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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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 持ってて良かった洗浄の魔道具。そいつで一通り体を綺麗にしたクレス達は、自分の匂いを確かめては満足そうに首肯く。


 あっ、それとアサシンスパイダーなんだけど、気付いたら既に全部ムウナの腹へと収まっていた。魔力解析で色々と調べたかったんだけど、しょうがない。最初にエレミアが仕留めてくれた一匹だけでも解析してみるか。


「それも、もうたべた。ごめん」


 えっ!? 食べちゃったの? まぁ、この先また出てくるかもしれないから、その時は少し残してくれるの助かるかな。


「ライル様、その男子は我々の味方でよろしいのですよね? 何か得体の知れない禍々しい気配を感じます」


 ムウナを見たオルトンが完全に警戒している。それとムウナの戦いっ振りを直接目の当たりにした神官騎士達も、恐怖の色を隠せないでいた。


「少し怖いかも知れませんが、ムウナは頼りになる俺の仲間です。皆さんに危害は加えないのでご安心を」


 とは言ってみたものの、そう簡単に信用は出来ないよね? 追々と慣れていってもらうしかない。


「ライル様がそこまで信頼を寄せているのなら、我々も努力致します。ですが、戦闘以外は魔力収納にいてもらえませんか? その気配が強すぎて敵の接近に気付きづらくなってしまいます」


 俺は分からないけど、オルトンにはムウナの禍々しいオーラで感覚が鈍ってしまうみたいだ。悪いけどムウナにはまた魔力収納に入ってもらっても良いかな?


「わかった。ムウナ、もどる。またむしでたら、よんで」


 ムウナが大人しく魔力収納に戻るのを確認した神官騎士達はホッと安心したように息を吐く。こんなに聞き分けが良い子なのに、彼らにしか分からないものがムウナにはあるのかね?


 さてと、先に進みたいのだけれど…… 通路を塞いでいるこの悲惨なポイズンピルバグズの死骸をどうにかしないとな。


 うわぁ、改めて見ると惨いな。これがテレビだったら、全身モザイクは避けられないだろう。とにかく邪魔なので魔力収納に仕舞って先に進む。


 歩いている最中にポイズンピルバグズから魔核を取り出してみた。あの大きさだから、さぞかしご立派な魔核なんだろうと期待してたんだが、ゴブリンのと大差ない大きさだったのでガッカリだよ。体の大きさと魔核の大きさは、必ずしも比例するとは限らないらしい。




『ライル、みてみて! 』


 ムウナが何やら楽しげに俺を呼ぶので意識を向けると、掌から白い糸を出して遊でいた。


 え、なにそれ? 映画の某蜘蛛人間みたいで格好良いね!


『恐らくアサシンスパイダーを食べた事により、蜘蛛本来の糸を作る器官を作れるようになったみたい…… ほんとにムウナは未知の存在だわ…… 興味が尽きないわね…… 』


 まだ糸で遊ぶムウナを、レイチェルは頻りに観察している。どっちも楽しそうで何よりだよ。


「? ライル様、顔色が明るいですね。何か嬉しい事でも? 」


 ムウナとレイチェルの様子に思わずクスッとしたのが、後ろに控えている神官騎士に見られてしまったようだ。


「いえ、魔力収納内でちょっとありましてね」


「魔力収納…… 話には伺っておりますが、それだけでは想像出来ませんでした。一体どんな所なんですか? 」


 どんな所? う~ん、なんて答えれば良いものか……


「とても素晴らしい空間です。雄大な大地には花が咲き誇り、澄んだ湖の傍でアルラウネ達が心安らかに過ごし、それをマナの大樹が優しく見守っておられます。魔物も人間も、種族問わず安らげる、そういった世界がライル様の中に広がっておられるのです」


「おぉ! 正に教典にあった神の世界ではありませんか! 素晴らしい、我々の求める世界の理想が既にライル様の中に存在しているのですね? 」


 アグネーゼの大袈裟な説明によって若き神官騎士だけなく、後ろで聞いていた他の神官騎士達の目も輝き出した。


 ちょっと!? アグネーゼさん? そんなにハードルを上げないでくれませんか? 期待が大きい分、いざ招待してみたら予想とかけ離れていて、それで失望なんかされたら目も当てられないよ。


「大丈夫です。これでも控え目に表現したのですよ? 」


 そう自信ありげにアグネーゼは言う。あれで控え目とは…… 彼女の中での魔力収納はどんな事になっているのやら。






「ライル様、もうすぐ次の空洞に着くようです」


 オルトンが指差す方には、うっすらとした明かりが見える。ソルジャーアントがいた所と同じように光苔の灯りだ。


「ここからでは距離があって魔力は視えませんが、何か聞こえますか? 」


「いえ、別段争っているような音は聞こえません。ですが、先の事を鑑みるに、魔物の待ち伏せがあると思って良いかと」


 そうだな、何もないなんて事はないだろう。でも冒険者がいないのは都合がいい。思いっきりムウナを暴れさせられるからね。


『何がいるか分からないけど、よろしく頼むよ。ムウナ』


『うん! いっぱいたべれて、たのしい』


 最近、運動不足気味だったからか、やたら機嫌が良い。やっぱりムウナにも適度な運動は必要だな。


『今の長にも運動が必要だぞ? まだまだ無駄な肉があるからな』


 げっ! ダイエット中だというのを忘れてた。タブリスさん、こういう時ぐらいは勘弁してもらえませんかね? ほら、俺って今神官騎士達に守られる立場だから、派手な行動は控えた方が良いよね?


「大丈夫。私がついてるから、安心して体を引き締めようね」


 おぅ…… エレミアさん、聞いてたんですか? まいったな、次は楽出来そうもないようだ。

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