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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十六幕】七人の勇者候補と戦禍の足音
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2

 

 クレスが勇者候補として選ばれたのは、オークキングが魔王となったすぐ後だと言う。


 意識を失っている所に、何とも不思議な夢をみたらしい。真っ暗な空間に眩い光の玉が話し掛けてきたのだそうだ。


 その光が言うには、自分は光と人間を管理する者で、魔王出現に伴い、クレスを勇者候補とするといった内容だ。もっと難しい言い回しだったけど、要約するとそういう事らしい。


 そして勇者候補だという証明になる “光の聖剣” なるスキルを授かる。


 このスキルは、神の世界から特別な力を持った剣を召喚出来るものらしく、なんとその素材は伝説の金属オリハルコンだと言うのだから驚きだ。



「本当はカルカス湿原で目覚めた時にはもう勇者候補として撰ばれていたのだけど、僕自身も戸惑っていて伝えるのが遅くなってしまった」


 クレスは申し訳ないと謝ってくれるが、突然勇者候補になったのだから、頭と心の整理に時間が掛かるのは仕方のない事だよ。それよりも聖剣とはどんなものか気になったので、見せてもらえないかと頼むと、快く承諾してくれた。


 クレスがスキルを発動すると、何処からともなく光が現れてクレスの右手に集り剣の形へと変わっていく。そして光が収まるとその手に一振りの剣が握られていた。


 見た目は豪華絢爛とは言えないが、それなりの意匠が施され、不可思議な模様が柄から剣身へと刻まれている。しかも心なしかぼんやりと発光しているようにも見える。


 実物が目の前にあるのだから解析しないなんて選択はない。俺はそのオリハルコンという金属を解析して人工的に再現出来ないかと思い、魔力を伸ばして解析を試みようとしたら、剣に触れた瞬間にパッと魔力が飛散してしまう。


『無駄だ。あの聖剣は持ち主の魔力以外を弾く性質を持っている』


 ギルが言うのが本当なら、どんな魔法や魔術でもそこに魔力がある限り、全部弾いて無力化させてしまうとんでもない代物という事になるな。


「ハハ…… でも、結局は借り物みたいな物だからね。こうして剣を召喚している間にも、僕の魔力は消費されていくんだ。だから長くは使えないんだよ」


 聖剣を消しながら困ったようにクレスは笑う。成る程、ずっと出しておくことは出来ない訳か。


「他の勇者候補にも同じスキルが授かっているのですか? 」


「たぶんそうだと思うよ。光の属性神が言うには、勇者の力を七つに分けて与えられたのが勇者候補らしいから。それと同じで聖剣の力も七等分されてるんじゃないかな? 」


 本当に面倒極まりない事だけど、それだけ慎重に勇者を選定しなければならない事情があるのか。まぁそりゃそうだろうな、何せ魔王と同じくらい強い力を一人の人間に与えるんだ。下手な者がそんな力を手に入れでもしたら、例え魔王を倒せたとしても、新たな驚異となる。


「それじゃ、僕は城に来るようにと喚ばれていて、暫くインファネースから離れる事になる。恐らくそこでもう一人の勇者候補と会うだろうね。どんな人物か楽しみだよ」


「はい、気を付けて行ってきてください」


 その翌日にクレスは、リリィとレイシアを伴って王都へと向かって行った。それにしても随分とやる気に満ちていたな…… 勇者になるという長年の夢が手の届く所まできたのだから張り切るのは当然か。



 俺は直接魔王とは戦えないけど、やれる事はある。先ずはインファネースを魔物から守る事。その為に街の拡張工事を急ピッチで進める必要がある。


 街の外に新しい外壁を作り、インフラ整備をしなければならない。中立派の貴族達から資金を援助してもらい、工事にはドワーフ達が協力してくれる事になった。


 それとシャロットが新しく開発した搭乗型ゴーレムも運搬用として使用されている。誰が操っているかというと、なんと妖精達が中で操縦しているらしい。もうデザインといい、ゴーレムのリアルロボット化が止まらないね。


 妖精達も工事を手伝うというより遊んでいるに近い。その中には勿論アンネも混ざっている。こんな楽しそうなイベントを見逃す筈もなく、嬉々としてアンネ専用として特別に作られたゴーレムに乗って操縦していた。


「あたしが…… 一番うまく、ゴーレムを使えるんだ! 」


 おい、止めろ! 誰だあのセリフをアンネに教えたのは!? 俺じゃないとしたらシャロットしかいないな? 他にも何か吹き込んでそうで心配だよ。



 そんな感じで魔王と勇者候補の出現で世界は忙しなく動いてはいるが、今の所目立った被害はない。精々魔物が普段より活発になったぐらいで、魔王は不気味な程に身を隠している。


 嵐の前の静けさとでも言うか…… なにかとんでもない事を企んでいるようで不安ばかりが溜まっていく。


「大丈夫? 顔色が悪いわよ」


 店のカウンターにいる俺の顔を、エレミアが心配そうに覗き込んでくる。駄目だな…… こう時間があるとつい余計な事を考えてしまう。


「なに!? それはいけません! 早くお休みにください。店番はじぶんにお任せを!! 」


 有無を言わせずオルトンに担がれて部屋につれていかれた俺は、少し早めの休憩に入る事となった。後からキッカに聞いたのだが、言葉通りにオルトンがカウンターに立って店番をしていたようで、それ自体に問題はなかった。でも、オルトンの巨体と風貌で店に入ってくる客が尽くトンボ返りをしていたらしい。


 真面目でやる気はあるんだけど、オルトンに接客業は務まりそうもないな。俺を警護する為だとかで店の中に常時いるのも問題だ。このままでは少ないお客が更に減ってしまうよ。


 世界の危機の前に店が危ない。という訳で、俺が店番をしている時、オルトンには魔力収納にいてもらって代わりにあの若い神官騎士に来てもらう事にした。名前は確かリックだったかな?


「またライル様のお側にいられて光栄であります! 」


 うん。リックなら若いし見た目も好青年って感じで客受けも良さそうだ。魔力収納内では軽く落ち込んでいるオルトンがいるけど、そっとしておこう。


「あらぁ! 新しい子? 良いじゃなぁい。可愛い顔してるのに、程よくついた筋肉がそそるわぁ…… これがピッケちゃんの言っていたギャップ萌えってやつなのねぇ」


 これはいけない! 客じゃなくて角刈りのオカマが食い付いてきてしまった。デイジーに捕まったリックはそのままお茶の相手をさせられてしまう。腕を絡められて連れていかれる時、助けを求める視線を俺に向けてきたが、そっと逸らす事しか出来なかった。


 すまない、こればかりは調停者と呼ばれる俺でも無理だよ。健闘を祈る…… 俺は心の中でリックに敬礼を送るのだった。

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