最後の冒険3
思わぬリザードマンキングとの遭遇に、慌てて逃げていく者、立ち向かう者と大きく二通りに分かれる。勿論俺達は後者だ。
先ずは下手に近づかずに魔法で牽制する。一見、リザードマンキングは傷だらけで弱っているようにも思えるが、所詮俺達は中級冒険者。ここで倒せるなんて考えは命を捨てるのと同意だ。
慎重に距離を保ちつつ奴の足を止める。オリハルコン級冒険者が来るまでどのくらいかは知らないが、リザードマンキングのあの焦りようを見れば、そんなに時間は掛からないだろう。
「奴は弱っているぞ! 俺達がリザードマンキングを仕留める好機だ!! 」
おいおい…… 弱っていてもリザードマンキングだぞ? 俺達が敵う相手じゃねぇのが分からないのか? 功を焦った奴等がリザードマンキングを討ち取るという栄誉を求めて我先にと突っ込んでいく。
だが、やはりそう上手い話は転がっていない。無謀な冒険者は、リザードマンキングのまだ折れていない爪で切り裂かれ、太い尻尾で殴り飛ばされる。
「なに? あいつらアホなの? 」
目の前に広がる蛮行に、さしものパッケも呆れている。
「まぁ、あいつらは自業自得だから気にするのは止めだ。それより、お前の精霊魔法で奴を長時間拘束できるか? 」
「う~ん…… 無理だね。いくつか方法は思い付くけど、あたし一人じゃ魔力が持たない」
地道に足止めするしかなさそうだ。俺は自分の魔力をルベルトとグリムに繋げる。
『おい! リザードマンキングが相手だが、やることは何時もと変わらねぇ。俺が奴の気を引く、後は分かるな? 』
『なっ!? 本当に大丈夫なんすか? 』
『ルベルト、やるしかないんだよ。なに、パッケもついてる…… ガストール、焦って判断を誤るなよ? 』
へっ! 言ってくれるぜ。そんなヘマはしねぇよ。
「パッケ! 攻撃より守りに専念しろ。どうせ倒せはしねぇんだから、魔力の無駄打ちは控えろよ? 」
「あいあい、英雄様が駆け付けてくるのを待つんでしょ? 分かってるわよ! 」
パッケを引き連れてゆっくりとリザードマンキングの下へ徒歩で近付いていく。別に急ぐ必要はない、注意を俺に向けさせて少しでも時間を稼ぐ。
「よぉ! そんなに急いで何処へ行くつもりだ? 折角だからもっとゆっくりしてけよ」
まさか話し掛けられるとは思わなかったのか、奴は冒険者の体を引き裂く手を止め、目を細めて俺を睨み付ける。
「矮小な人間がこの俺に話し掛けるだと? 身の程を知れ! 」
随分とご立腹だな。まぁ、その矮小な人間にボロボロにされて逃げてきたんだから仕方ねぇか。
「声を掛けたぐらいで何だよ。もうすぐお前を殺せる奴が来るんだ。それまで相手をしてくれても良いだろ? それとも俺を無視して逃げるか? 」
「貴様ごとき、すぐに殺して喰らってやる!! 」
やっぱりキングだろうと、おつむは他のリザードマンと変わらねぇな。
『簡単に乗ってきたっすね』
『煽り耐性が低過ぎるが、こういうバカに限って何をしてくるか分からん。相手はキング種、油断できる相手ではない』
ま、そういうこった。馬鹿の相手ほど面倒なことはない。俺は盾を構えて目の前ですこぶる機嫌が悪いリザードマンキングに集中する。
あの牙に噛まれたら完全に助からねぇ。それに半分折れている爪も厄介だな。あんなので中途半端に切られたんじゃ死ぬに死ねなくて苦しむだけだ。そして俺の胴体より太い尻尾、注意すべきはこの三つか?
「フン、俺を止めると言っておきながら向かって来ないとは、口だけの臆病者か? 」
「なに、こちとら矮小な人間なんでね。何も無理に攻めずとも時間ってやつは稼げるだぜ? 」
「ならば俺から仕掛けるだけだ!! 」
ドンッとリザードマンキングが踏み込むと、大きな水飛沫が上り、地面が抉れる。なんつう踏み込みの威力だ。これだけで奴の力の一端が窺える。
分かってはいたが、踏み込んでからここまで来るのが早くて避けきれる自信がこれっぽっちもねぇ。まぁ、避ける必要もないけどな。
「ほいさ! ダメダメ、そんなんじゃ届かないよ~? 」
リザードマンキングの降り下ろした爪が俺に当たる前に、パッケが精霊魔法で簡単に止めてしまう。パッケとリザードマンキングの間には、何だか空間がグネグネと捻れているように見えるが、あれが空間精霊ってやつの力なのか?
「妖精が何故邪魔をする!? 俺は何も世界に背く事はしていない筈だ! 」
「それはそうなんだけどさ~…… あたしにも譲れないもんってあるじゃん? だから悪いけどここでやられてくんない? 」
「何訳の分からん事を…… 妖精だろうと邪魔するなら殺すだけだ! 」
おっと、悪いがそうはさせねぇぜ?
俺はリザードマンキングの鱗が剥がれている箇所に剣を突き刺し、ルベルトとグリムが横から同じ様に鱗がない所を狙う。
「ウガァッ!? この人間がっ! 」
リザードマンキングは痛みに叫び、俺達を振り払うが、もう既に距離を取っているので被害はない。
『ねぇ、空間の精霊って何処にでもいるけど、魔力を沢山食うのよ。だからさっきのはそんなに使えないわよ? 』
『大体後何回ぐらい出来そうなんだ? 』
『えっと…… あと三、四回ってところかな? 』
中々に厳しいな。どうやって奴の攻撃をパッケの精霊魔法を極力頼らずに防ぐのかが重要になってくる。はぁ、どうしてこうなったんだか…… これも日頃の行いって奴か?