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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 タブリスとレイチェルが戦闘に加わり、アリ達を仕留める速度が上がってその数を減らしていくが、それと同じに此方の体力も削られていく。


『右奥にコマンダーアント! 』


『分かったわ! 』


『…… 了解』


『今度こそ仕留めてみせる…… 』


 俺がコマンダーアントの魔力を覚え、何処にいるかエレミア達に魔力念話で教える。エレミアも義眼の効果で魔力を視る事は可能だが解析までは不可能。なので魔力だけで個の判別までは出来ない。


 とにかく今は指揮官であるコマンダーアントを倒して、この統率力を奪う必要がある。


 エレミア達が指示通りの場所に魔術と魔法を放つ。しかし、その時にはもうコマンダーアントは移動してて当たらない。


 いくら魔力念話で伝えたとしても、攻撃に移るまでの僅かな時間で逃げられてしまう。


 エレミアとレイチェル、あのリリィでさえも苛立ちを隠せなくなってきている。これは不味いな…… ここで冷静を欠いてしまったら向こうの思うつぼだ。


 相手の動きを予測して魔法を放たなければならないけど、俺は魔法が使えないし、魔術だって魔道具を使わなければならない。エレミア達は魔法や魔術で遠距離から攻撃出来るけど、コマンダーアントの動きを捉えられない。


 はぁ…… やっぱり動きが視える俺が多少強引にでもやるしかないか。覚悟を決めて、全員に魔力念話で伝達する。


『俺がコマンダーアントを仕留めますので、出来るだけ援護をお願いします! 』


 そう伝えると同時に魔力飛行で地面から少しだけ浮かせて進む。アリ達の上を飛んで行けば、シューターアントが飛ばしてくる蟻酸の良い的になってしまうので、強行突破になるが仕方ない。


『なっ!? 危険です、ライル様! お戻りを!! 』


『ライル! 無茶しないで!! 』


 オルトンとエレミアが俺を止めようとし、他の人達も驚いていたが、すぐにアリ達から俺を守るように攻撃を開始する。


『ライル君がコマンダーアントに辿り着くまで守りきるんだ! 』


『うむ! ライル殿の道を私達で切り開いて見せようぞ! 』


 レイシアが土魔法でソルジャーアント達を土壁で分断し、それをクレスが光魔法のレーザーで焼き貫く。


 お陰でソルジャーアントが減って道が出来た。後はあのシールドアントを抜けるだけ。


「長よ! オレに任せてくれ!! 」


 いつの間にか俺の横でタブリスが追走していた。


「あたしも手伝っちゃおうかな! これもライルの良い訓練になるよね? 男らしくバシッ! と決めて来ちゃいなよ!! 」


「ライル! ムウナも、てつだう。がんば! 」


 タブリスの槍がシールドアントの硬い甲殻を貫き、鉄壁の布陣を切り崩す。そこにアンネの風の精霊魔法がアリ達を下から吹き上げていき、落ちてくる所にムウナが触手の先端を変化させた顎を大きく開いて丸呑みにする。中からあの硬い体を力ずくで砕く音が聞こえてきて、中で何が起こっているのか想像するだけで身が凍る思いだよ。


 とにかく、これで道は開いた。コマンダーアントまでもう少しのところで、シューターアントの蟻酸が俺に向かって飛んでくる。


 おっと、そんなのは予測済みだよ。あまり舐めないでくれないかな? 俺だって何時も守られてばかりじゃいられない。それなりに身を守る用意はしてきている。


 魔力収納から防壁の魔術を刻んだ魔宝石を仕込んだタワーシールドを二つ取り出して、魔力で操りつつ魔術を発動させた。


 左右に浮かぶ二つの盾から半透明の壁が盾全体を覆うように発現し、蟻酸を防ぎながらも前に進むのを止めない。


 今はシューターアントに構っている暇はない。このままコマンダーアントまで一直線だ。奴は俺の接近に気付き、アリ達の中に潜んで距離を取ろうとしているが、生憎と俺からは丸見えなんだよ。


 コマンダーアントの動きはお世辞にも速いとは言えなく、これなら俺でも十分に追い付けるな。


 だけど、コマンダーアントを守る為、シールドアントとシューターアントが俺の行く手を阻んでくる。


 くそっ! あと少しなのに…… こうなったらもう奴等の上を飛んで行くしかない。


 そう決断して地面から離れ高度を上げると、まるで待っていたかのように蟻酸が俺に集中して放たれる。それを防壁の魔術を発動した盾で身を守り、集中砲火の中を半ばヤケクソになって突き進んだ先に奴がいた。


 遂に肉眼で確認したぞこの野郎! よくもこそこそと逃げ回ってくれたな。いい加減鬱陶しいから、ここらでご退場願いましょうか?


 俺は盾の一つの魔力収納に仕舞い、代わりにミスリルで作った弾丸を取り出しては、回転を加えて今も逃げるのを止めないコマンダーアントに発射させる。


 しかし、近くにいたシューターアントが庇い出て、ミスリルの弾丸はコマンダーアントには当たらない。


 幸いなのはソルジャーとシールドに比べてシューターアントの甲殻はそれほど堅くなく、ミスリルでも十分に通用する。そしてコマンダーアントを庇う事から、奴の体もそんなに頑丈でないと推察できる。


 ならばやる事は決まっている。当たらなければ当たるまで弾丸を飛ばしまくるだけだ。俺は魔力収納にあるミスリル弾丸をありったけコマンダーアントに向かって発射させていく。


 勿体ないけど、後で回収するから別にいい。もっと強く、速く、回転速度も強めて貫通力を高め、庇うシューターアントごとコマンダーアントを狙う。


 何十発―― いや、もう何百発は放ったか。やっとコマンダーアントの体を穴だらけにして仕留める事に成功した。


 指揮官を失ったアリ達の統率力が目に見えて低下して動きに纏まりが無くなってくる。ここまでくれば後は残りを倒すだけなんだが、ここで気を抜いてはいけない。


 何故なら、物凄い形相で此方に向かってくるエレミアの姿があるからだ。


 うわぁ…… あれは相当怒ってるぞ。どうしよう、俺もコマンダーアントのように身を隠して逃げ回りたい気分だよ。

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