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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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「それじゃ、本当にインセクトキングが? 」


「はい。オルトンさんの直感を信じていますので、まず間違いないかと…… 」


 俺達はアンネの精霊魔法で急ぎ臨時拠点へ戻り、グラン達冒険者に事情を説明して撤退の用意をお願いする。


「まぁ、こっちもそれなりに稼げたから撤退に異議はないが、お前らだけで大丈夫なのか? 」

「おい! 大丈夫って言ってんだから放っておけよ。インセクトキングなんか俺達じゃどうにもならん。俺はまだ死にたくねぇからな」

「グランが言うには何が策があるんだろ? なら邪魔にならないように大人しく帰ろうぜ? 」


 冒険者グループのリーダー達が軽く揉め出した。どうやら俺達を残していくのに引け目を感じているようだ。


「止せ! 当の本人達が望んでんだ。ここは彼等を信じて帰るしかない」


 グランの言葉とその仲間達の威圧で、それまで言い争っていた者達が押し黙る。



「すみません、グランさん」


「この提案をしてきたのはあんたらだ。俺達はそれに従うよ。それから、例の約束忘れんなよ? 」


 冒険者達が各々荷物を纏めて帰還の魔道具で地上の野営地へ戻るのを見届け、俺達は再びあの通路へとやって来た。


 オルトンの直感が正しければこの先にインセクトキングがいる。緊張で心臓が波打ち、汗が滲む。自然と呼吸は荒くなり、足に重りでも付いているかのように歩みは遅くなる。


 前に進めば進むほど、俺にも段々と感じてきた。この精神的圧迫感、ゴブリンキングやアンデッドキングと対峙した時にも感じたものだ。


 そしてとうとう俺は視てしまった。広い空間に佇む一つの強大な魔力の塊を。


 いた…… こんな恐ろしい魔力、間違いなくインセクトキングだ。


『我がいる、臆する事はない』


『そうですとも我が主よ。その御身は私が必ずお守り致します』


『相棒! アンデッドキングと同じように、ボコボコにしちまおうぜ! 』


『ムウナ、がんばる! だから、あんしん、する! 』


『わたしも最初から全力でいくわ…… 兄様を傷付けるものは許さない…… 』


 オレの不安と恐れが魔力を通じて伝わったのか、魔力収納にいる皆が勇気づけてくれる。


「おいおい、そんな顔してどうしたの? あたしがいるんだから問題ないっしょ! 」


「大丈夫よ、ライル。私が守ってあげるから…… この前みたいに無茶しなければね」


「我ら一同、この命に賭けてライル様の盾となることを今一度誓いましょう! 」


 インセクトキングを目前として気合いが入っているね。頼もしい限りだよ。それからエレミア、一人で突っ込んだ事をまだ根に持ってるんだな。


「うむ! 皆、気合い十分で勇ましいな! 私も負けてはいられん!! 」


「…… 戦力的に考えれば、此方が有利。…… 何も恐れる事はない 」


「そう言ってる間に着いたみたいだよ。多分あそこに見える明かりが、インセクトキングがいる空洞じゃないかな? 」


 クレスが指差す方に、例の光苔の明かりが見える。俺達は誰からともなく足を止めていた。無言で顔を見合わせ、一歩を踏み出す。少しずつ近付く明かりに覚悟を決め、空洞内へと入っていく。


 そこは今までとは違い、かなりの広さで天井も高い。そして配下の魔物達が至る所に控えており、その中心に奴はいた。


 昆虫のような外骨格を持ち、二本の足と四本の腕、手には鋭い鉤爪が三本生えているだけ。額と頭の天辺に先が二又に分かれた大きな角があり、顔は昆虫そのものだが、胴体は人間に近い。見るからに固そうな前羽が背中を覆っているインセクトキングが、ポイズンピルバグズの背中に座っていた。


 分かりやすく言うのなら、二本足で立つスリムなカブトムシって感じだな。前世の世界で昆虫の王と呼ばれていた虫が、インセクトキングとは…… 似合いすぎてて逆に安直でさえと思ってしまう。


 しかしその身から発せられる圧倒的強者の気配と魔力に、誰もが口を閉ざしたまま開こうとはしない。一応キング種は話が出来る程の知能があると聞いているが、インセクトキングもそうなのだろうか? とは言っても虫だからな。今までの虫達の行動を鑑みて理性的な印象を受けたんだけど、いざ本人―― 本虫? ―― を目の前にすると、とてもそうは見えない。


 どうする? このまま戦闘を始めるか、それとも何か一声掛けた方が良いのか?


 全然向こうから仕掛けてくる気配がないので、此方もどう対処したら良いのか決めあぐねていると、インセクトキングがポイズンピルバグズの背中から降りて此方へゆっくりと歩いてくる。


 動きを見せたインセクトキングに俺達の警戒と緊張が跳ね上がる。来るか? 誰もがそう思い身構えた時、インセクトキングは立ち止まりその場で佇んだ。


「ようこそ、調停者とその仲間達よ。待っていた」


 お、おぉ…… もろカブトムシの頭なのに流暢に話すもんだね。思わず面食らってしまったよ。っていうか、調停者? 待っていた? もう分からない事だらけで頭がプチパニックを起こしている。


 流石はインセクトキング、たった一言でここまで俺の心を乱してくるとは、恐るべし!


『いや、ライルが勝手に混乱しているだけではないか』


 ギルさん。そんな冷静なツッコミは今求めておりません。

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