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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十五幕】望まぬ邂逅と魔王誕生
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『これは、アサシンスパイダーね…… 音と気配を消すのが得意で、その存在に気付いた頃には懐に潜り込まれている厄介な魔物よ…… 魔力を視認できる兄様じゃなければ危なかったわ…… 』


 隠密が得意とは言え、自身に備わっている魔力までは消せないようだ。だから接近される前に見付けられたのか。だけど、その蜘蛛は一匹ではなく、ざっと見ただけで数十匹は天井に張り付いてワサワサと動いている。


 守りは後方にいる神官騎士がしてくれるが、前方にはポイズンピルバグズもいる。触角は危険だけど動きは鈍いダンゴムシにはクレスとリリィに任せ、蜘蛛達には俺とエレミアで対応すれば良いか? いや、こんな密集している場所では丸ノコは使いづらいな。ここは剣にしておいた方が良いだろう。


『ライル、つぎから、ムウナでる、いった! 』


 おっと、そう言えばそんな事を言ったな。すっかり頭から抜けていたよ。じゃあ、蜘蛛はムウナに任せて、エレミアにはクレス達と一緒にダンゴムシをお願いするよ。


「分かったわ。貴方達、ライルをお願いね」


「この命に代えましても、守り抜いて見せます! 」


 若き神官騎士の言葉に満足したのか、エレミアはダンゴムシに向かって行った。


 いやいや、その覚悟は認めるけどさ、君らの命を盾にする気はないからね!? 本当に自分の命を犠牲にしてしまいそうなので、早めにやっちゃって下さいよ、ムウナさん。


『わかった。ムウナに、おまかせ! 』


 魔力収納から男の子姿のムウナが飛び出し、背中から服を突き破り触手を伸ばす。あぁ、また上着をそんなにして…… まぁ簡単に直せるから良いけどさ。


 伸びてくる触手を蜘蛛達は天井や壁を移動して躱し、鎌状に変化している左右の前足で切りつけてくる。


「よくきれる、けど、それだけ。いたくも、かゆくもない」


 しかし、それをものともしないムウナは触手の先端をサンドワームの口に変えて掃除機のように吸い込んでいく。吸い込まれたアサシンスパイダーは、中に隙間なく生えている牙によって磨り潰されてムウナの胃袋へと送られる。


 蜘蛛の断末魔と肉の磨り潰す音が響き、俺達の精神をガリガリと削っていく。どうしてもムウナが出ると精神的ダメージを負ってしまう。あっ、神官騎士の一人があまりの気持ち悪さに、オエって吐きそうになってるよ。ゴメンね、あれでも頼りになる俺の仲間なんです。


 さて、蜘蛛はこのままムウナ一人でも大丈夫そうだ。ダンゴムシの方はどうかな?


「触角がそっちにいったぞ! 鎧があるからと油断するなよ! 」


 ダンゴムシ自体はその大きさで小回りは利かないが、機敏に動く二本の長い触角に苦戦しているみたいだ。先端からは毒液が滲み出て、振り回す度に撒き散らされ思うように動けないでいる。あれが目に入って毒が回れば、全身から血が吹き出て死んでしまうので慎重にならざる得ない。


 前で奮闘するレイシアとオルトン達の後では、クレス、リリィ、エレミアが魔術と魔法で攻撃を仕掛ける。


 クレスの光魔法で作った槍がダンゴムシの固い背中を、その高温でじわじわと焼いていき、リリィの氷魔術が体力を奪っていく。そしてエレミアの雷魔法でダメージを上乗せする。


 デカイ図体しているだけはあって、かなりしぶとい。魔力は俺が補充いているから魔力切れの心配はないが、本人達の疲労が問題だ。ここで時間をかけてしまうとこの先体力が持たなくなる。


『ライル、我の牙で作った物があるだろう? ドリル、とか言ったか? それなら他の者の邪魔にはならないと思うが? 』


 あ、そういやそんな物も作ったな。俺は魔力収納からギルの牙を加工した先の尖ったドリルを取り出す。


 それを魔力で操り、あのダンゴムシの広い背中まで飛ばしたら、回転させて一気に捩じ込む! ゴリゴリと固い物を削る音と共に甲殻に穴を開けていく。そして体内まで届いたのか、削れていく甲殻の破片と一緒に青い液体が飛び散る。


 へぇ、この世界でもダンゴムシの血は青いんだな。なんて変に関心を寄せていると、エレミアが背中に空いた穴へと雷撃を撃ち込んだ。


 体の内部から痺れたダンゴムシは激しく痙攣し、甲殻全体に罅が広がっていく。あれほど激しく暴れていた触角も完全に動きを止めて、今ではだらんと地面に垂れ下がっているだけ。


 そこへ止めと言わんばかりにエレミアが追撃の雷魔法を放つと、ダンゴムシの背中が内側から弾け飛ぶように爆ぜた。


 殻と肉と青い血の雨が俺達の上から降り注ぎ、辺りはもう悲惨な状況だよ。うへぇ…… もう気分は最悪だ。唯一の救いと言えば、神官騎士の結界魔法のお陰で汚れなかったことかな。


「危ない所でしたね、ライル様」


「ありがとうございます。お陰で汚れずに済みました」


 だけど、ダンゴムシの近くにいたレイシアとクレス、リリィは避けられなかったようで、モロに肉片と血をあびてしまったようだ。


 オルトン達は自分の結界魔法で防ぎ、エレミアはいち早く危険を察知して爆ぜる前に俺の傍まで退避していたので被害は無い。


「エレミア、これはちょっと酷くはないかい? 」


「私の鎧が…… うぅ、この臭い、洗って落ちるのか? 」


「…… 青い血とは珍しい。後で研究用に採取しておこう」


 あのレイシアでさえもテンション駄々下がりなのに対して、リリィは通常運転だね。


 そんな三人の様子に、エレミアは気まずそうな顔を俺に向けてくる。


 え? 俺があれをどうにかするの? 出来なくはないけど、あまり近付きたくはないよね。

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