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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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3

 

「魔物の大群が帝国へ向かっている? それは本当ですか? 」


「はい、そういう話があちこちから聞こえています。種族も様々で、オーガ、ゴブリン、アラクネ、ハルピュイア、リザードマン等、統一性がないとの事」


 何時も通り店番をしていると、配達業務をしている堕天使の一人が報告したい事があると店に来たので、カウンターをゲイリッヒに任せて奥へと引っ込む。因みに、リックはまたデイジーに捕まっていた。お気の毒に余程気に入られてしまったようだ。


 それにしても魔物の大群ねぇ…… 十中八九魔王が集めていると考えられる。


「どうして帝国に向かっていると? 」


「それが、仲間の一人が上空で様子を見ていたところ、途中の国にある町、村を一切気にせず素通りしているらしいのです。脇目も振らずに帝国方面に歩く魔物達は、まるで行軍しているかのようだったと言っていました」


 普通は進路上にある町や村なんかを襲って略奪しながら進むもんだと思うが、これは何ともきな臭い。まさか魔王は初めに帝国を攻めるつもりなのか? よりにもよって大陸一の大国家を? それほどまでに自信があるというのか。


「報告ありがとうございました。引き続き、何か分かったらお願いします」


「はい、ではこれで失礼します」


 堕天使が裏口から出ていくのを見届け、しばし物思いに耽る。


 さてどうしたものか…… 例え魔王が帝国を滅ぼそうとしているとしても、俺が出来る事は何だ? これから帝国に赴いて一緒に戦う訳にもいかないしな。まだまだインファネースの守りが十分ではないこの状況で離れたくない。


 それに、帝国には()()()がいる。そう、黒騎士こと初代皇帝、ベネディクト・ベヒトルスハイム・アスタリク。


 そういえば彼にもマナフォンを渡していたっけ。いい機会だから連絡を取ってみよう。


 俺はマナフォンを魔力で操作し、黒騎士へとかける。




「…… む? ライルか? 久しぶりであるな。息災であったか? 」


「はい、お久しぶりです。急で申し訳ありませんが、少々気になる事を耳に挟みましたので、こうして連絡をとった次第です」


「それは魔物が余の国に迫って来ている事か? 」


「流石にもうご存知ようで」


「余の国に関わるもので知らぬ事はない」


 この人が言うと大袈裟とは思えないな。


「それで? まさかそれだけを確認する為に連絡したのではあるまいな? 」


「いえ、そのまさかです。かなりの大群だと聞きましたので、帝国はどう対処するのかと思いまして」


「どうもなにも、正面から武力でもって叩くだけだ。たかが魔物の群勢ごとき、帝国の敵ではない。例えそこに魔王がいようともそれは変わらぬ。五百年前にも経験しているのでな」


 あぁそうか、前の魔王が誕生した時代にも黒騎士は存在していたんだったな。


「黒騎士様なら攻めてきた魔王を倒せるのではありませんか? 」


 この人は帝国に関わる以外の事にはまるで関心がない。でも、今回は明確に帝国が攻められるのだから、おのずと魔王との戦闘は避けられない。オーガキングとの戦いを見るに、まだまだ余力を残していた感じだったし、本気を出せばもしかしたら…… なんて期待したけど、どうやらそう上手くはいかないようだ。


「お主も知っていようが、余は闇の属性神によって最早人間の定義から逸脱した存在となった。その為、残念ではあるが余では魔王に勝てぬ。だが幸いに、帝国にも勇者候補に選ばれた者が一人いる。雷の属性神に選ばれ、余との初対面で決闘を申し込んでくるような血気盛んな、久々に鍛えがいのある青年であった。魔王はあやつに任せようと思っている」


 へぇ、帝国にも勇者候補が出たのか。しかもあの黒騎士に出会って早々挑むなんて、血気盛んどころの話ではないと思うんですが? まぁ、帝国らしいとは言えるけどね。


 正直、魔王を倒してくれるのなら誰でも構わない。なので実際に魔王となった瞬間を見た俺が、知りうる限りの情報を黒騎士に伝えた。


「貴重な情報を感謝するぞ、ライルよ。余の国を侵略せんとする愚かな魔王に目にもの見せてやろうぞ」


「それでは健闘を祈っております」


 黒騎士との会話を切り上げマナフォンを仕舞う。


 ふぅ…… 帝国には黒騎士と勇者候補がいるし、そう簡単に落とされるとは思えない。それは魔王も承知の筈だ。なのに何故? いったい何が目的なんだ?


 自信に溢れる黒騎士の言葉を受けても、俺の胸に燻っている不安は消えてくれなかった。それを誤魔化すようにカウンターに立ち、何時もの日常に身を委ねる。


 そんな俺の姿に違和感を感じたのか、エレミアは何も言わずにそっと近づいて店が終わるまで側にいてくれた。


 すぐ横にエレミアの体温を感じつつ、リックがデイジーに絡まれ、それを見て苦笑するリタがクッキーをかじる光景を眺めているだけで心が安らんでいくと同時に、これから始まる戦争からこの日常を守りたいと強く思う。



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