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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 翌朝。オルトンにまだ森へと行かず野営地に残っている冒険者達を集め、昨晩作成したばかりの帰還の魔道具について説明し配布する旨を伝えてもらう。


 初めこそは、そんな都合の良い物があるのか? と、皆疑っていたが、神官騎士が実際に使用して見せた事でその有用性を証明し、ある程度は信用を得られたようだ。


「そんな便利な魔道具をくれるってんなら有り難く貰うけどよ…… 金を取らないってのは、何か裏があるんじゃないかと勘繰りしてしまって、なんか気持ちが悪い。良ければどうして俺達にそこまでしてくれるのか説明してくれると嬉しいんだがな」


 この発言をした冒険者には見覚えがある。マーダーマンティスを倒し、いち早く野営地の使用料について訪ねてきたあの冒険者だ。


「我々は現在、巣穴の調査をしているのだが…… そこにインセクトキングがいる可能性が極めて高く、早急に調べる必要がある。だが、思っていたより巣穴の内部は複雑に入り組んでおり、我々だけではどうにも時間が掛かってしまう。そこで諸君ら冒険者達を利用させてもらおうと考えたのだ」


 オルトンさん、ぶっちゃけ過ぎ。そこはもっと遠回しに言えなかったんですか?


「ふぅん、俺達を利用する代わりに安全は野営地と帰還の魔道具を提供するという訳か。どうしてギルドに正式な依頼を出さない? 」


「申し訳ないが、じぶんにはそれに答える権限はない」


 毅然とした態度のオルトンに冒険者達は仲間内で相談を始める。如何にも訳ありだと言い放つ様子に、各々思う所があるのは当然だね。


「ま、聖教国は中立を重んじると聞いているから、何処かの国と共謀しているとは考えられない。インセクトキングが生きてちゃ世界にとってなんか悪いって事か? そっち方面は俺達にはあまり関係ないし、金が稼げて生活に困らなければ問題はない…… 良いぜ、あんたらに協力してやるよ。インセクトキングがあの巣穴にいるってんなら、見つけ出して報告すれば良いんだろ? 」


 やっぱりこの人は凄いな。オルトンのあの説明だけでそこまで理解してしまうのか。冒険者ってのはこれが普通のなのかね?


「ライル君。何か勘違いしているようだから言うけど、あそこまで頭の回転が早いのは、冒険者の中でもそうそういるもんじゃないよ」


 疑問が顔に出ていたのか、クレスがそっと教えてくれた。


 どうやら彼が突出しているだけのようで、そこまで優秀な冒険者はそんなにいないらしい。


 彼のグループが協力を了承したのを切っ掛けに、他の冒険者グループも納得し始める。


 これは神官騎士であるオルトンが前に出て説明したのが効果的だった。もしそれが俺だったなら、こんな見た目怪しい商人の言うことなんか信用されなかっただろう。長年中立を貫いてきた実績があるからこそ、聖教国は信用に値すると誰もが認める国へとなった。


 改めて、世界に一つだけという宗教の強みを思い知ったよ。魔法スキルを通じて神の存在を感じる事が出来るこの世界では、他の宗教は生まれにくい。前世でのカトリックとプロテスタントのように、せいぜい幾つかの宗派に別れるくらいかな。


 まぁそれはともかく、この場にいた冒険者全員が帰還の魔道具を受け取ってくれて、こちらの狙い通りに事は運んでいる。使い捨てなので、これから毎晩魔道具を作成する必要があるけど、最初に沢山作っておいたから余裕があるので、もう徹夜ギリギリにはならないだろう。


 残りの魔道具を野営地護衛の神官騎士達に預かってもらい、ここにはいなかった冒険者に配るようにと頼んだ。


 良し、また顔触れが変わった九人の神官騎士と何時ものメンバーで巣穴攻略を開始する。


 冒険者達の協力も得られたので、インセクトキングの早期の発見が期待出来そうだ。だからと言って此方も気を抜くつもりはない。冒険者達の実力を疑う訳ではないけど、時間を掛ければ掛けるほど彼等が犠牲になる危険は上がっていく。


 ムウナ、ギル、アンネ、ゲイリッヒという桁違いの強者がいる此方が一番インセクトキングを倒せる可能性が高いのは事実。しかし、冒険者達に先に発見したのなら無理せず逃げてくださいとは言えない。彼等だってプロだ。自分達の力量を弁えて、手に負えないと判断したなら迷わず退却するのは当たり前で、それを商人である俺が態々言うのは失礼に値する言動だ。


『最終的な目的はインセクトキングの討伐だが、目下の課題として長には体力強化に努めて貰わないと。流石にそのままではインセクトキングと対峙した時、若干の不安がある』


『そうね…… 帰還の魔道具のお陰で冒険者達の進行速度はぐんと上がる筈よ…… 多少兄様の訓練に時間を割いたとしても問題はないと思うわ…… 』


 へ? なにやらタブリスとレイチェルが不吉な事を言ってるな。もしかしてこれからは俺も前衛で戦えってことですか?


『むぅ…… ライル、がんばる。ムウナ、でばんない? 』


 いやいや、そんな気を使わず遠慮なく出てきてくれても良いんだよ?


『そだねー。ライルが頑張るって言うから、暫くはムウナの出番はないかなぁ? 』


 おい、アンネ。俺は頑張るなんて言ってないぞ? あっ! さてはデザートワインを目印にしてる腹いせに意地悪してるのか?


 あぁ…… 魔道具を作る事で少しは楽になると思ったのに、自分の首を締める結果となってしまった。はっ!? こんな考えではいけない。ついつい楽な方へと思考が傾いてしまう。これだからエレミアにサボり癖があるなんて言われてしまうんだ。


 俺は覚悟を決め直し、アンネの精霊魔法で現れた空間の歪みを通って先へと歩き出す。


 でも、グラコックローチがまた出たらその時はお願いします。

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