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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 インセクトキングは此方の返事を待っているように静視している。ふと気配を感じて周囲を見回す。


 え? 何故に皆俺を見るの? もしかして、俺に対応をしろと?


 周りからの視線にインセクトキングとの対話を余儀無くされ、俺は渋々だけど前に出る。


「あ~…… どうも、はじめまして。ライルと申します」


「知っている。ずっと見ていた」


「はい? 見ていたというと? 」


「私の配下は魔物だけに非ず、虫全般を支配する。その虫達を使ってありとあらゆる情報を集めている。その中にはインファネースのライル、君の事も虫達の目を通して見ていた」


 なにそれ、虫は大きなものから小さなものまで、何処にでも存在するし、見つけたとしても怪しいとは思わない。そんな虫達に情報収集なんかされたら、殆どのものが筒抜けじゃないか。


「何故俺を? それに待っていたとは? 」


「正確には君の側と中にいる調停者に用があったのだがね。それにまだ半端ではあるが、君もそうでもある」


 さっきから言っている調停者って何なんだ? まぁ俺の側と中にいると言うのはアンネとギルしか思い付かないが。


「ふ~ん、あたしに用があんの? 」


「その通りだ、調停者にして妖精の女王よ。そしてライルの中にいるギルディエンテにも聞いてもらいたい。ここは一時休戦し、私が魔王となるのに協力してほしい」


 は? それって、インセクトキングと手を組むって事?


「何をふざけたことを! 私達は貴様を倒しに来たのだ! 何故にそんな相手と―― 」


「―― 黙れ! 人間が!! 私は調停者と話している、お前の意見などどうでも良い! 」


 インセクトキングの怒気に当てられ、レイシアは口を噤んでしまい、悔しそうに相手を睨み付ける。


 あのレイシアを途中で黙らせるとは、やはりキング種は恐ろしいね。


「それで、返答は如何に? 」


 いやいや、魔王になる為に手を組めってだけじゃ返答もなにもないよ。もっと詳しく説明してくれないと。


「我が魔物ごときと手を組むと本気で思っているのか? 」


 魔力収納から出てきたギルに、インセクトキングはニヤリと笑った―― 気がした。いや、実際は昆虫の顔だから表情に変化はないけど、雰囲気的に? そう感じただけ。


「まぁ話を聞いてほしい。これはそちらにとっても損はないと思う。今残っているキング種は三体、その中で絶対に魔王にさせてはならない奴がいる。君らも知っているオークキングだ。奴だけは必ず始末しなければならない。しかし、認めたくはないが私だけでは到底太刀打ち出来そうもないのでね、そこで君らと協同してオークキングを仕留めようではないか」


 成る程、他のキング種の力を取り込んだオークキングが一番魔王となる可能性が高い。それを消してしまえば、残るはインセクトキングとリザードマンキングだけ。しかも今リザードマンキングはカルカス湿原で冒険者達による大規模討伐の真っ只中にあるから、おのずとインセクトキングが魔王となる筋書きが出来る訳か。


「それで俺達を待っていたと? 村や町の人達を襲っていないのもそれが理由で? 」


「そうだ、全ては交渉を有利に進める為」


「共にオークキングを打ち倒すのは結構ですが、その後はどうするのですか? 」


「知れたこと、魔王となりて人間共を滅ぼし、魔物だけの楽園を築き上げる」


 やっぱりそうなるんだね。


「一応聞きますが、共存の意思はありませんか? 」


「有り得ないな。魔王を目指し、人間を殺す事が私の生まれた理由。これは神に与えられた使命であり己の存在意義である」


 神と聞いてオルトンが一歩踏み出した。


「あくまでも神の意思に従っていると言うのか? 魔物である貴様が」


「教会の者よ、私ほど敬虔な信徒はいないと思うがね。これは神が望まれた事なのだ。それを全うする事こそが、最上の喜びであり誉れでもある。お前にも分かる筈だ…… しかし、オークキングはどうだ? 愚かにも神を否定するカーミラとかいう人間にいい様に利用され、傀儡と成り果てた。キング種の誇りを捨てた恥さらしだ! そんな奴が魔王になど、断じて許せるものではない!! 」


 インセクトキングの神への信心とそれを貶めるカーミラとオークキングへの怒りは本物だ。


「協力してくれるなら、お前達の国を滅ぼすのは最後にしてやっても良いぞ? 」


 人類を滅するのはもう確定事項のようだ。どうする? ここはオークキングだけでも確実に仕留める方向にいくのが良いのか、それとも今インセクトキングと戦うか……


「決めるのなら早くしてほしい。此方もゆっくりとはしてられなくてね。今クイーンアント達が全勢力を持ってオークキングを抑えているが、それも時間の問題だろう」


 やっぱりオークキングも巣穴に来ていたか。大規模討伐には間に合わず、オークキングとインセクトキングがぶつかった。想定してた中で最悪の状況だ。


 唯一想定外だったのは、インセクトキングがカーミラに敵対心を抱いているという事。今巣穴に来ているオークキングを倒すのに手を組むのが正解か?


 俺は共に此処まで歩んだ仲間達に目を向ける。


「どっちを選んでも、私はライルを守るだけよ」


「我々はライル様の判断に身を委ねる所存です」


「我はどちらでも構わぬ。最終的に二体共仕留めればいいだけだ」


「おっ! 今回は意見が合ったね。インセクトキングなんか利用し終わったら、さっさとやっつけちゃえば良いのよ! 」


 クレス達も俺に判断を委ねるように、力強く頷いてくれた。この決断が吉と出るか凶と出るかは分からない。だけど、最善だと信じたい。


 俺はインセクトキングへと向き直り、答えを出した。


「分かりました。共にオークキングを討ちましょう」

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