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翌日。クレス達とオルトン、他入れ替わった九人の神官騎士達とジャイアントセンチピードルがいた空洞へと戻る。
先に神官騎士達が確認をしてくれたが、魔物の待ち伏せはなく、安全に移動できた。
「はぁ~! 無事で良かった、あたしのデザートワインちゃん! ほら、ライル! 早く仕舞って!! 」
はいはい、今仕舞いますよ。壁に埋め込んだデザートワインの樽と結界の魔道具を魔力収納に入れて、先へと進んでいく。
昨日と違った顔触れなのだけど、皆同じ鎧とフルフェイスの兜をしているもんだから全然そんな感じがしない。
「オルトンさんだけは毎回来るんですね? 」
「勿論です。隊長として前線の指揮を任されていますので」
前と同じ布陣で通路を歩き、襲ってくる魔物達を撃破しつつ特に問題もなく歩いていく。
やがてお馴染みとなった光苔の灯りが見え、空洞には何時もの如く待ち構えている魔物達。
「またソルジャーアントか? 」
最初の空洞にいた巨大アリの集団が列を為して俺達と対面している訳だが、良く見ると別個体も混じっている。ソルジャーアントは謂わばスタンダードな感じで、普通のアリがそのまま大きくなったかのような見た目。その中に、えらく外骨格が発達して鎧のようにゴツゴツとした体のアリ達が先頭にいる。
「……あれはシールドアント。鎧のように硬く発達した体で剣も魔法も弾くと言われている。…… だけど代わりに爪と牙が退化しているので攻撃力はさほどない」
まるで神官騎士みたいな奴等だな。なんて口に出したらオルトン達に怒られそうなので心の中に留めておく。
しかし、兵士に盾役か…… まるで軍隊のようだな。
「本来、この魔物はクイーンアントを中心にワーカー、ソルジャー、シールド、コマンダー、ジョイント、メディック、シューター、ボマーと名のついたアリ達で構成されています。数が揃えば一国と同じ軍事力を持つと言われ、見つけ次第巣を根絶させないと多大なる被害を被る事になる恐ろしい魔物です」
盾を構え警戒をしたまま、オルトンがそう説明してくれた。
そんなに種類がいたのは驚きだけど、ここにはソルジャーとシールドしかいない。
『恐らく、此方の戦力を見極めようとしているのかも…… 初めはソルジャーアントだけで駄目だったから、今度は盾を用意したのね…… 多分次はコマンダーアントあたりでも来るんじゃないかしら? 』
うへぇ、それは面倒この上ない。でも、こいつらを突破しないと先へは進めないので仕方ないか。
さてはて、向こうはソルジャーアントとシールドアントが大体六:四ぐらいの割合でじっと此方の出方をうかがっている。ソルジャーアントだけの時と違って随分と慎重だ。
「ライル様。ここは魔法で先手を打ち、ソルジャーアントだけを一気に削ってしまいましょう。守りだけのシールドアントだけならば、さしたる問題にはなりません」
「なるほど、ではそれで行きましょう」
この戦いは、魔法や魔術が主体になりそうだ。となると、ムウナの出番はお預けかな?
『むぅ、ざんねん』
『それじゃ、今度はわたしが兄様に良いところを見せる番ね…… 』
そう言うと、レイチェルは魔力収納から出て魔力を練り上げる。それを見たリリィ、クレス、エレミアもタイミングを合わせるように魔法と魔術の準備を始めた。
此方の異変を察知したのか、ソルジャーアントとシールドアント達が一斉に走り出した! お互いの距離はそんなに離れていないとは言え、魔法と魔術を放つ時間くらいはある。
「我等がアリ共を抑えます故、クレス殿達は魔法の手を緩めないで頂きたい! お前達、結界魔法でライル様達の周りを固めろ! 決して中に入れるな!! 」
オルトンの指示で、九人の神官騎士が俺達の周りを囲い、結界魔法を発動する。これで何処から襲われても結界が俺達の身を守ってくれる。魔力も俺が随時補給するので大丈夫だけど、彼等の気力がどれだけ持つかが問題だ。
勢い良く突進してきたシールドアントに、神官騎士達に激しい衝撃が襲う。あの鎧みたいに発達した体でぶつかってこられたら、普通の人間は吹っ飛ぶだけでは済まないだろう。リリィ、何が攻撃力に乏しいだよ。
「目標確認…… 座標設定よし…… 兄様、見て……、これがわたしの修行の成果よ…… 」
結界魔法に防がれ、硬直しているシールドアントと何匹かのソルジャーアントの真下から、黒い靄が発生する。
すると、その靄から何か鋭利な物が回転しながら、アリ達を下から貫いた。
ソンジャーアントは、レイチェルの魔法で足はバラバラになり、体に大穴を空けられ死亡している。意外だったのはシールドアントも怪我を負い、息絶えていたことだ。
「どう? 兄様のドリルを参考にしてみたの…… あのアリ達は確かに固いけど、足のつけ根がある下部分は柔らかく損傷しやすいのよ……」
そう、真っ黒いドリルがアリ達を下から穿ったのだ。まさかポイズンピルバグズに使ったドリルを真似されるとはね。
レイチェルの魔法に続き、リリィの火炎魔術がシールドアントを蒸し焼きにし、クレスの光魔法がアリ達を焼き切り、エレミアの雷魔法が容赦なく降り注ぐ。
おぉ…… 各自違う属性の魔法と魔術を放つので、中々に派手な事になっていて、これは見ごたえがある。
神官騎士達の結界の中で、俺は呑気にもそんな感想を抱いていた。