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居心地が悪い…… 俺達は今、このだだっ広い空洞の中でインセクトキングとその配下達と一緒に、オークキングを迎え討つ為待機しているんだけど、ついこの間まで殺し合いをしていた魔物達が周囲にいる状況で落ち着ける筈もなく、早くオークキングに来てほしいとさえ思ってしまう。加えて作戦らしい作戦もないし、本当にこんなんでオークキングを倒せるのか甚だ疑問ではある。
まぁ、こっちも万全を期す為に野営地いる残りの神官騎士達をアンネの精霊魔法で連れてきたけど、皆異様に警戒していて魔物とのチームワークなんて望めもしない。
はぁ…… こうやって溜め息が出るのは仕方ないよね? せめて俺からインセクトキングに声でも掛けてコミュニケーションでも図りましょうか。
俺は配下達に囲まれ、じっとある一点を見詰めているインセクトキングへと近付く。それを見たエレミアとクレスとオルトンが身を案じて後から追従してきてくれた。
「あの入り口からオークキングが来るのですか? 」
「そうだ。あの先の部屋でクイーンアントとその子供達が抑えているが、そろそろ限界のようだ」
此方を見ずに答えるインセクトキングに、俺は質問を続ける。
「此処に侵入しているのはオークキングだけなんですか? 」
「いや、もう一人? いる。見た目はスケルトンなのだが、魔物ではない」
それって、サンドレアで出会った自称芸術家のレオポルドか?
「あぁ、あの気持ち悪い喋るスケルトンね。あいつも来てるの? 」
エレミアも思い出したようで、顔を顰める。ああいうタイプ苦手そうだもんな。
「きっと監視役としてオークキングに付いてるんだろうね。今度はあの時のように逃がしはしない」
「確かお前は前にオークキングを追い詰めた人間だな? 奴の力と姿は前とは比べ物にならない程変化している。精々足掻いて私の役に立つ事だな」
「ご忠告どうも。お前が魔王となったら、僕がこの手で仕留めてみせるよ」
「ほぅ? 魔王を討つとは、勇者にでもなるつもりか? これは楽しみが一つ増えたな」
クツクツと笑うインセクトキングに、クレスは侮られたと感じたのか眉に深い皺を刻んだ。
「あの、それでオークキングとはどのように戦うつもりなんです? 」
「真正面からぶつかるのみ。私の配下は単純な命令しかこなせないので、あまり期待するな。連携の取れている蟻達も他の虫とは取れん」
いくら魔物でも基本は虫だからね、納得したよ。
せめて誰が誰を相手にするのか決めようと、俺達は一旦集まった。
「僕達はオークキングの方へいくよ。これはやり残した仕事でもあるから」
「うむ! 今度こそキッチリと止めを刺そうではないか! 」
「…… どれ程の変化をしているのか、それが問題」
当然ながらクレス達三人はオークキングか。リリィが危惧しているようにどれだけ強くなっているか分からないから、ギルかムウナのどちらかクレス達に付かせた方が良いな。
「ムウナ、ライルといっしょが、いい」
「ならば我が行こう」
うん、ギルがいってくれるなら一先ずは安心かな。
「ライル様、此方も持てる戦力を出し尽くして見ては如何です? 」
「オルトンさん、それはどういう意味ですか? 」
「カルネラ司教から聞いております。ライル様にはアンデッドの仲間がいると…… これまで我々に配慮頂きありがとうございました。ですが、もう此方の我が儘が通用しない状況ですので、割りきって戦いに集中致します」
なんだ、最初からゲイリッヒとテオドアの存在を知っていたのか。ならもう隠す必要はない。
『聞いてたよな? ゲイリッヒはオークキングを、テオドアは俺と一緒にレオポルドの相手をしてくれ』
「おっしゃ! 漸く堂々と暴れられるぜ! 」
「お側を離れたくはありませんが、我が主がお望みとあれば其に従います」
魔力収納からテオドアとゲイリッヒが姿を現したの見て、オルトン達神官騎士は一同に不満な表情を浮かべるが、ぐっと堪えている。目の前に古くから敵対しているレイスとヴァンパイアがいるのだから、そうなるのも無理はない。
「わたしも兄様と一緒にそのレオポルドという奴と戦うわ…… 」
「当然私はライルから離れるつもりはないわよ」
「あいつが向こうにいくなら、あたしはライルのところね! 」
「とすれば、オレはギルディエンテ様と共にオークキングの方へいけば人数的にはちょうど良いな」
うん、これで振り分けは決まったかな? 神官騎士も全員連れてきているので、半分の二十名ずつに分ける。
「このオルトン、ライル様の盾になるという誓いを破るつもりは御座いません! 」
それは他の神官騎士も同じなのでは? 直接本人に宣言したのは自分だけだって? そ、そう…… ならしょうがないね。
えっと、オークキングにはクレス、レイシア、リリィの三人に、ギルとゲイリッヒとタブリス、それから神官騎士が二十名。
俺と一緒にレオポルドの相手をするのは、エレミア、アンネ、レイチェル、テオドア、ムウナとオルトンを入れた二十名の神官騎士。
これに加えてインセクトキングとその配下達もいる。敵が二人に対してやり過ぎ感は否めないけど、卑怯とは思わない。
良し! これで準備はオッケー。作戦も何もあったもんじゃないけど、オークキングの情報がほぼないで致し方ない。対してレオポルドとは一度戦っているので、だいたいの手口は分かっている。魔術で骨を強化し自在に操るんだよな? とにかく、後は向こうからやって来るのを待つだけだ。
と、待っている間に少し聞きたい事があるので、オルトンとエレミアを連れて再びインセクトキングへと近付いた。
「あの…… 一つ聞いても良いですか? 」
「なんだ? 言ってみろ」
「その、俺達を待っていたのなら、何故配下を使って妨害行為を? 普通に通すんじゃ駄目だったのですか? 」
そう、待ってたって言うんなら最初から大人しく通してくれたら良いのに。
「調停者の強さは大体把握しているが、共にいる人間達がオークキングとの戦闘に耐えうるかどうか知りたかった。もしそれで命を落とすのなら、役には立たないと早くに判断が出来る」
成る程、此方の戦力を分析しているというレイチェルの予想は間違っていなかった訳か。