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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 〈ゴボッ! ―― き、貴様…… 私に何をした? 〉


 得意気に見下ろすオークキングを、血を吐きながらもインセクトキングは憎しみを込めた視線を送る。


 〈あん? ただ殴っただけだぜ? まぁ、少し細工はしているがな。お前の体は確かに頑丈で、傷一つ付けられない。だがな、中身はどうだ? この魔術は打撃による衝撃を何十倍にも増幅できる。いくらお前の肉体が堅くても、体の中にまで届く衝撃までは防げないだろ? 〉


 魔術で増幅させた殴打による衝撃で、インセクトキングを体の内側から破壊するつもりか。


 〈出来るならこいつは使いたくなかったけどな。衝撃を増幅させると、俺の拳に受ける反動もその分大きくなる。見ろよ、一発食らわしただけでこの様だぜ〉


 そう言ってこれ見よがしに拳を前に出すオークキングの手から血が滴っているのが見える。そう何発も放てないようだ。


 〈先程の術といい、貴様は何れだけ恥の上塗りをするつもりだ。人間が生み出した魔術に頼るとは…… 〉


 〈…… そんな下らん考えだからお前は負けるんだ。愚かなのはどっちだか〉


 オークキングは止めを刺そうと腕を振り上げる。その動作はゆっくりとしたものだが、まだダメージが体に残っているインセクトキングは睨むだけで動こうとしない。


 〈させるか! 〉


 そこにクレスが光魔法での光速移動でオークキングへと向かい剣を振るが、なんと避けられてしまった。信じられない…… クレスのそんな感情が、繋がった魔力を通して俺にも伝わってくる。


 そこへ無慈悲にもオークキングの拳がクレスに迫る。鎧の上から鋭い突きをもらったクレスは簡単に飛ばされ、ゴムボールのように地面をバウンドしていく。


 〈クレスッ!! 〉


 〈…… 落ち着いて、まだ息はある〉


 殴り飛ばされたクレスに、レイシアが必死の形相で駆け寄り、後を追うリリィが回復魔術で治療を開始する。


 〈ヘッ、動きは覚えたって言っただろ? お前の速さは俺を越えている。それは認めてやるがな、直線でしか移動できないのなら動きを先読みするのは簡単だ。向かって来る所が予測できてて回避できない訳はないよな? 〉


 悔しいがその通りだ。クレスの光魔法での光速移動には、誰もついて来れないだろう。だがしかし、移動中での方向展開は出来ないのだ。途中で方向を変える為には、一度魔法を解いてからまた発動させる必要がある。直線でしか動けない弱点をこの短い戦いの中で見極め対応したのか。こいつ、相手の動きを学習して動きが良くなっている。


 〈戦闘の中で相手の動きを学習する…… それは本来オーガキングが持つスキルだ。貴様の力ではない! 〉


 〈馬鹿か、お前? 今は俺の力なんだよ。どんな経緯で手に入れようが、力には変わりない〉


 もしかして他のキング種のスキルも? そのうえ魔術まで…… なんつう化け物を造ってくれたもんだ。恨むぞ、カーミラ。


 クレスが間に入ったお陰でインセクトキングはオークキングから離れる事に成功し、ギル達がオークキングに追い付き攻撃を仕掛ける。


 〈ハハハ! 無駄だ! お前達の動きは既に把握してある。もう俺に掠る事すら叶わない! 〉


 尽く避けられて不機嫌になっていくギルとは対照的に、オークキングは上機嫌で笑っている。


 まさかギル、タブリス、ゲイリッヒの三人掛りでも満足にダメージを負わせられないとは。


 〈クッ…… 本来の姿さえなれればオークキングごときに後れを取るなどないのだが…… 〉


 ギルが龍の姿になれば一撃でオークキングを弱らせる事は可能だろう。しかしその分範囲も大きく、周りも巻き込んでしまう。神官騎士達がいない今も、オークキングの魔術で崩落の危険性が高い空洞内を考慮して人化したままだ。


「おいおい、こりゃヤバそうな感じだな。どうするよ? 相棒の魔力はもう俺様に送るのは無理なんだろ? 」


 魔術を解いて通常の魔力で構築された体へと戻ったテオドアが、レオポルドから離れて此方へと飛んでくる。


『オークキングにだって体力の限界はあるから、ずっと避けてはいられない筈だ。それにあの両腕に発動している魔術は強力だけどそう乱発は出来ないようだ。このまま相手がへばるまで攻め続ければ勝てる見込みはある』


 そう、現状で此方が有利なのは変わらない。インセクトキングに有効な攻撃があるからと言って、敗けが決まった訳じゃない。


 〈ちっ、両腕はインセクトキングにとってはあるが、足はそうでもねぇぜ? 〉


 コボルトキングの下半身にある鋭い足爪を振るい抵抗するオークキング。その身のこなしは曲芸士のように軽やかで、ギル達を翻弄している。


 〈私に通用する攻撃があるから何だ? その程度で恐れるとでも? 侮るなよ、この痴れ者め! 貴様の拳など、神から授かったこの堅牢な肉体には敵わないと思い知れ!! 〉


 インセクトキングは背中にある前羽を開いて中にある後羽を激しく羽ばたかせ、額に生えている角を突き出してオークキングへ弾丸のように飛んでいく。


 自分の手で始末をつけたいのは分かるけど、ここはギル達に任せた方が良かったのでは? 態々オークキングに近付いてやられてしまったら元も子もない。


 それはギル達も同じのようで、飛んでくるインセクトキングに苦い顔を浮かべていた。

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