表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
564/812

9

 

 三が日が過ぎ、やっと国は本格的に防衛へと乗り出した。


 先ず、各領地にシャロットが開発、提供した新たなゴーレム理論を元に作られたゴーレムと、それを操る魔術師を派遣し防御を固める。


 従来のゴーレムは人間のような複雑な動きを全て魔術師が操作しなくてはならなかったので、一人につき一体を操るのが精一杯だった。


 しかし、シャロットによって開発されたゴーレム核には、ある程度は自分で判断し最善な動きを可能にする術式が施され、簡単な命令だけで後は自動で行動してくれる。前世でいう人工知能のようなものだ。それにより魔術師の負担は大幅に激減され、今では一人五体までなら訓練次第で操作出来るようにまでなった。


 そうなると必然的に魔術師が多く必要とされ、大々的に魔術師の募集が始まり、魔術学園の生徒をも駆り出す事態となった。


 魔術師の活躍出来る場が増えて嬉しいとアルクス先生は喜んでいたが、それと同時に研究する時間が取れなくなってしまうのは問題だと悩んでもいた。俺には良く分からないけど、複雑な心境なんだと思う。

 逆にシャロットは素直に喜びを露にしていた。これ迄不遇だったゴーレムが遂に日の目を見るのだから当然か。まるで自分の子供が立派に独り立ちしたようで感激だと涙ぐんでいたな。



 他の国も、尻を叩かれたような勢いで防衛準備を始めた。魔王の脅威を国が一つ滅ぶという形で分かりやすく見せられたんだ、これで動かない国はないだろう。それに伴い、ここリラグンド王国は結界の魔道具を大量に生産し、他国へと売り出す算段をつける。


 勿論、性能はインファネースに使用しているのと同じ。領主が王へ事細かに報告していた甲斐があり、王からの信頼も厚く、会議の場での発言も大きい。その為、貿易都市であるインファネースが主体となってそのプロジェクトを任されたらしい。


 それと同時にリリィが提案した転移魔術による軍事運用について、参謀総長と細かな話し合いが行われているとクレスから連絡があった。


「会議場にいる殆どが、自分の保身で頭が一杯みたいだ。勇者候補が確認された時点で何処かで集まり、魔王に挑もうという考えはないらしいね。勇者の力が七等分されているというのなら、力を合わせて戦えば良いのに…… そうすれば、もしかしたらトルシア王国だって救えたかもしれない」


 マナフォンから聞こえてくるクレスの声は後悔と失望が混じっていた。せっかく勇者候補として力を授かったのに、それを望む形で振るえないのが相当悔しいのだろう。


「いざとなったら、冒険者の立場を利用して勝手に動かせてもらう予定だけどね。これ以上魔王の凶行を指をくわえて見ている訳にはいかない」


「気持ちはお察ししますが、どう動くつもりなんですか? 」


「各地にいる勇者候補に会って、共に魔王と戦うよう説得するつもりだよ。この国の会議を聞く限りじゃ、何時まで経っても守り一辺倒で攻めもしないだろうからね」


 う~ん、そこまで酷い内容の会議だったのかな? とにかくクレスの決意は固いようだ。勇者候補の一人である彼がそう望むのなら、俺は出来るだけ支援しよう。


「分かりました…… なら、その時が来ましたら帝国へ行くことをお奨めします。あの国は戦争国家とも呼ばれるほど軍事力は高いですし、雷の属性神に選ばれた勇者候補もいます。それに、帝国最強の守護者である黒騎士も、本格的に魔王討伐に乗り出すみたいです。是非ともそこを利用してみては如何でしょうか? 」


「へぇ、あの噂に名高い黒騎士が? ありがとう。ライル君の言う通り、そうなったら先ず帝国を訪ねるとするよ」


 今はまだ帝国も押し寄せる難民達の世話で戦うどころではないが、いずれ体勢を整えて総攻撃に出るだろう。


 勇者候補達と帝国の軍事力が合わされば、魔王の軍勢にだって十分に太刀打ち出来る。きっと他の国も帝国が動き出すのを待っている状況で、それまで防備を固めて耐えるつもりなんだと思う。


「ところで話は変わりますが、もう一人の勇者候補には会いましたか? 」


「あぁ…… 火の属性神に選ばれた勇者候補で、名前はアランと言ったかな? 貴族らしく尊大な態度だったけど、根は真面目そうな少年だったよ。レイチェルと双子だって言うのは驚いた。ライル君の知り合いでもあるんだよね? 」


「それは本人から? 」


「いや、レイチェルから。彼女もアラン君の付き添いで王城に来ていてさ。お陰で初対面もすんなりといったよ」


 レイチェルはアランと一緒に王都へ行く為に呼び戻されたのか。


「彼女、君と一緒にいられなくてかなりご機嫌斜めだったね。こんな所にいるより兄様の側にいた方が学べる事が多いのにって愚痴っていたよ」


 ハハ…… 元気そうで何よりだ。


「クレスさんは、アラン君に先程の考えを話したのですか? 」


「うん、僕の思いを伝えたところ、将来領地を治める身として長く離れる訳にはいかないと、あまり乗り気ではなかったかな。でも、領地には父親のハロトライン伯爵がいるし、前向きに検討してくれるみたいだよ? 」


 結局、魔王を倒さなければ世界は荒れて領地を治めるどころではなくなる。それを加味すれば暫く留守にしてさえも魔王を討ち倒した方が領地の安全と発展に繋がると思ったのだろう。まぁ、レイチェルがそれとなく助言して誘導したふしがあるけど。


 さて、帝国にいる血気盛んだと言う青年と、アランにクレス。これで三人の勇者候補は一応繋がったと見て良い。残りの四人は素直に力を合わせてくれるかな?


明けましておめでとうございます。


今年もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ