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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第三幕】鉱山町の夢追う坑夫
55/812

12

 

 何事もなく朝を迎えて、馬車で移動する事数時間。昼を少し過ぎた頃に荒野を抜けて草原に入り、サーシャが叔母と住んでいる町に到着した。


 丈夫そうな外壁に囲まれていて、門を抜けるときちんと整備された道に赤瓦の屋根にレンガ造りの建物が建ち並ぶ光景が目に入る。


 馬と馬車を馬屋に預けて商工ギルドへと向かう。その間、エレミアは余程珍しいのかキョロキョロと忙しなく頭を動かして、まるでお上りさんのような反応をしている。


「へ~、これが人間の町なのね。あ!? 見て、ライル! あの人、尻尾があるよ。兄さんから聞いたわ、獣人って言うんでしょ?」


 その後も「あれは何かしら?」と、あっちにフラフラ、こっちにフラフラと危なくて目が離せない状態が続く。


「ちょっと、エレミア! 落ち着きなさいよ。 これじゃ、ギルドに着く前に日が暮れちゃうわ! 後でゆっくり案内してあげるから」


 サーシャが嗜め、エレミアは漸く落ち着いたようだ。実は俺もエレミア程ではないが、久しぶりの町で舞い上がっていたみたいで、気付いたら此処彼処に目移りをしていた。


「着いたぞ、ここが商工ギルドだ」


 それはレンガで作られた二階建ての大きな建物で、ノミと金槌らしき絵がV字に描かれた看板がつけられていた。中へ入ると、奥には長いカウンターが設置されていて、何人もの受付の人が対応している姿が伺える。入り口の横にある空間には幾つもの椅子が並べられ、待ち合い場になっているようだ。


「ライル、お前も早く並べ」


 グラントに呼ばれて端にある人が列をなしているカウンターに向かい、その列の最後尾に並んだ。


「私達は適当な席で待ってるわ」


 そう言ってサーシャとエレミアは待ち合い場に向かって行った。


 列に並び暫く待っていると俺の番になり、カウンターを挟んで受付の女性が業務的な挨拶をしてくる。


「商工ギルドへようこそ、本日はどのようなご用件ですか?」


「あの、登録をお願いしたいのですが」


「新規登録でよろしいですか?」


「あ、はい」


「では、この用紙に必要事項を記入して五番のカウンターに提出してください」


 受付の女性は一枚の紙を差し出して来たので、エルフの里で作って貰った木の腕を操り、それを受け取る。 その様子を見て受付の女性は一瞬だけ動きが止まったが、直ぐに平静を装い業務を坦々と遂行する姿勢に流石だなと感心した。


 少し離れた場所に記入台を見つけて、そこに置いてある羽根ペンとインクを使って用紙に記入していく。 えっと、内容は氏名に出身地か、ハロトライン領で良いかな? スキルの記入欄があるけど書いた方がいいのか? どうしよ、後で魔道具を使って確認されないだろうか? でもスキル無しはちょっとな…… ここは空間収納と書いておこう。 う~ん、後はよく分からないから受付の人に聞けばいいか。確か、五番のカウンターだったな。


「よろしくお願いします」


「はい、お預かりします」


 俺は五番カウンターの受付の女性に用紙を渡すと、それを受け取りチェックを始めた。


「商人での新規登録とのことですが、どこかの商会に入っている訳では無いのですね?」


「はい、そうです」


「なら、露店商人か行商人としての登録になりますがよろしいですか? その場合、どちらになさいますか?」


「それは後から変更は出来ますか?」


「はい、可能です」


 これから港湾都市に行くから行商人で良いかな。そこで露店商に変更する手もある。


「行商人でお願いします」


「かしこまりました。 後、ライル様は空間収納のスキルをお持ちとありますが確認してもよろしいですか?」


 げ!? やっぱり確認するのか。


「どうやって確認するのですか?」


「簡単です。これを目の前で収納して取り出して頂ければ良いだけです」


 そう言って、花瓶を取り出しカウンターの上に置く。言われるままその花瓶を収納して取り出して見せると受付の女性は、


「はい、結構です。確認が取れました、ご協力ありがとうございます。 カードを作りますので少々お待ち下さい」


 受付の女性はカウンターの奥に引っ込み、少しすると何やら魔道具と思わしき物を持ってきてカウンターに置いた。


「これから、この魔道具を使ってライル様の魔力をギルドカードに記憶させます。カードは記憶させた魔力を込める事でそこに書かれた内容が浮かび上がり、読むことが可能になり、それが本人証明にもなります。 ではこの魔道具に手をかざして魔力を込めて下さい」


「すいません、魔力を込めるだけでも大丈夫ですよね?」


「え?…… あっはい 問題はありません」


 俺の体事情を察してくれたのか、詳しくは聞いて来なかった。

 魔道具に魔力を込めると術式が発動してギルドカードに魔力が染み込んでいく。


「はい、これで記憶は完了しました。 登録料は五百リランになります。 再発行には五千リラン頂きますので、なくさないようお気をつけて下さい。ギルドの規則、注意事項はギルドカードに記入されていますので、後程ご確認をお願いします」


 魔力収納から銀貨を五枚置き、受付の女性が確認して無事に商工ギルドへの登録が完了した。


「ありがとうございました」


「はい、ライル様のこれからのご活躍を期待しております」


 ふう、こういう事務的なやりとりは久し振りだから緊張した。何だか役場や銀行を思い出す。受け取ったギルドカードを収納してエレミア達が待っている場所に行くと、そこにはグラントの姿があった。


「おっ、ライル。登録は出来たか?」


「はい、何も問題なく出来ました。グラントさんはどうでした?」


「こっちは少し時間が掛かりそうだ」


「何かあったんですか?」


 グラントは坊主頭をガリガリと掻きながら、困ったように眉を寄せた。


「いや、手紙を出すだけで良かったんだが、事情を聞いたギルドマスターが詳しく話を聞きたいって言い出したらしくてな。これから会って説明しなきゃならねぇんだ」


 ミスリル鉱山が復活したと聞けば、そうなるわな。


「まぁ、日が暮れる前には終わるだろう。それまでサーシャに町を案内してもらうといい」


「任せて! どこか行きたい所はある?」


「私は人間の町の事はよく知らないから、任せるわ」


 なら、商店街や露店がある場所だな、市場調査がやっと出来るぞ。そうサーシャに伝えたら、


「それじゃ、お店を中心に案内するわね」


 俺達はサーシャの案内のもと、色々な店を見て回った。鍛冶屋に雑貨屋とパン屋、料理店など、魔道具店なんかもあって面白かった。ここで売られている物の価値は大体把握出来たので、何処かで商品を売るか、ギルドに卸すかして旅費を稼がないと。


 町を案内してもらっていたら、もう日が暮れてきたのでサーシャが住んでいる叔母の家でご厄介になる事になった。グラントも日が沈んだ頃にやって来たので、これまでの経緯を説明して貰う。


 ギルドマスターにミスリル鉱山の事を報告すると非常に喜んだらしく、王都への報告は商工ギルドが責任を持ってしてくれると、それだけでなく冒険者の派遣も手配してくれるらしい。

 何故そこまでしてくれるのか疑問に感じたので聞いてみたら、何でも鉱山町の商工ギルドを撤退させたのは今のギルドマスターだったらしく、せめてもの罪滅ぼしじゃないけど何か協力をさせてほしいと願い出たみたいだ。



 翌朝、俺達はグラント達を見送るため、門の前に来ていた。


「ライル、お前にはデカイ恩ができちまった。また俺達の町に来る頃には沢山のミスリルが掘れているだろう。本当なら国に納めなければならないが、お前になら格安で譲ってやるぞ。だから、また来いよな」


「あなた達のお陰でまた家族と一緒に過ごせるわ、ありがとう。私はアマンダさんに料理を習いながら、父さん達を支えていくつもり。もう不味いなんて言わせないんだからね!」


「良かったわね、サーシャ。グラントさんと仲良くね。下らない事で喧嘩しちゃ駄目だよ」


「此方こそ、お世話になりました。資金が出来たら寄らせて頂きますので、格安の件、よろしくお願いします」


 お互いの挨拶を済ますとグラント達は馬車に乗り、町から離れていく。馬車が小さくなっても俺達は見送り続けた。


「これからあの町はどんどん賑やかになるんだよね?」


 エレミアが遠ざかる馬車を見詰めたまま聞いてくる。


「ああ、時間は掛かるだろうけど、きっと俺達が驚く程に栄えていくよ」


「そっか…… 楽しみだね」


 馬車が完全に見えなくなった所で、次の目的地に向けて俺達は踵を返した。

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