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オークキングはインセクトキングの力を手に入れたが、まだ魔王にはなっていない。リザードマンキングが倒される前にオークキングを仕留めれば最悪を回避出来る。
しかしここでオークキングを倒してしまったら、リザードマンキングが魔王となりガストール達に危険が及ぶけど、そこは急いで戻るのでご容赦して頂きたい。
〈さぁ、来い! 俺の新しい体と力、存分に味わえ! 〉
オークキングの挑発を切っ掛けに、クレス達が動き出す。
ギルとタブリスは接近戦に持ち込み、リリィは魔術で、ゲイリッヒは血の弾丸で遠距離から掩護をする。時折天井から崩れた岩がリリィに向かって落ちてくるが、そこはレイシアがきちんと守ってくれている。
〈僕の動きを学習したからといっても、これだけの数を相手に上手く立ち回れるものか! 〉
ギルとタブリスの攻撃を避けたその一瞬を狙い、クレスは光速でオークキングの懐へ潜り込み、光を纏う剣を横薙ぎに振るう。
クレスの剣がオークキングの体に接触した時、ガキンッ! と金属を叩いたかのような音が鳴る。生き物から出る音とは到底思えない。
〈くっ…… なんて堅さだ〉
自分の剣では歯が立たないと知り、急いでオークキングから離れたクレスは、悔しさのあまり下唇を強く噛み、血が一筋滴る。
〈ククク…… 良いぞ、素晴らしい! 〉
新しい体の性能に満足し喜びを露にするオークキングに、ギルの大剣による一撃が振るわれる。しかしそれも片手で防がれてしまった。
〈ほぅ? 我の剣を片手で…… 〉
〈今の俺は調停者が相手でも負ける気はしないな〉
オークキングがギルに注意が向いているところに、後からタブリスが突きを放つ。
〈なっ! アダマンタイト製の槍をも弾くだと!? 〉
狼狽えるタブリスにオークキングの拳が襲い、後方へと殴り飛ばされる。タブリスの再生力ならあれしきでは死ぬことはないが、攻撃が通じないんじゃ倒す事も出来ない。
今でこの強さなら、いざ魔王となってしまったらどれ程になるのだろうか? そんなの人類に勝ち目はあるのか?
あんな奴に世界を支配されると想像しただけで恐ろしくて身震いしてしまうよ。
インセクトキングの力を取り込んだだけで、優劣が逆転してしまった。有効な手があるとしたら、奴がインセクトキングに使っていた魔術で、体内に直接ダメージを負わせるという方法があるけど、それを再現する時間がない。
「ライル…… ほね、たべあきた。にく、くいたい」
明らかに食べるスピードが落ちたムウナが、しょんぼりとした様子でボリボリと骨を齧っていた。
えっ、ちょっ!? こんな時に? せめてレオポルドの生死が確認出来るまで、もうちょっと頑張ってくれませんかね? そしたら後で肉でも何でも好きなもの食わせてあげるからさ!
「ほんと!? ムウナ、がんばる! 」
おぅ…… やる気を出してくれたのはいいが、少し軽率だったかな? 後でどんな物を要求されるのか不安だ。
〈ハハハハ! どうしたどうした! そんなんじゃ俺には効かねぇぞ? 〉
オークキングは自分の体に傷一つ付けられない状況を楽しんでいる。安全に遊んでいるな。
〈僕は約束したんだ…… お前をこの手で必ず倒すと…… インセクトキングは人間である僕に託してくれた。その想い、無駄にはしない! 〉
クレスの体が光輝き、オークキングへと向かっていく。
〈またそれか? 芸の無い人間だ〉
クレスが移動する直前にオークキングは既に体制を整え、横へと避けていた。たがここで予想外の事が起こり、いつもの如く光速で移動してきたクレスに反撃の用意をするオークキングの顔に驚愕の色が浮かぶ。
直線でオークキングの側まで来たのは予想通りだったが、クレスは無理矢理地面を蹴って魔法を発動したまま直角に曲がり、オークキングとの距離を詰めたのだ。
予想だにしなかった動きに対処が遅れたオークキングの胴体に、クレスが光魔法を纏わせた剣先を突き立て、そのまま壁際まで押し出し、オークキングはクレスと壁に挟まれる形となった。それでもクレスの勢いは止まらず、剣先を押し込め続ける。
〈無駄だ! お前では俺に傷はつけられない!! 〉
それでも諦める事なく剣を突き出すクレスに、苛立ちを露にしたオークキングが、引き離そうとクレスの肩に手を伸ばす。
〈なっ!? あ、熱い! なんて熱量だ!! 〉
クレスの体は剣と一緒にまだ光を纏ったまま。その輝きと比例して熱量も上がっていく。
凄い光だ…… 眩しすぎて目を開けていられない。辛うじてクレスの目を通じてオークキングの状況は確認出来るけど、肉眼ではもう二人の影さえも光に包まれて見えやしない。
〈クレス! もう止すんだ!! そのままではお前も死んでしまう!! 〉
レイシアがそう叫ぶように、あの光の中はどれ程の温度になっているのだろう? クレスの魔法だから本人には影響がないとしても、いま着ている鎧が熱しられて赤くなっているのがクレスの視覚を通して見てとれる。あれでは重度の火傷は免れない。それに加えて、無理な方向転換をした時に踏み込んだ左足の筋肉はボロボロになり、骨は粉砕骨折までしている。
『クレスさん! 本当に死んでしまいますよ!? 』
『ライル君…… 良いんだ。これぐらいの事をしなければオークキングは倒せない。思えばあの時、僕がこいつを逃がしてしまったせいで、こんな事になってしまった。命を張るのは当然じゃないかな? 大丈夫、僕だって死にたい訳ではないよ。でもこいつだけはもう逃がす訳にはいかないんだ! 』
そんなクレスの強い覚悟を表しているように光が益々強くなり、遂にオークキングに触れている剣先の周囲が赤く染まり、肉体へと沈んでいく。
〈ガァッ!? 熱い! クソがっ! 熱で俺の体を溶かすだと? 〉
〈このまま魔核を破壊する! お前はもう終わりだ!! 〉
〈離れろ、この人間が!! 俺は魔王になる、ここで死んでたまるかぁ!! 〉
ズブズブと徐々に体へ埋まっていく剣に、命の危険を感じたオークキングは焦り出し、乱雑にクレスを殴りまくる。そんな必死の抵抗にもクレスは屈せず、傷つく体でオークキングに剣を突き立てるのを止めない。
クレスの剣が大分オークキングの体に刺さり、もう少しで魔核まで届くかと思ったその時、ムウナが叫んだ。
「ライル! ほね、でてきた! そっちに、はしってる!! 」
えっ!? ほんとだ! あの眼窩から青い光が漏れている骸骨はレオポルドで間違いない。やっぱり骨の残額に隠れていたのか!
『ムウナ! 奴を止めろ!! 』
レオポルドは真っ直ぐオークキングとクレスがいる場所へ向かって走っている。何をするもつりか知らないがクレスの邪魔はさせない!




