の興奮状態に陥っている。なら、平常に落ち着かせる効果がある魔道具を作ればどうだ? 』


『え? ギル、それって魔王の支配を一時的に無効化させるって事だよね? そんな事が可能なのか? 』


『普通なら無理だ。だがしかし、お前の持つその魔力支配の力ならその仕組みを解析出来るだろう。いくら魔王の力とは言え、何も無しで世界中に魔物を支配出来る訳ではない。それは魔力収納にいるアルラウネ達によって実証済みだ。これがどういう意味か解るか? 』


 魔力収納にいるアルラウネ達には魔王の影響はない。魔王が支配出来ているのは外にいる魔物達だけ……


「つまり、何かを通して魔王の支配力が魔物に影響を及ぼしていると? もしや、マナが関係しているのですか? 」


『うむ、その通りだ。大気中に存在するマナを伝い、魔王の支配は魔物へと伝染する。その経路を一時的でも断つ事が出来たなら、魔物も正気へと戻るだろう』


 俺とギルの会話を魔力念話で聞いていたアルクス先生が答える。成る程、それなら世界中の魔物を支配出来る理由にはなるな。


「確かに、それならライル君の力でどうにかなるとは思いますが、それを魔道具にするのは相当困難な事かと」


『そこまでは我の預かり知らぬところ。魔道具に関してはお前達人間の管轄ではないのか? 』


「それはごもっとも。ライル君、出来そうですか? 」


「はい? あっ、そ、そうですね…… まだ仮説の段階ですので、何とも言えません。取り合えず、ギルの言ったように周囲のマナを遮断して魔物が魔王の支配から脱せるのか試してみないと」


 そう、いくらアルラウネ達という実績があると言っても、俺の魔力収納内が特別なだけかも知れないし、先ずは問題になっている海の魔物達で実証しない事には話は進まない。


「それじゃ、明日の朝一番に港で落ち合い、そこから船を出してその仮説を立証してみましょうか」


「アルクス先生も一緒に来てくれるのですか? 危険ですよ? 」


「だからですよ。生徒だけ危険な目に遭わせる訳にはいきませんからね。そうと決まれば、もう日も暮れますし今日はこれで解散としましょうか。僕の方からヘバックさんに頼んで船の手配などを済ませておきます」


 その後、細かな打ち合わせをした俺達は、部屋を出てシャロットとコルタス殿下の下へ向かった。







「だから! このゴツゴツ感が良いんじゃない!! 」


「いや、これでは細かな動作が難しいだろ。出来るだけ人間に近付けた方が効率的に敵を排除出来ると思うが? それにこんな大きさでは目立ってしまってただの的になるのが目に見えてるぞ」


「かぁー! なんも分かってないね!! デカイから格好いいんじゃない。人間とおんなじ形にするなんて、それはもうゴーレムじゃなくて人形だよ。あたしはゴーレムが良いの! 」


「ん? 何か違いでもあるのか? 」


「全然違わい!! 」


 使用人からシャロット達はゴーレム作成室にいると聞き、中に入ってみたら、妖精のポックルとコルタス殿下が何やら言い争いをしている最中だった。


「あの、これはいったいどういう状況なんですか? 」


「あら? ライルさん、もう仕事のお話はよろしいので? これはその、ゴーレムという認識の齟齬が招いた衝突とでも言いましょうか…… 」


 なにそれ? 全然分かんない。とにかくコルタス殿下の何気ない発言がポックルのゴーレム愛に火をつけたってのは間違いなさそうだ。


「あっ!? ちょっとライル! あんたは分かるわよね? ゴーレムの良さがさ! この態度のデカイ人間は駄目ね。効率がどうのじゃないのよ、これはロマンなの!! 」


「おい、ライル。妖精ってのは皆こいつみたいに面倒なのか? ろまんがどうとか訳の分からん事ばかり言って、ちっとも話を聞こうともしないぞ」


 うわっ!? こっちに話を振らないでくれます? ほら、シャロットも俺がどう答えるか期待の籠った目で見てくるし、どうしたら良いんだよ。全く正解が見えない。


 あっ…… アルクス先生とエレミアがさりげなく俺と距離を取っていく。おのれ、この薄情者! 俺の心は少し傷つきましたよ。


「それで、ライルさん。どうなんですか? ポックルさんと殿下、どちらの意見を支持なさるので? 」


「絶対に大きなゴーレムの方が良いよね! だって格好いいじゃん!! 」


「いや、人間に近い方が魔力効率も良いし、どんな環境でも最大限の成果を上げられる」


 ハッキリ言ってどっちでも良いよ。でもそんな事を口に出したら、攻撃対象が一気に俺へと変更されてしまうんだろうな。


「すみませんが、私とアルクス先生は色々と立て込んでおりまして、その答えはまた後日改めてと言う事で…… それでは、お疲れ様でした」


 俺は口早にそう言うと、踵を返して急いでこの場を後にした。こんな何を答えても面倒事になるのが分かってるのに、態々それに付き合う必要はない。ここは戦略的撤退をさせて頂きます。



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