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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 悪夢だ…… 男の子の姿をしたムウナに、グラコックローチが群れを為して襲いかかる光景は悪夢以外何ものでもない。


 そんなグラコックローチを掌から出す糸で絡み取り、動きを封じた所で触手の先端を無数の牙を生やした顎に変化させ、バリバリと喰らっていく。


 しかしムウナ一人では、グラコックローチの数は一向に減る様子が見えない。


 おかしい、俺が魔力で確認した時はこんなに多くはなかった。もう一度結界の中から周囲の魔力を視てみると、天井から小さな魔力が此処へ集まって来るのを確認した。


 肉眼で確かめれば、天井に幾つか穴が空いていて、そこからグラコックローチがワラワラと出て来ている。きっとあの穴の奥には信じられないくらいの数で待機しているのだろう。


 くそっ! すっかり失念していた。虫専用の移動通路があってもおかしくはないと少し考えれば分かる筈なのに。


 一匹見たら百匹はいると言われるグラコックローチ。今この空洞にいるのだけでおおよそ二百匹、そしてまだ天井の穴から続々と追加のグラコックローチがやって来る。


 いったいどれだけいるんだ? 流石のムウナでもこれ全部を食べるなんて出来るのだろうか? よしんば出来たとしても、かなりのタイムロスになる。


「ムウナだけに任せる訳にはいかない。僕らも加勢しないと」


「うむ! 正直、あれに剣を振り下ろしたくはないが、このまま見てる訳にもいかんからな! 」


 そう言って、クレスとレイシアが結界から走り出る。マジかよ…… よくあんな地獄に自ら飛び込めるな。


「…… ライル、魔力収納にいるレイチェルとアンネに協力を求めたい。…… 魔法と魔術で結界の中から奴等の数を減らす」


「結界の中から? オルトンさん、リリィの言うような事が可能なのですか? 」


「はい、問題ありません! 」


 力強く断言するオルトンに、リリィは満足気に首肯く。


 外からの攻撃は防いで中からは通すなんて、結界魔法というのはそんなに都合がよいものなのか。


 俺はリリィの要望に応え、魔力収納にいるレイチェルとアンネに協力を願う。


『おうおう! カサカサうるせぇ虫共め、やってやんよ!! 』


『分かった…… 兄様とリリィの頼みなら断れない…… それに、あのグラコックローチをもっと良く観察したいと思ってたの…… あれを小さくすれば、鼠より潜入調査しやすそうだわ…… 』


 それって、闇魔法で小さなグラコックローチを作るって事? まんまGじゃねぇか!? お願いだから絶対に俺の店には入ってこないでよ!


 魔力収納から気合い十分のアンネと、探究心に溢れたレイチェルが姿を現す。


「あれは今まで見てきた中で一番嫌いな魔物ね。こんな気持ち悪いのがいるなんて初めて知ったわ…… 知りたくなかったけど」


 エレミアに新たなトラウマを植え付けるとは…… 流石はグラコックローチ、恐るべし!


 それと、さっきから一言も発しないアグネーゼが心配だ。立ったまま気絶してないよね? もしもーし、大丈夫ですかー?


「ラ、ライル様…… これは、現実ですか? グ、グラコックローチがこんなに…… 」


 あ、意識はあるみたいだね。


「顔色が酷い事になってるよ? 無理しないで魔力収納に入る? 」


「い、い、いいえ! お役に立てないのは存じておりますが、皆さんが頑張っているのに、私だけが安全な場所に待避なんて、出来よう筈が御座いません! 」


 真っ青を通りして真っ白な顔して虚勢を張るアグネーゼ。そんなに無理しなくても、誰も咎めないのに。



 結界の外ではムウナとクレスとレイシアが、結界の中からはリリィとエレミア、それとアンネとレイチェルがグラコックローチを仕留めていく。数こそ多いけれど、一匹一匹はそう強くもない。


 だが、その数が問題であり、いくら倒しても天井の穴から湧いて出てくる。これでは此方の体力と気力が持たない。あの穴の向こうにいるグラコックローチを一気に仕留めたいところだけど、どうやってそこに攻撃を加えれば良いのか……


『だったら俺様が行ってやろうか? 』


 悩む俺に、魔力収納にいるテオドアが名乗り出た。


『テオドアが? 何か算段でもあるのか? 』


『まぁ単純なんだが、俺様が穴の向こうまで行って、あの虫共を全部殺しちまえば良いんだろ? 相棒の魔力があれば、俺様の魔術で瞬殺だぜ! 』


 レイスであるテオドアなら、天井や壁などすり抜ける事が出来る。俺が魔力の補充さえしていれば、テオドアの魔術でグラコックローチを一掃出来るかも。


『確かに、それなら十分に勝機はある。だけど、神官騎士に見付からないように頼むよ? テオドアもアンデッドなんだからさ』


『わーってるよ。姿を消したまま出てくりゃ良いだけだろ? 任せろって』


 テオドアは魔力で構築されている体を薄くさせ、完全に透明になり魔力収納から出てきた。


「んじゃ、ちょっくら行ってくる。魔力は任せたぜ、相棒! 」


 俺の魔力を繋げたまま、テオドアは今もなおグラコックローチが湧いて出る天井の奥へと消えていく。


 オルトン達がテオドアの存在に気付いたかどうかはちょっと判断できないけど、まぁ緊急事態だから仕方ない。ギルが本来の姿で暴れられたなら、すぐにでも片がつくものなのだが、生憎とこの空洞はそこまで広くはない。人化しててもいいから参戦してもらおうかな?


『人化した我が一人加わった所で差ほど変わらんだろう。こう狭くてはブレスも吐けん』


『口惜しいですが、ここはテオドアに任せるしかありませんね。同じアンデッドなのに、申し訳御座いません。我が主よ』


 傍観を決め込むギルの横で、ゲイリッヒが悔しそうに拳を握っていた。


 ヴァンパイアはレイスみたいに姿を消せないから、どうしようもないよ。俺も丸ノコと鉄を加工して作った弾丸で一匹でも多くのグラコックローチを仕留めようと頑張ってはいるけど、役に立ってる気がしない。


 

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