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ギル達が本確的に戦闘に参加した事で状況は一変し、オークキングは不利になる。このまま押し続ければ勝てそうだ。
そんな希望の光が見え始めたと思ったら、大きな音と共に地面が揺れた。
「なんだ!? 何があった? 」
「レオポルドがムウナを持ち上げて地面に叩きつけたのよ。まったく、あの状態のムウナによくもまぁそんな事が出来るわね」
は? エレミアの言う事を裏付けるように、ムウナがレオポルドから少し離れた所でぐったりとしていた。
『ムウナ、大丈夫か? 』
『ライル…… ムウナ、なげられた。ちょっとしょっく』
あ、ダメージを負ったのは肉体ではなくて心の方だったか。それとショックなんて言葉遣い、何処で覚えたんだ? まぁアンネが教えたんだろうけど。
『おい! いちいちそんな事でへこんでねぇで、早くこいつを抑えろ!! 』
『あわわわ…… ライル! 巨大骸骨がそっちにいくよ!! 』
ムウナが意気消沈している間に、レオポルドが此方へ近付いて来ては、腕を高々と上げて降り下ろす。真上から迫り来る巨大な拳は迫力満点だね。あまりの現実離れな状況に、冷や汗を浮かべながらも悠長に構えてしまう。
「集中を閉ざさず気合いを入れろ! 全魔力を注いで受け止めるぞ!! ライル様の盾となる誓いを果たせ! 」
―― ウオォォォオオォォ!! ――
オルトンを含めた二十名の神官騎士の雄叫びが空洞内に響き、上から迫るレオポルドの拳を結界で受け止める。
キィィィンという耳鳴りと激しい衝撃が結界を襲う。神官騎士達の全霊と俺の魔力で強化した結界に、放射状の罅が広がっていく。
ヤバイな、こんなの後一発でもくらったら確実に壊されてしまう。
「カーミラ嬢からは、ライル君と会う事があれば、生きて連れてくるようにと言われていたが、この場合はしょうがないとは思わないか? 不幸な事故だと思って諦めることだね! 」
おいおい、何が不幸な事故だよ…… 思いっきし故意じゃねぇか!
くそっ、二発目が容赦なく放たれる。どうする? ここにいる全員を魔力収納へと一旦退避させて逃げるか? 俺一人だったなら魔力飛行で避けられない事はない。
「ライルを、いじめるな!! 」
そんな叫びが聞こえてきたと思ったら、自身の細胞で造った魔核に溜め込んだ魔力を使い、その巨体を浮かばせたムウナが突進してきてはレオポルドを横から弾き飛ばす。
質量のある肉塊でスピードの乗った体当りは中々の威力を発揮し、同じくらい巨体のレオポルドは何度も地面に体を打ち付けながら転がっていく先には、今もオークキングと戦うクレス達がいた。
げっ!? あのまま行ったら確実に巻き込まれてしまう。
『クレスさん! レオポルドがそちらへ転がっていくのでどうにか避けて下さい!! 』
慌てて魔力念話で退避を促すと、レオポルドの巨体が飛んでくる様子に思わず苦笑いを浮かべたクレスを遠目で確認した。
〈ちょっ、ライル君!? どうやったらこんな事になるんだい? 〉
突然の事で魔力念話を忘れて叫ぶクレスに、申し訳なさすぎて目をそらしてしまう。ごめんよ、ムウナは俺達を守る為にしたんであって、悪気はないんだ。
神官騎士達とリリィ、レイシアは距離があるから大丈夫だけど、オークキングの近くにいるクレス達は諸に直撃コースである。
光魔法によって光速で動けるクレスは難なく避けられるが、インセクトキングとギルディエンテ、それからゲイリッヒとタブリスはオークキングと一緒にレオポルドの転がり迫る巨体に巻き込まれてしまった。
うわぁ…… これは酷い。うん、レオポルドの言葉を借りる訳ではないけど、これは事故。不幸な事故だよ。
〈長よ! これはどういう事だ!? オレ達ごと殺すつもりか! 〉
〈ライル…… 後で覚えておくのだな。この借りは大きいぞ? 〉
〈流石は我が主、この様な形で援護するとは…… 〉
えぇ!? 俺のせいになっちゃうの? いくら何でもそれはあんまりだ! 後でちゃんとした説明の場を設ける事を要求する!
〈この、骸骨野郎! 急に転がってくるんじゃねぇ!! 殺されてぇのか? おぉ? 〉
〈オークキングよ、これは不可抗力であり、決して邪魔をする意図はありません! 〉
〈うるせぇ! てめぇが弱いからこうなったんだろうが!! アンデッドキングの時といい、役に立たねぇな! さっさとあの気持ち悪い化け物を仕留めてこいよ!! 〉
おぅ、オークキングすらも認める化け物とは…… 凄いね、ムウナ。
〈あんなのが加わったら、魔王となる前の俺では流石に厳しい。インセクトキングの魔核を奪うまで抑えるのがお前の仕事だろうが! そんな事も満足に出来ねぇのかよ!! 〉
成る程、それでオークキングは一人ではなくてレオポルドを連れてきていたのか。初めから俺達がいることは予測済みだった訳だ。たぶんカーミラの入れ知恵だろう、お世辞にもオークキングは頭が良さそうには見えない。
〈異界から来た本物の化け物と戦うのは怖いか? 他のキング種の力や能力を取り込んでも、それを扱う者が小者では所詮その程度でしかない〉
無傷のインセクトキングがレオポルドに意識が向いているオークキングへ、自身の鋭い鍵爪で不意打ちを喰らわす。
体中に引っ掻き傷をこさえたオークキングは急いで距離を取り、インセクトキングを恨めしそうに睨んだ。
う~ん、胴体はオークのもののようだけど、インセクトキングの攻撃を受けてもそんなにダメージは無いみたいだ。それに、ギル達から受けた傷も、アンデッドキング程ではないが、ゆっくりと治り始めている。
やはりあの体に何か細工が施してあるな? ほんとにカーミラは碌な事をしない。ギル達の力を疑う訳ではないんだけど、ここはレオポルドを早くどうにかして、オークキングにも嫌だと言わせるムウナを投入させたいところ。
となれば…… 俺の魔力が著しく減ってしまうが、テオドアに頑張って貰うとしますかね。