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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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最後の冒険6

 

 …… 白い。


 気が付けば、見渡す限り真っ白な空間に俺は立っていた。いや、立っているのか? 良く分からない。フワフワと浮かんでいるような感覚もする。


 ここは、いったい…… ?


 とにかく、じっとしていても何も始まらねぇ。取り合えず足を動かして歩くことにした。


 やっぱりあれだよな? ここは死後の世界ってやつなのか? つうことは俺は死んだ?


 等と何もない殺風景な空間をただ歩きながら考えに耽っていると、遠くの方に人影が見える。それも一つじゃなく複数だ。


 さっきまで無かったのに突然現れやがった。まぁもしあれが俺と同じ様に此処へ来た者ならば、情報の交換は必要だよな? 何も分からねぇかも知れないが、一人でいるよか良いだろう。


 幸い、向こうも俺を発見したみたいでその場から動かないでいる。俺は少し早足でその人影の下へと向かった。



 近付くにつれ、ぼんやりとした影に輪郭がハッキリとし、完全にその人物を捉えるまでの距離に来ると、見覚えのある懐かしい奴等に俺は言葉を失った。



 何でここに? だってお前らは…… あの時確かに死んだ筈だ。じゃあ、やっぱりここは死後の世界か?



 ヒックス、レーガン、リディッシュ、レガリア、ランバウト…… あぁ、懐かしいな…… そしてすまねぇ。俺のせいでお前らを…… 一人無様に生き残っちまった俺を恨んでいるか? もし、許してくれんなら、お前らに話したい事が沢山あるんだ。


 あの後、俺は帝国を出て冒険者になったんだぜ。それとおもしれぇガキにも会ったし、妖精の連れも出来た。また昔みたいに酒でも飲んで語り合おう。


 しかし、近付こうとすると皆俺から背を向けて離れていく。


 おい、何処にいくんだ? 俺も―― ってなんだ? 足が動かねぇ…… 待て、待ってくれ! やっとお前らに追い付いたのに、また俺を置いていくつもりか? 俺も一緒に連れていってくれよ!!


 遠ざかっていく中、一人だけ此方に振り向き口を開いた。


「――――――」


 は? どういう意味だ? おい、ヒックス! 待てよ!! クソ、何で動かねぇんだ!


 石のように固まっちまった足を無理矢理動かそうと必死にもがいていると、急に体が持ち上がり浮上する感覚が俺を襲う。


 どうなってる? ヒックス達はそんな俺を見上げてあの時と変わらない顔で頬笑んでいた。







 …… 今度は何処だ?


 目を開けると、見慣れた天井が見える。ここは、ルベルトが文句を言っていた駐屯所にある臨時宿舎か?


「あら、目が覚めたのね? 気分はどう? 」


 横から声が聞こえたので首だけ動かして相手を確認する。


「気分は…… 良くもねぇし悪くもねぇな。それより何でお前らがここにいるんだ? エレミア」


「それはルベルトから連絡を貰ったからよ。もう必死になって貴方を助けてくれって叫ぶから、ライルが血相変えてアンネ様の精霊魔法で直ぐに駆けつけたのよ? 」


 エレミアはやれやれといった感じで、自分の膝を枕にして寝ているライルの頭を優しく撫でる。


「何でコイツも寝てんだ? 」


「貴方を治す為に無理をして気を失ったのよ。それに、他にもいるわよ? さっきまで頑張って起きてたみたいだけど、限界だったみたいね」


 エレミアの目線の先には、疲れきった様子で寝ているルベルトとグリムの姿があった。良かった、二人も無事だったみてぇだな。


 俺は上半身を起こして体を確認する。あんなに酷かった傷は、綺麗さっぱり治っている。これもライルの力なのか? まったく、どこまでも驚かせてくれるぜ。


「それにしても、よくあんな怪我で死ななかったな。もう助からないと思っていたが」


「えぇ、いくらライルでもあのままじゃ助けられなかったでしょうね。ルベルト達が回復薬で応急処置を施したお陰よ」


 そうか…… ルベルトとグリムの疲れきった寝顔を眺めていると、ふとあの真っ白な空間でヒックスが言った事を思い出す。



 ―― 今置いていこうとしているのは、隊長の方ではありませんか? ――



 確かに、俺は自分勝手な覚悟でコイツらを置いていこうとしていたのか。残される者の悲しみと喪失感は良く知っている筈なのに…… もう、潮時だな。


「お? 目覚めたか」


「あんたは…… 」


 驚いたな。あのオルハルコン級冒険者の英雄様が、中級冒険者の俺なんかを訪ねて来たってのか?


「あんたらがリザードマンキングを抑えてくれたお陰で、追い付けたんだ。一言礼が言いたくてな…… ありがとう。また別の戦場で会えるといいな」


「いや、今回の事で冒険者としての限界を感じてね…… そろそろ引退しようかと考えてる。だから、もう戦場で会う事はないと思うぜ? 」


「ん? そうなのか? 残念だが、それも一つの道だな。それじゃ、俺はもう行くよ」


 颯爽と出ていく英雄の背を見送る。本当に礼を言うだけに待っていたのか。


「冒険者を引退するの? 」


「あぁ。もう過去を追い掛けるのに疲れちまった…… 」


 エレミアは首を傾げて良く分からないって様子を浮かべるが深くは聞いてこなかった。まぁ俺も詳しく話すつもりもねぇがな。


「あー! ちょっと!! 助かったから良かったものの、勝手に死なないでよね! ただでさえ人間の寿命って短いんだからさ」


 俺を見るなりパッケが騒ぎ出す。やれやれ相変わらず五月蠅い奴だ。ルベルトとグリムが起きちまうだろ?




 こうして、俺の最後の冒険は終わった。


 さてと、これからどうするかな…… 取り合えずインファネースに帰って、新しい職を見付けねぇと。


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