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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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8

 

「ライルさん、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」


 三が日の最終日、ジパングの商人であるスズキさんが新年の挨拶をしに店に訪れた。


「はい、明けましておめでとうございます、スズキさん。此方こそよろしくお願いいたします」


 ジパングとは主にお酒や着物生地、米やジパングならではの調味料等を輸入し、インファネースからは各国から集まってくる調度品やら鉱石、宝石等を輸出している。


 初めはインファネースと商会の小さな取り引きだったが、今では国同士で行われる程の規模にまで発展した。そのお陰でスズキさんが所属している商会以外の船も良く見掛けるようになる。


 ただ、あくまでもジパングとリラグンド王国の間だけで、他の国には行ってないらしい。やっぱりまだ五百年前の事があってか、中々積極的に交流しようとはしないようだ。


「ジパングでも魔王出現の話は聞いております。これから大陸は荒れるでしょうね。インファネースは大丈夫なのでしょうか? やっと取り引きも安定してきたと言うのに、魔王を恐れてまた自分達の島で閉じ籠るのは勘弁して頂きたいですね」


 スズキさんはハゲかかった頭部を心配そうに撫でていた。


「既に国が一つ魔王によって潰されましたからね。心配するお気持ちは分かります。ですが勇者候補達もいますし、インファネースには妖精や他種族の皆さんもいますので、何とか切り抜けて見せますよ。それより、ジパングの方はどうなんです? 魔王の影響はないのですか? 」


「えぇ、勇者候補こそいませんが、大陸に比べれば魔物が少ない島国ですから、今の所問題はありませんよ。ただ、大陸が魔王によって支配されてしまったのなら、次は確実に此方の番になってしまいます。なので魔王を倒すのに協力は惜しまないと国の方針で決まったみたいですよ」


 おぉ! それは心強い。しかし、協力と言っても具体的にどういったものになるのだろう?


「ジパングから選りすぐりの者達をこのリラグンド王国に派遣してくださるようです。勿論、インファネースにも送られますので、防衛として十分にお役立て頂けたら幸いですね」


「それは有り難いです。外壁の建設作業もありますし、人手は多い方が良いので」


 それからスズキさんと色々情報交換をし、半額セール中の商品を何時もより多く買って行ってくれた。


 いくら大陸と離れていようとも、魔王の脅威が薄まる事はなく、ジパングも五百年前の確執がどうのと言っている場合ではないのだろうね。





「皆さん、明けましておめでとうございます! 今年も良い生地をお願いしますね! 」


「はぁい♪ 貴方が来たお陰で私の店もお肌も潤いっぱなしよ。今年も頼むわよぉ」


「ライル君、師匠を紹介してくれてありがとう。少し厳しくてすぐに拳が飛んでくるけど、鍛冶の腕は確実に上がってきていると実感しているよ。今年もよろしく」


 店が一段落したのか、服飾屋のリタ、薬屋のデイジー、鍛冶屋のガンテが新年の挨拶に来てくれた。


「私もこの街で皆さんと出会えて良かったです。今年は大変な年になりそうですが、共に力を合わせて乗り越えていきましょう。よろしくお願いいたします」


 思えば宿や酒場以外の店って、この三つぐらいしか無かったんだよな…… それが今や新しい店舗も加入して、随分と南商店街は賑やかになった。そう思うと感慨深いものがあるね。


「まさか南商店街にこんなにお客が来るようになるとは思いませんでしたね。二年前まではずっと暇なのが当たり前だったのに…… 何だか不思議です」


「リタちゃん、不思議でも何でもないわよ。今までの私達はそれで良いと何もしなかったじゃない? でも、ライル君達という新しい風が吹き込んで来て、私達をその気にさせたの。これで変わらないなんて事はないわ」


「そうだね。最初はこんな所で店を持つなんて変わった少年だとしか思っていなかったのに、いつの間にか俺達の代表にまでなってるし、まさかドワーフの弟子になれるとは…… 南商店街もインファネースもまだまだこれからだって言うのに、この時代に魔王が出るなんて、ついてないよ」


 店の隅にあるテーブル席で、久しぶりに三人が揃って紅茶を飲みながら雑談に花を咲かせていた。最近ガンテが忙しくて中々三人が一緒に集まる事がなかったから、ひどく懐かしい気分になる。


「それにしても、ライル君の店も随分と人が増えたよね? 」


「そうなのよ! ついこの間店に入った新しい子がもう可愛くって、おねぇさん滾って来ちゃうわ!! ほら、さっき店の前で呼び込みをしていた子でね、リックちゃんって言うのよ」


「あ、私はゲイリッヒさんが良いですね。なんか紳士的な雰囲気がして格好いいです」


 話は一転してキャイキャイと騒ぐ二人に、ガンテは苦笑いを浮かべて紅茶を啜る。というかリック、随分とデイジーに気に入られたみたいでご愁傷様です。たぶん話を聞いていたガンテも同じ気持ちを抱いている事だろう。

 リタはゲイリッヒ派か…… リックとゲイリッヒ、それと比護欲がそそられるというシャルルとで、女性人気が分かれそうだな。




 この街に来てもう二年になるのか…… 俺自身もインファネースをこんなにも変えてしまうなんて思っても見なかった。始まりは世話になったエルフの皆に、もっと快適な暮らしが出来るようにとしか考えていなかったのにな。


 それが巡りに巡って此処まで大事にしてしまった。この二年を振り返って見れば、出来るだけ目立たないようにと考えていた当時の俺に一言物申したいね。


 このお祭り気分も今日で終わり、明日から辛い現実に向かい合わなければならない。それでも、インファネースなら大丈夫だと思わせる何かがあると、俺はそう信じている。




すみませんが、明日と三が日の更新を休ませて頂きます。


また来年もよろしくお願いいたします。


では皆さん、よいお年を。

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