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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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66

 

 冒険者と協力して突き進む事二日、だいぶ奥まで来た。


 食料や駄目になった武具の処分、魔物の素材を売る為以外は地上に出ずひたすらに進んでは戦う日々。この二日間で何名かの冒険者が脱落した。とは言っても怪我や死んだ訳じゃなくて、単にずっと地下で戦い続けるのに疲れたというだけ。


 こんな日の光が届かないところで、凶悪な虫の魔物達を相手にしていれば心も病んでくるよ。参加は強制ではないし、これ以上は無理だと思ったら遠慮なく地上に戻っても構わない。





『やっぱり変だわ…… この巣穴の規模からして迎え撃ってくる魔物の数が合わない気がするの…… 出し惜しみしているようにも思えないし、此方の戦力を分析しているのだとしてもとっくに終わっている筈…… なのに、昨日から防衛に出る魔物の数が減っているのはどうして? 』


 出発前の何時ものミーティングで、レイチェルが最近の魔物について疑問を呈する。確かに、俺もそれは気になっていた。ある日を境にいきなり空洞内で待ち伏せしている魔物の数が明らかに激減している。


 レイチェルが懸念している事を周りに伝えると、グランは難しい顔して目にかかる前髪をかきあげる。


「俺達を誘ってやがるのか、それとも魔物の数を減らさなきゃならない事情でもあるのかね? 」


「それはどう言った事情が想定出来ますか? 」


「さてね…… 単純に考えれば、俺達に差し向ける魔物の数を減らしてでも対処しなくちゃならない状況になった。つまり、此方より優先して排除したい何者かがこの巣穴に侵入したとかかな? 」


 俺達よりも防衛を減らしてでも倒したい相手…… それってもしかして――


『―― オークキングが巣穴に来ている…… 』


 俺とレイチェルがそう思うように、オルトンとクレスも同じようで浮かない表情をしていた。急に黙り混む俺達に、グランは訝しげな視線を向ける。


「どうやら心当たりがあるようだな。もしかして、それが俺達にインセクトキングの相手をさせたくない理由か? 」


 本当にグランは察しが良い。出来るならオークキングについては黙っておきたかった。奴の説明をするなら、魔王誕生の仕組みまで言わないと彼は納得しないだろう。そうすると済し崩し的に神によるマッチポンプで魔物と人間の戦争が行われているのが分かってしまう。


 世の中、知らない方が良いこともある。例え知ったとしても、この世界で生きる限りどうしようもない。そうなるとカーミラのように神を、世界を恨んでしまうかも。でも、問われてしまえば俺は話すだろう。こんなことを進んで伝えたいとは思わないが、故意に黙ってもいられない。


「あぁ、別に説明をしろとは言わないよ。俺達の手に余るってんだろ? なら、知らなくて良い」


「すみません、グランさん。協力してもらっているのに、本来ならきちんと事情を説明しなくてはならないと思っているのですが…… 」


「気にしなさんな。言いにくい事の一つや二つ、誰にでもあるもんさ」


 うぅ…… 慰められてしまった。本当に申し訳ない気持ちで一杯だよ。今すぐにでも全部吐露してしまいたいが、彼等を巻き込む訳にはいかない。



「いや、ライル様。魔王については話しても宜しいのでは? どのみち魔王が誕生してしまえば、世界規模での戦争となりますので、彼等も無関係ではいられません」


 そうか。魔王が誕生するのなら、魔物との戦争にグラン達も参加せざるを得ない。


「ん? 何やら聞き捨てならない事を…… 魔王誕生だって? 」


 さて、どう話すべきか悩んでいたら、代わりにオルトンが上手い具合いに神やカーミラの事を避けて説明してくれた。


「へぇ、それが魔王になる条件か…… となると、ここに残り三体の内の二体がいるかも知れないって事だな? 成る程、こりゃ俺達の手に負えんわな。分かった、他の奴等には俺から上手く言っておく、こんな所で死にたくないからな。それから、魔王が誕生して魔物との戦争が始まるってんなら、その準備も早目にしておきたい」


「ありがとうございます。グランさんにはお世話になりっぱなしで、申し訳ないです」


「そう思うんなら、後で何かご馳走してくれ。そうだな…… インファネースで高級魚介料理とか良いかもな。だからよ、死ぬんじゃねぇぞ? 」


「はい。とびっきりなのをご用意しますよ」


 そいつは楽しみだと、グランは屈託のない笑顔を浮かべた。




 ◇




「ライル、やっぱりおかしいわ。ここまで一度も魔物が襲ってこないなんて」


 臨時拠点を出発して通路を進んでいるが、今までだったら既に魔物による妨害があったのに、それがなく不気味なくらいに静かだ。魔力で確認しても、魔物らしいものは一つも視えやしない。そんな様子にエレミアは更に警戒を強めていた。


 と、その時。不意にオルトンが立ち止まる。


「ライル様、一度拠点に戻って冒険者達を地上に戻しましょう」


 何故かと問う前に、オルトンの荒い呼吸と恐怖に彩る瞳に察してしまった。この先にオルトンがそこまで恐れる存在がいる。それはもう必然的にインセクトキングしか考えられない。


 ふぅ、遂にここまで来たか。長い道のりだった…… これからインセクトキングと対峙する。挑んで来たとはいえ、やはり恐ろしくもある。キング種と戦うのはこれで二度目だけど、ちっとも慣れる気がしないよ。

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