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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 さて、いよいよ二つ目の空洞へとやって来たのだが…… そこに待ち構えていたのは、鉱山町で相手をしたあのジャイアントセンチピードルだ。懐かしの巨大ムカデの群れが空洞に犇めき合っている光景は、エレミアの嫌な記憶を呼び起こすには十分だった。


「はぁ、二度と会いたく無かったけど、仕方ないわね。ライル、一度戦った相手なんだから、勝手は分かるわよね? 」


 今回は俺のダイエットも兼ねて、積極的に戦闘へ参加しなくてはならない。その旨を予めオルトン達に伝えると、動きやすいようにとあの若き神官騎士ともう一人、計二人の神官騎士を護衛につけてもらい、ご武運をと送り出される。


 えぇ…… 止めてくれるのを少しは期待してたんだけど、体を鍛えるのは良い事です、なんてオルトンも乗り気だったのは想定外だったよ。


 そんな訳で、今俺達は二班に別れてジャイアントセンチピードルの相手をしている。


 オルトン率いる神官騎士達とクレス達の三人が前衛で敵を抑え、そこから溢れた奴を俺とエレミアにムウナ、それと護衛の神官騎士二人が倒すという流れだ。まあ、神官騎士は守りに徹しているから攻撃はしないけど。アグネーゼは今回魔力収納で待機し、レイチェルと一緒に見守ってくれている。


「ライル、ムウナがつかまえる。とどめ、さす」


 オルトン達を抜けて此方に近寄ってくるジャイアントセンチピードルを、ムウナが覚えたての糸を掌から射出させ絡み取っていく。


 因みに千年前に食らって集めた魔物の遺伝情報についてだが、ドワーフが管理していた封印の遺跡で、人間達の負の思念に肉体を乗っ取られたムウナに俺の精神が引き摺り込まれ、本体と共に脱出した時、殆どの情報を向こうの肉体に置いてきてしまったらしい。


 残っていたのは、ギルと初めに取り込んだ男の子と幾つかの魔物の情報だけだったという。




 糸で雁字搦(がんじがら)めになっている所に、俺の丸ノコがジャイアントセンチピードルの体の切り刻む。もうこれは作業だな。


「ムウナ、これじゃあライルの運動にはならないわ。糸で動きを封じるのは控えてくれる? 」


「これは、ライルのため、ならない? なら、いとはやめる」


 えっ!? ちょっとスパルタ過ぎじゃありませんか? うわっ、危ね! ムウナの糸が無くなった途端にこれだよ。こいつら、本能的に俺が一番殺しやすいと分かってるな?


 迫り来るジャイアントセンチピードルの牙を魔力飛行を駆使してどうにか避けるが、一度に数匹も来られたんじゃちと厳しい。いや、魔力的には余裕があるけど心の余裕はないんだよ。


 それにしてもなんでこうも敵の攻撃が俺の所に? 神官騎士の二人が守ってくれてる筈だよな?


 疑問に思って二人の方に視線を向けると、なんと! わざと数匹だけ此方に通していたのを俺は見逃さなかった。守ってくれるって言ったよね? この裏切りもの!


「も、申し訳ありません! エレミアさんから頼まれまして…… ライル様を鍛えるには、これぐらいしないと駄目だと」


 おのれ、エレミア! 流石にこれはスパルタの域を越えていると思うんですけど!? 下手すれば虐待だぞ?


 うわぁぁ! ムカデの牙が! 足が! 絶えず目の前に向かってくるぅぅ!!


 あ、こりゃ駄目だ。ブンッ! と横から迫ってくるムカデの尻尾に避けられないと覚悟した時、エレミアの放った電撃で動きが止まる。その隙に丸ノコで刻んで事なきを得たが、生きた心地がしなかったよ。


「だから私が守るって言ったでしょ? 」


 さいですか…… ならもう少し近くで守ってくれませんかね? なんでそんなに離れてるんですか?


「ほら、近くにいたらライルはまた楽しようとするわよね? 貴方はサボり癖があるから、このぐらいしないと動かないでしょ? 」


 効率を重視していると言って貰いたいね。それに、エレミアだって気持ち悪いから極力ムカデに近づきたくないってのが本音なんじゃない? 遠距離から魔法だけで仕留めているのがその証拠だよ。


 胡乱(うろん)げな目をエレミアに向けると、そっと視線を剃らす。はい、確定! 後で覚えてろよぉ。



『ライル様、ダイエットは辛く厳しいもの。ここが正念場ですよ! 』


 お、おぅ。なんかアグネーゼからえらく気合いの入った声援が送られてくるんだが?


『兄様、女性なら誰もが一度は通る道…… その辛さと挫折はきっと男性よりかは理解出来ると思うわ…… 』


 そ、そうなの? もしかして、レイチェルも――


『―― それは乙女の秘密よ、兄様…… 』


 食い気味にそう言われてはもう何も聞けない。前世ではダイエットってしたことなかったけど、こんなに厳しいものなんだな。


 体型の維持にたゆまぬ努力をしている世の女性達を称賛しつつ、エレミアの掩護を受けながらジャイアントセンチピードルを仕留めていく。


 まぁ、殆どはムウナの胃袋に収まっている訳だが、十分過ぎるほどに良い運動にはなったと思う。


 うぅ、汗でべとべとする。魔力支配のスキルを使えば、汗や汚れだけを分離出来るが、それでは味気ない。あぁ、お風呂に入ってさっぱりしたいな。


 ジャイアントセンチピードルの死骸と体液と血が散乱している空洞の中で、俺は切にそう願う。

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