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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 クレスとオークキングの下へ脇目も振らずに走っていくレオポルドを止めようと、ムウナの触手が伸びるが尽く避けらてしまう。奴め、隠れて体力を回復させていたな?


「こなくそ! あのままくたばってればいいのに、めんどいな!! 」


 アンネも精霊魔法で追撃をするが、まだ残っている骨の残額を操り、壁を作って防ぎながらも走るのを止めない。地面に広がる亀裂を飛び越え、骨で橋を架け、光の中へ向かっていく。見た目が骸骨で目玉が存在していないからか、眩しさを感じていないようだ。


「うぅ…… ピカピカで、よく、みえない」


「あぁ、もう!! あの骨野郎、何処にいったぁ! 」


 クレスが放つ光に近づくにつれ、ムウナとアンネはレオポルドの姿を捉え辛くなってしまう。


 〈不本意ではあるが、ここでオークキングに死なれては困るのだよ! 〉


 レオポルドの体にムウナがまだ食べきれていない骨が集り、あの巨大な姿へと変わるが、殆どはムウナの胃袋の中なので上半身しか形作れてはいない。それでも両腕を足代わりにして地面を駆け、光の中心へと飛び込む。


『クレスさん、レオポルドがそっちへ! 早く離れてください!! 』


『駄目だ! もう少しで奴の魔核に届きそうなんだ…… 今離れる訳にはいかない!! 』


 くそっ! 誰かレオポルドを止められないのか? ギルもタブリスもゲイリッヒさえも、あの眩しい光と熱で近付けないでいる。クレスの決死の覚悟が仇となってしまったか。


 レオポルドの上半身だけの巨体から伸びる腕がクレスに迫るが、光の熱で指先から瞬く間に灰になり崩れてしまう。しかし、質量のあるレオポルドの骨は、全てが灰となる前にクレスとオークキングへ衝突し、二人を突き飛ばす。


 光が消えて見通しが良くなった空洞内に、灰となって崩れるレオポルドの巨体と、光に焼かれて体から煙が出ているオークキング、それと真っ赤に熱せられた鎧に身を包むクレスが地面に倒れていた。


『ギル! クレスを!! 』


『言われずとも分かっている! 』


 ギルとタブリス、ゲイリッヒが急いでクレスに駆け寄るのと同じに、灰の中からレオポルドが這い出てオークキングへと向かう。


 〈オークキング! 私達の目的は達した。後は待っているだけで魔王となれるのだ! ここにいる理由はもうない筈だ!! 〉


 くっ! また逃げられるのか?


 〈はぁ…… はぁ…… だからなんだ? 俺が逃げるとでも? 舐めるなよ、骸骨がっ!! 人間ごときに何故逃げなければならない! 逃げるならお前一人で逃げろ…… あいつは今此処で確実に殺す!! 〉


 よろめきながらも強い怒りと殺気を撒き散らすオークキングに、レオポルドは後ずさる。


 人間であるクレスにあそこまでオークキングを追い詰めた事が奴にとって屈辱的だったようで、どうしてもクレスを此処で殺さないと気が済まないらしい。


 これはクレスを殺すまでオークキングはこの場から逃げないという事で、ある意味チャンスでもある。今もオークキングの体にはクレスが空けた穴が塞がらずに残っている状態だ。そこを重点的に責めれば、あの堅牢な肉体を崩せる。


 クレスは虫の息だが、まだ辛うじて生きている。魔力支配の力で体を調べてみれば、全身火傷で皮膚が爛れて左足の骨は粉々、生きているのが不思議なくらいだ。早く治療してあげたいけど、今の俺では満足に治せない。ここはリリィの回復魔術である程度傷を塞ぎ、後で俺が完全に修復するのがベストだな。


 〈ぬぅ、せっかく私が身を張って助けたというのに…… これでは全てが無駄になってしまう。カーミラ嬢になんと言えば良いのだ! 〉


 オークキングが思うように言うことを聞いてくれなくて、レオポルドが頭を抱えているところに、体中に目と口を生やした男の子姿のムウナとアンネが文字通り飛んでくる。流石にムウナのあの巨体で動き回られたら完全にこの空洞が崩れてしまうので、異形の男の子の姿になったか。


 〈こんの野郎! 今度という今度はもう許さないかんね! 〉


 〈ほね、たべる! そしたら、ライルにすきなもの、いっぱいたべさせてもらう!! 〉


 両手から龍の爪を生やしたムウナと、風の精霊魔法で竜巻を纏ったアンネがレオポルドを攻める。


 対するレオポルドは自身が操れる骨はムウナに食われ、残りはクレスの光魔法で灰になってしまい、もう残ってはいないので避けるしかない。


 〈くそっ、これでは転移魔術を使う隙がない! 〉


 この期に及んでまだ逃げようとしているのか。だけど、アンネとムウナの息をつかせぬ怒濤の攻撃にレオポルドはたじたじである。


 〈そこを退け! あの人間だけは生かしてたまるか!! 〉


 〈フッ、何を恐れる? クレスがお前にとって驚異となりゆるのを本能的に悟ったか? 〉


 ギル達に邪魔され、クレスに止めを刺せないオークキングの苛立ちは最高潮に達していた。あれほど余裕を見せていた面影はもうない。


 〈黙れ! 俺が人間一人に恐れるものか! あいつは気に入らない、それだけだ!! 〉


 ギルの挑発に乗るオークキングの隙をつき、タブリスの槍が体に空いた穴に突き刺さる。


 〈グオッ!? 俺の邪魔をすんじゃねぇ!! 〉


 タブリスの槍を振り払うオークキングが叫ぶ。


 〈弱点が剥き出しになっているようなものだからな、もう観念したらどうだ? 〉


 槍を構え直しそんな発言をするタブリスを、オークキングは射殺すように鋭く睨み付ける。そこへゲイリッヒの血の弾丸がオークキングの体に空いた穴から体内に侵入し、血液操作によって内臓をズタズタしようと中で暴れる。


 〈体の中までは頑丈ではない―― いやぁ、態々己の弱点を堂々と宣言するとは、感服致しますね〉


 自分がインセクトキングに言った事を皮肉るゲイリッヒに、怨めしい顔を向けるオークキングだったが、内臓への直接攻撃に息も荒くなり見るからに弱っていた。


 これは、もしかしなくても倒せるのでは?


 しかし、勝利というものは掴めそうな時ほど良く逃げられるもの。最後まで油断せずに慎重に頼むよ。

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