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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 コマンダーアントを倒した事により、統率力を著しく低下したアリ達を殲滅するのに、そう大して時間は掛からなかった。


 タブリスとムウナとアンネが、特訓の続きだと言って魔力収納に戻ってしまったのは痛かったけど、どうにかアリ達との戦闘を終わらせ、今俺は大量の死骸が散乱している空洞のど真ん中で正座をさせらている。


「いくら魔力収納にアンネ様やギルがいるからって、完全に安全とは限らないのよ? もう二度とあんな無茶はしないでって言ったわよね? 」


「はい、軽率でした。申し訳御座いません」


「本当に反省してるの? 封印の遺跡の時だって、無茶して危うく廃人になりかけたのを忘れたんじゃないわよね? 凄く心配したんだから! 」


 えぇ…… 今更あの時の事を持ち出しちゃうの? いえ、ちゃんと反省してます。すいませんでした。


 エレミアが言うようにギル達が魔力収納にいるから絶対に安全だという保証はない。だが、俺だって何も闇雲に突貫していった訳ではないし、例え大きな怪我を負う事態になったとしても意識さえあれば魔力支配の力で治せるので、死亡するリスクはかなり低かったと思う。


 でもそれは自分の心の中で留める事にして甘んじてエレミアの説教を受けている。本気で心配して怒ってくれている人への言い訳は却って相手を逆上させてしまう。



 こうして怒られるのは久し振りだ。前世では大人になってから自分の為に怒ってくれる人なんていなかった。自分本意で怒鳴り散らす人はいたけど、俺の為を思って説教してくれるのは両親と中学の担任ぐらいだ。


 この世界に生まれ変わっても前世の記憶があるからか、クラリスに注意はされたが怒られるなんて事はなく、我ながら聞き分けの良すぎる子供だったな。


 フフ…… こうやって叱られるのを有り難いと感じる日がくるなんて思わなかったよ。


「何笑ってるの? 私は今本気で怒ってるのよ」


 おっといけない、つい口元が緩んでしまった。それをエレミアに見咎められ、説教は延長戦に突入する。


 そんな俺とエレミアに、周りの人達は苦笑しつつもアリ達から魔核を回収している。誰も俺の援護に回る気はないらしい。


 もうこれでもかと謝り倒して一応はエレミアに許しを貰え、下手したらアリとの戦闘よりも長い説教を無事乗り越えて、俺達は野営地へと戻ってきた。



 ふぅ、まさかオルトンまでにも小言を言われてしまうとは。まぁ守るべき対象が敵に突っ込んで行ったんだから、何も言わない訳にいかないのは分かるよ? でもいやに丁寧な口調で淡々と諭してくるのは、有り難くもあるけどちょっと怖かったな。


「エレミアさんもオルトンさんも、ライル様を大切に思うからこそ、厳しくなってしまうのです。私だって言いたい事はありますが、ライル様はお疲れのご様子ですのでまたの機会にさせて頂きますね」


 ハハ…… その機会が来ない事を祈ってるよ。アグネーゼのお説教って、物凄く長いイメージがあるからね。




「おぉ! ライルさん、戻って来てたのですね。丁度良かった、少しお時間宜しいですか? 」


「ん? どうかなさいましたか? 」


「いや、銅貨が少し心許なくなってきましてね。町まで戻るのもあれですので、両替をお願い出来ないかと」


 あれから更に俺達の野営地を利用する冒険者が増え、柵も新しくして広げたので、もう集落のようになっている。


 人が集まる所に商機あり。これを商工ギルドが見過ごす訳はなく、急遽簡易的ではあるが、出張ギルドとしてここへやってきた。その責任者兼従業員が、町で俺を担当してくれたこのギルド職員さんである。


「いいですよ。銅貨は余っていますので」


「いやぁ、助かります。それにしても、ライルさんが神官騎士達と巣穴の調査に出ているとは驚きましたが、同時に安心もしました」


「その節はご助言頂き有り難う御座いました」


「いえいえ、此方こそ大量の食料を卸してもらいましたので。お陰様で冬を越す目処が立って町の者達も喜んでおりますよ」


 では冒険者さん達が待っていますので失礼します―― と、ギルド職員は去っていく。彼の此処での仕事は、魔物素材の買い取りと回復薬や各種解毒薬といった薬の販売、それと武具の取り寄せも行っている。


 商工ギルドが来たお陰で、冒険者達は余程の事がない限り町へ戻らなくなり、森や巣穴に行く頻度は更に上がっていった。加えて帰還の魔道具で安全に撤退出来るので怪我を負う者の少なく、もし大怪我をしたとしても、神官騎士達による回復魔法が待っている。


 なので今のところ巣穴の攻略で目立った被害はなく、地図には新しい道が少しずつだが確実に書き足されていく。


「やっと巣の全体がぼんやりと見え始めてきたね」


 マジックテントの中で、テーブルの上に広げた地図を眺めながらクレスが呟く。


「見てください。この中央部分の大きな空白を…… 三つある入り口は全て此処へと繋がっているようです。明らかにインセクトキングがいる場所だと考えられませんか? 」


「しかしオルトンさん。これは流石に露骨過ぎませんかね? 罠という可能性もあるのでは? 」


 そんな俺の発言に、オルトンは成る程と難しい顔を浮かべる。


「確かにライル君の言うように罠かも知れないし、オルトンさんが正しくインセクトキングが此処にいるかも知れない。両方可能性があるのなら、調べてみるしかないよ。僕らにはあまり時間がないからね。リザードマンの大規模討伐が始まったんだからさ」


 そう、俺達には時間がない。つい先日、ガストールからマナフォンで大規模討伐作戦が明日行われるとの連絡があった。


 つまりは今正に始まってる頃だろう。リザードマンキングを討つまでに何れだけの時間が掛かるのか分からないが、今日明日に片がつくとは思えない。オークの大規模討伐の時は、一週間掛けてオークキングを追い詰めていったとクレスから聞いているし、今回もそれぐらいは掛かると見込んでいる。


 それでも時間が十分にあるとは言えない。本来ならこの規模の巣穴の調査、攻略には軽く見積もっても一ヶ月は必要だ。それをあと一週間足らずでやろうってんだから、強行軍もいいところだよ。



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