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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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最後の冒険1

 

 ライル達がカルカス湿原を出発して五日。膝下まであった湿原の水は連日の晴天により、かなり引いて今は足首辺り迄になっている。


 それでも俺達にとっては動きづらい事には代わりないが、どうにか討伐作戦を始められる環境が整った。


「やっと始まるっすね。もう宿舎での雑魚寝は勘弁してほしいっすよ。さっさと終わらせてインファネースに帰ってベッドで休みたいっす」


 ルベルトの奴、随分と我が儘言いやがる。俺達冒険者に宛がわれた宿舎はお世辞にも良いとは言えねぇが、屋根があるだけマシな方だ。俺がまだ帝国で小隊長をやってた頃なんか、戦時中雨風に晒されながら休むなんてざらだったからな。


 それにしても、“帰る” か…… 根なし草である冒険者の俺達が、すっかりとインファネースに定着してしまったな。


 思い返せばコイツらと組んでもう十年は経つ。色々な国や街を回ったが、インファネース程居心地の良い所はない。


 ルベルトとグリムを思えば、あの街で定住するのも悪くはないかもな。


「やっとか…… もう周囲の見回りは飽々してたのよ。もっと派手にやりたいよね! 」


 俺の頭に胡座をかいている妖精のパッケが早く暴れさせろと俺の髪の無い頭部を、その小さい手でペチペチと叩いてくる。


 コイツとの出会いは最悪だった。ことある毎に俺にしょうもない悪戯を仕掛けては仕事の邪魔をしやがる。初めは他の妖精も何人かいたが、飽きるのが早いのか他に楽しい事を見つけたかでいなくなっていく中、パッケだけは何が気に入ったのか一向に悪戯を止める気配は無く、怒るのに疲れてもう好きにさせていたら気付けばこうして一緒に仕事をしている仲にまでなっていた。


『確か、今回の大規模討伐にはオルハルコン級の冒険者が一人、ヴェルーシ公国側にいるらしいな? それならゴールド級の俺達は無理に前へ出なくても良さそうだ。後方でリザードマンが国へ侵入してくるのを防ぐのに尽力しよう』


「そうだな、グリム。積極的に前に出るのは上級の奴等に任せるか」


 この魔力念話を覚えた事で、無口だったグリムと普通に話せるようなった。ほんと、便利な術を教わったぜ。これなら口に出さなくても自分の意思を伝えられ連携が更に取りやすくなる。


 そのグリムの言うオルハルコン級とは、世界で四人しかいない最高位の冒険者だ。


 冒険者の階級は全部で七つ、その中でカッパーとアイアンが下級冒険者、シルバーとゴールドが中級、ミスリルとアダマンタイトが上級と分けられ、オルハルコンはその上の特級と呼ばれる。


 実力も去ることながら、最低三か国以上の承認が無ければオルハルコン級とは認められない。正に英雄と呼ぶに相応しい力と実積を持つ冒険者だ。そんな奴が今回の大規模討伐に参加しているとなれば、これはもう勝ったも同じ。リザードマンキングが討たれるのを、俺達はリザードマンを相手にしながら待つだけで大金が手に入る。


 レグラス王国でのオーク大規模討伐に比べれば簡単な仕事だぜ。あの時もオルハルコン級がいればと思ったが、世界で四人しかいないのだから間に合わないのも仕方ないかもな。


 泣かず飛ばすの冒険者人生の俺達に転機が訪れたのは、どう考えてもアイツ―― ライルと出会ってからだ。


 冒険者ギルドに入ってきたライルを初めて見たときは、気持ちの悪いガキだと思った。あんな体であの歳まで生きてこれたのだから、さぞかし金のある家で大事に育てられてきたのだろう。そんな第一印象だったと本人に伝えたところ、


「まぁ、普通はそう思いますよね」


 なんて笑っていた。ここは怒っても良いところなのに、アイツは自己評価が低いのか、自分に関して何を言われようとも腹を立てる素振りは見せてこねぇ。なのに仲間や知人に関しては沸点が低い。


 話を聞いて一通りアイツがどんな人生を送ってきたかは知ったが、そんな中でどうやったらそんな性格になるのか不思議でしょうがない。俺だったら目に映る全てを信じられず、憎んでいただろうに。


 それで益々興味を持った俺は、アイツがこの先何を成すのか見てみたくなった。


 そんな軽い興味が俺達を人生を大きく変える事態になろうとはな…… インファネースで店を持ち、他種族全員と妖精さえも引き入れ、街を大きく発展させた。終いにはこんな魔道具も作っちまうなんてよ。俺達もゴールド級になっちまうし、良い金づるとして付き合うつもりが、予想以上の影響を受ける事になっちまった。


 ライルから渡されたマナフォンで大規模討伐が始まると伝え終わった俺は、自然と口元が綻ぶ。


 まぁとにかく、明日から本格的に討伐作戦が実行される。稼げるときに稼いでおきたい。人生何が起こるか分からないからな、ライルと出会いそれを深く実感しちまったぜ。


「ガストールの兄貴、これが終わって金が入ったら、あの酒場でまた飲み明かすっすよ! 」


「おっ、良いね! あたしは蜂蜜酒とデザートを要求する!! 」


『俺はブランデーをチビチビとやるのが良いな』


 やれやれ、楽な仕事だと思って気を抜き過ぎだぜ? んじゃ、何時もの見回りが済んだら、明日から始まる大規模討伐に備えて早めに寝るとするか。

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