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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 翌日。朝食を済ませた俺達は、荷物の整理をしながら昨日提案を持ち掛けた冒険者を待っていた。


「遅いね。もしかして来ないのかも」


「いや、もう少し待ちましょうクレスさん。此方も細かい時間を指定した訳ではないですし」


 とは言ったものの、正直俺も不安ではある。本当に誰も来なかったらどうしよう。


『その時はギル達の力を借りるだけよ…… 此方の戦力を出し惜しみなく攻めれば、インセクトキングまでは行けるわ…… 問題は疲弊した状態で戦う事になる可能性が高いという事ね…… 』


 レイチェルが言ったように、それが一番の懸念事項なんだよね。今目指している中央部にある空白地帯も、怪しいってだけで必ずしもそこにインセクトキングがいるとは断言出来ない。


 もう少し待っても冒険者達が来なかったら、神官騎士達全員を引き連れ、ギル達の力も借りて突き進むしかない。


 半ば諦めかけていた時、前方から複数の魔力が此方へ向かってくるのが視える。



「悪い、待たせたか? でも時間指定しなかったそっちも悪いぜ」


「グランさん、来てくれたんですね? それに他の方達も」


 昨日テントに集まってくれた冒険者グループのリーダー全員が、自分の仲間を連れて来てくれた。思わず顔が綻ぶ俺を見て、グランはニヤリと悪戯な笑みを向けてくる。


「喜ぶにはまだ早いぜ? ほら、よく見てみな」


 俺は疑問符を浮かべ、グラン達が来た方向へ目を向ける。すると、かなり大規模の集団が歩いてくるでないか!? え? あれ全部が冒険者? いや、俺が話を持ち掛けたのは此処にいる人達だけで、他の冒険者が此処にくる理由なんて…… 俺は問い質そうとグランに顔を戻す。


「昨日あの後仲間内で相談したんがな…… なんでその場で了承しなかったんだって怒られちまったよ。思ってたよりすんなりと決まったんで、他の奴等も誘ってみたんだが迷惑だったか? 」


「いえ、人数は多いに越したことはありません。有り難う御座います」


 マジか…… あの人数、野営地を利用している冒険者全員が集まってるんじゃないか? それをグランが連れてきてくれた。いったいどんな風に誘ったのだろうか?


「こいつはここいらでちょっとばかし有名でな。実力はないが先を見抜く事に優れてて、“先見のグラン” なんて呼ばれてる。そいつが今回の提案を飲むってんなら、何かしらの旨味があるって事だ。俺達が便乗しない理由はないよな? ま、それを抜きにしても俺は来たがな。神官騎士と共同戦線なんて面白そうだからよ」


「そうそう。今来ている連中も俺達と同じ考えなんじゃねぇか。あのグランに誘われたら期待しちまうからな」


「それによ、いい加減あの虫共にはうんざりしていたところだ。ここらで一気に叩くのも悪かねぇ」


 他の冒険者グループのリーダーも結構乗り気だったんだな。それにしても先見のグラン、か。ただ者ではないと思ってたけど、有名人だったんだね。


 で、当の本人は仲間から二つ名をからかわれて赤面している。どうやら不本意な異名らしい。


「と、とにかく! これだけいれば巣穴の攻略もかなりの速度で進めるだろう。インセクトキングだってすぐに見つけられるさ」


「グランさん、そのことなんですが…… もしインセクトキングを発見出来たなら、俺達に任せて貰えませんか? 」


 数で押せばインセクトキングを倒せるのかも知れない。だけどその場合に被る此方の被害はどれ程のものになるのだろう。冒険者の方達に失礼だから口に出しては言えないけど、ギルやムウナ、必要ならテオドアとゲイリッヒを加えた俺達なら、大した被害もなく倒せるのではないかと思う。


「…… 心配しなくても大丈夫さ。ここにいる冒険者はシルバーやゴールドといった中級ばかり。インセクトキングとやり合おうって奴はいないよ。だから遠慮せずにやってくれ。何か秘策があるんだろ? そうじゃなきゃ、こんな無理に進めようとはしないからな」


 こっちの事情も知らないのに、よくそこまで見通せるね。流石は先見のグランだ。


「だから、その呼び名は止めてくれ。そんな大層な奴じゃねぇんだよ。弱い俺が生き残るのには、知恵と勘を鍛えるしか無かっただけさ」


 剣と魔法の才能が無いと分かっても、腐らずそれに代わる武器を探した結界が今の二つ名になっている。弱いだなんてとんでもない、充分に強いよ。だからこそ、仲間だけじゃなく他の冒険者にも信用されるんだろうな。



 結構な大所帯にはなったが、改めてアンネを紹介した後に今回の作戦の説明して、自分のテントまたはマジックテントを持ち、アンネの精霊魔法で発現した空間の歪みを通る。


 最初こそ驚いていた冒険者達だったが、すぐに空洞内でテントを張り始めた。流石は冒険者、順応性に優れているね。


 俺の方もこの空洞に作った拠点を守る為、野営地に神官騎士を十名残し、他は全て連れてきている。その中にはあの若き神官騎士もいて、また共に戦えることを喜んでいた。何だか妙に張りきっているのでそれとなく聞いたところ、どうやら神官騎士達の間で俺がコマンダーアントを倒そうと無理に突っ込みエレミアに叱られた話が広まって、余計に目が離せなくなったのだとか。


 きっとオルトンが情報共有の為に話したんだな? せめてエレミアに正座させられた事は黙ってて貰いたかったね。ほら、有り難いとは言っても、やっぱり人に話されると恥ずかしいんだよ。



 テントも張り終わり、結界の魔道具を四隅に設置すれば拠点の完成である。それを見届けたあと、俺達は中心部を目指して出発した。



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