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「醜き肉の化け物なんかに、私達の崇高な目的の邪魔はさせない! 神という呪縛から解き放たれたとき、真の自由が訪れる。汚れきった世界を、私の美しき芸術で清めるのだ! 」
「ムウナ、そんなの、しらない。おまえ、いると、ライルがこまる。だから、たべる! 」
オークキングから叱咤されたレオポルドがムウナへ向かって走り出す。
こんな所でそんな巨体でダッシュなんかするんじゃないよ! 踏み込む度に地面だけではなく天井にも罅が入って、岩石が落ちてくる。
あぶねっ! 結界が無かったら頭に当たってるとこだった。こんな戦いをしてたらいずれ巣穴が完全に崩壊してしまうだろう。俺達だけなら自己責任で済むけど、巣穴の浅い箇所にはまだ冒険者が潜っているかも知れない。もしそうだったなら崩壊に巻き込まれる恐れがある。
『テオドア。今から魔力を送るから、レオポルドの魔力を手早く吸い尽くすんだ』
『お? 待ってました! やっと本気で暴れられるぜ!! 』
神官騎士達への魔力供給が止まってしまうが、今残っている魔力でどうにか遣り繰りしてもらいたい。
「さてと、相手は骨だからな。炎は効きそうもねぇし…… ここはあれでいくか! 」
俺の魔力を受けたテオドアは少し考えた後、自分に刻まれた魔術を発動した。
魔力で構築された体を、バチバチと明滅して弾ける電気へと変化させ、得意気な顔を浮かべる。テオドアの奴、かなり調子に乗ってるな。魔力消費が激しいんだから時間は掛けないでくれよ?
「ひゃっはぁ!! 俺様の速さについてこれるか? クソ骸骨がぁっ! 」
目にも止まらない速さで突っ込んでいく姿は雷そのもの。レオポルドの巨体の隅々まで電気になった体を行き渡らせ、感電させながら魔力も奪っていく。いつ見てもえげつないな、テオドアにピッタリだよ。
「うぉぉぉ! し、痺れる、魔力も減って…… 」
良し、テオドアの攻撃はレオポルドに効いているようだ。纏りつくテオドアを引き剥がそうと必死に体を揺らし腕を振るうが、電気に物理で対抗しても無意味である。
『ムウナ! 一気に叩き込め!! 』
『おぉ! まかせて!! 』
肉塊の体から巨大な龍の腕が二本生えて来ては、テオドアによって痺れて動きが鈍くなっているレオポルドに何度も叩き付ける。
一発叩く度に、レオポルドの巨大な骨の鎧が罅割れポロポロと小さな破片となってこぼれる。
「ほらほら、どうした? 自慢の体がボロボロじゃねぇか! 」
「おおきいと、たべづらい。ちいさく、しないと」
性格が悪党寄りのテオドアと、外見がおぞましさしかない肉塊のムウナ。この二人が共闘するだけで凶悪に見え、例え相手がデカイ骸骨だとしても哀れに思えてしまう。
「き、貴様らぁぁ!! 調子に乗っているんじゃぁない! 」
あ、レオポルドが切れた。そりゃあんないいようにされたら、誰だってプッツンくるよな。
レオポルドは電気が流れ続ける体でムウナを無理矢理掴み、ガッチリと固める。すると、今までレオポルドを痺れさせ魔力を奪っていたテオドアの電流が、腕を通してムウナに伝わっていく。
「おぉ!? びりびり、ちくちくする! 」
『相棒! これはちと不味いんじゃねぇのか? 』
『いや、よく見ろ! ムウナにはそんなにダメージがないようだ。そのまま続けても大丈夫そうだぞ? 』
元々ムウナには魔力はない。魔核を造る事で魔力を集めて利用しているだけなので、奪われたとしても何の弊害もない。電流によるダメージは多少あるが、そこはレオポルドの魔力が先に尽きるかの我慢比べになる。
レオポルドから魔力を奪っているので、俺から送る分が少なくなってきているのは有り難い。この分なら後はテオドアだけの魔力でも何とか持ちそうだ。
「さぁ! どっちが先にくたばるか、賭けようぜ。勿論賭けるのはお互いの命だ!! 」
「いのち? よくわからないけど、このままじゃ、うごきにくい」
「私はこんな所で死ぬ訳にはいかないのだ! まだ見ぬ世界が私の芸術を待っている!! 」
ムウナの体から龍の頭が二つ生えてレオポルドに噛みつく。ギリギリと噛み砕かんとする牙に耐えながら、レオポルドは両腕をムウナの肉塊に回して締め付ける。
「このまま押し潰してやるぞ、化け物め! 」
「その前にてめぇの魔力が尽きるのが先だぜ!! 」
「むぐっ、これ、きゅうくつ」
これはもう膠着状態だな、暫くこの状況は続きそうだ。テオドアの電流があるから迂闊には近寄れないのでこのまま見ているしかない。下手に手を出してレオポルドを解放してしまったら良くないからね。
〈時間稼ぎとしてはまずまずだな…… インセクトキング、あの化け物が此方に来る前にお前を殺して魔核を奪う! 魔王になるのはこの俺だ!! 〉
〈それは叶わぬ願い、何故なら貴様はここで死ぬ運命にある! 私こそが魔王となり、神のご意志を遂行してみせる!! 〉
向こうでは、インセクトキングとオークキングが互いの主張をぶつけ、激しい応酬が繰り広げられている。
そこにクレスの光魔法による撹乱とリリィとレイシアの妨害、ギルとタブリスとゲイリッヒの追撃が加わり、オークキングは明らかに劣勢だ。
この調子ならどちらも此方の勝利で終わりそうだ。なんて思ったのも束の間、やはりそう都合よくはいかないようで、オークキングから嫌な魔力の流れを視た。